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283.断罪は休憩を挟んで

 狙撃? またか。つい先日も中央の国でリアムと一緒にいた時に飛んできたな。ライフルらしき弾を見つめ、唖然としている人の視線を無視して拾い上げた。くしゃりと頭が潰れているのは、柔らかい金属を使ったんだろう。結界の硬さだけじゃない。


 長距離狙撃じゃないのかな? 弾を手のひらの上に乗せて転がすと、レイルがひょいっと奪っていった。じっくり確認して、鉛入りだと眉を顰める。あ、それ……確実に殺しにきてる奴だな。


『主様、すこし失礼いたします』


 丁寧に言い残し、スノーが開いた窓から飛び出した。直後、大きなドラゴン姿に戻る。羽ばたいた衝撃で窓ガラスがすごい音を立てた。


「うるさいぃ」


 謝る声が念話で届いたので、気をつけていくよう返した。悪気はなかったみたいだ。全員が耳を押さえている状況で、オレは握った己の拳に気づいた。


 がさっと手の中の紙が音を立てる。さきほどマロンに渡された紙片だ。何か書かれているが、持ってきた本人がいないので状況がわからなかった。渡されてからずっと握ったままだったので、くしゃくしゃに潰れている。爆音の衝撃から立ち直ってもらうまで、することがないから紙を丁寧に開いた。


 気をつけないと破きそうだ。広げた紙には何かの指示が書かれていた。待ち合わせかな? 場所と時間、ターゲット。時間は幅があって、3時間くらい……ん?


「何を……お前、それ寄越せ」


「いいよ」


 最後に難しい署名が記された紙は、透かし模様も入っていた。一般的に考えて、何かの指示書だろう。レイルは署名をじっくり確認し、それからピアスの向こうにいくつか命じた。そのまま紙をポケットに仕舞う。マロンのやつ、何を拾ってきたんだ?


 ようやく耳から手を離した貴族や国王へ、視線を戻す。レイルが大きく手を広げ、優雅に一礼してみせた。これは発言を国王に願い出る所作だったか。他の貴族は無視して勝手に話してた。どれだけ北の王家が舐められてるか、よくわかるな。にやにやして様子見をしてる貴族を確認し、じいやにリスト作成をお願いした。


「レイル、発言を許す」


 昔は王弟の息子だから公爵子息としての肩書はあったが、今は王族に復活していても継承権は5位と低い。なにしろ、血の繋がらないオレが間に入ってるくらいだ。ちなみにオレは3位で、シンとヴィオラの次だった。


「はい。今の狙撃ですが、犯人が判明致しました」


「申してみよ」


「……アホラ公爵の御子息が」


「ばかなっ! 証拠もなく愚弄するか。反逆者の息子の分際で、我が息子をっ!!」


「黙れ」


 ぴしゃりと言い放ったのは、国王ではなくシンだった。怒りで顔が赤くなっている。和解した従兄弟を庇うのが半分、会話に割り込まれた無礼への怒りが半分か。リアムと顔を見合わせ、オレが一歩踏み出した。


「陛下、よろしいでしょうか」


 無言で頷く。パパと呼べって? だから、このシリアスな場面じゃ無理。首を横に振って要望をはね除ける。しょんぼりしてないで国王として威厳を見せろ!


「実行犯を聖獣のスノーが捕まえに行きましたので、少し休憩を挟みませんか?」


 喜色満面で頷くアホラ公爵とお取り巻きらしき貴族の方々……オレが塩を送った理由をきちんと理解しろ。早い段階で謝罪しないと、潰すぞ。聖獣が物理的に、精神面はレイルとオレが。


 休廷ならぬ休憩のため、さっさと謁見の広間を出た。オレと手を繋ぐリアムが「わくわくする」と手を揺らすので、きゅっと握りながら「任せてよ」と請け負った。気合入れて断罪するぞ!



 休憩用の客間は、元は他国の王侯貴族や使者が来た時の控え室を兼ねているらしい。落ち着いた雰囲気ながら、壁に意味不明のタペストリーが飾られていた。うねうねしてる赤い紐がコウコ、かな? うーんと唸りながら鑑賞していると、後ろから肩を叩かれた。


「キヨ、大丈夫なのか? レイルが突然変なことを言い出すし」


 胃が痛い。そう訴えるシンの青ざめた表情に、オレは笑顔で返した。


「問題ない。さっき物的証拠も見つけたし、確証があるんだろ。それと……証拠がなくても断罪するからな。あの無礼はいい加減おかしい」


「他国のこととはいえ、王家への敬意が全く感じられませんでしたね。見ていて不愉快です」


 シフェルはむっとした口調でぼやき、妻のクリスティーンが宥める。あ、そうだ。今のうちにクリスティーンには着替えてもらわないと! その話をしたら、国王陛下である義父が隣室を貸してくれた。収納に着替えがあると言ってたけど、シフェルの奴……いつもクリスティーンの服を持ち歩いてるのか? 下着も? けしからん、オレもリアムのを持ち歩くことにしよう。


「我が君、あのような輩は処分致しましょう」


「ベルナルドは落ち着いて。オレの娯楽のために我慢してよ。徹底的に尊厳を奪ってやるから」


 不満そうにしながらも、それならお任せしますと引くところが臣下っぽい。こういう部分がまったくない北の国の現状は、何が原因だったのか。尋ねるオレに、義父は口籠った。他国の人間もいるからか?


「オレはまだパパに信用されてない」


 そう呟いて目元をハンカチで押さえたら、イチコロだった。ちょろすぎるぞ、パパ。


「我が息子キヨヒトを信用しないはずがあるまい! 北の王家は先代である父の代に大きな失政をした。聖獣殿が離れた時期に、大旱魃があり飢饉に見舞われたのだ。その際に王家は蓄えをすべて放出して、民の食糧を買い漁った」


「その話なら存じておりますぞ。見事なお覚悟と感服した反面、我が父が財政を案じておりました」


 ベルナルドが気の毒そうに援護する。他国の侯爵に心配されるほど、金を使ったってことか。民を飢えさせないため、国庫を開いて足りない分を王族の資産で賄った。見事な覚悟だ。


「……私も聞いています。その後……貴族達が増長した原因は、王家が彼らに金を借りたことと」


 リアムも人伝に聞いたと濁しながら、口を開いた。中央の国の諜報は他国に比べ優れている。それは隠している裏の話も筒抜けという意味だ。


「死んだ先代国王が立派なのはよく分かった。で、借りた金は全部返せたの?」


 問題点はここにある。全額返したなら、貴族は王家に対して強く出られない。まだ残額があるから、王家を押さえ込もうと強気で画策した。


「後少しなのだ」


 肩を落とした国王の呟きに、シンがぎゅっと拳を握った。第一王子は王位継承権の頂点に立つ。にもかかわらず、臣下である貴族に侮られてきた。王弟の叛逆がそこに油を注いだ形だろう。身内で争った際に、戦うための兵はどうやって集めた? 王弟自身がそれほどの資産を持っているはずがなく、都合よく担ぎ出した貴族が貸し付けた可能性がある。王位を奪ったら返してくれればいい、と。


 利子や催促のない借金ほど怖いものはない。連帯保証人と一緒で、いつ全額返済を求められるか分からないんだから。王弟はそれを理解していなかった。もしかしたら、兄王は金を隠しているとでも吹き込まれたか。どちらにしても、返す当てのない借金は身を滅ぼす。


「金額、どのくらい?」


 迷う父王を一瞥したシンが金額を指で示した。少し考える。オレが持ってる金をかき集めて同額くらいか。うん、作戦としてはいけるな。


「オレが北の王家を買い取るっての、どう思う?」


 尋ねた先で、じいやがにっこりと笑って肯定した。


「素晴らしい()()()でございます」


「受け取れない」


 きっぱり断るシンにオレは肩をすくめた。心配そうだったリアムの表情が明るくなる。オレの考えが予測できたみたいだ。


「安心してよ、シンに渡すんじゃないから」


「キヨ、独断の前に説明をしなさい」


 着飾った公爵夫人を伴い戻ったシフェルは、どこから話を聞いていたのか。にやりと笑う表情から、止められることはないと思う。オレは手短に作戦会議を始めた。

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