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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第33章 断罪劇、いっちゃう?

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281.血筋がどうしたって?

 聖獣が潜む影は、生きた者が入れない。その対象にはオレも含まれるわけで、中に引き摺り込まれた時点で生存は不可能だった。オレも仕組みはまだ理解してないが、ヒジリの説明だと「魔力貯蔵庫」と考えるのが近いらしい。契約した聖獣の魔力は主人に引き継がれ共有するため、その中に聖獣は入れるのだとか。


『処分したぁ』


 のったりと寝そべる青猫の間延びした声は、どこか緊張感を欠く。だが彼の言う処分は、全部殺したのと同意語だった。無礼な貴族を片付け、コウコはまた小型のチビ龍に戻る。蛇サイズでベルナルドの腕に絡み付いた。


『この筋肉、いいわ』


 オレが許すから、もう契約先を変更しろよ。苦笑いして、邪魔者が消えた大広間を見回す。一部震えている貴族が残っているが、彼らは余計な口を開く余裕はなさそうだった。


 オレが直接魔法をぶつけたりすれば、北の王家の無作法扱いされるだろう。責任を取れと言われたかもしれない。だが聖獣の言動は、国の最優先命令と同じだった。国王や皇帝より地位が高い聖獣が、自ら手を下した。逆に名誉なくらいかもな。


「い、いまのは」


 震えながら、なんとか口を開いたのは宰相だった。貴族達の陰で見えなかったが、もしかしてお前も敵か? それとも潜入してただけか。どっちでもいいけど、リアムへの無礼や失礼は見逃さないからな。


「聖獣達の主人であるオレが、唯一膝を突いて愛を乞う女性に対して暴言を吐いた。当然の結果です、そうですね……シン兄様、お父様」


「うむ。その通りだ」


 国王らしい受け答えだが、何か言いたそうだ。パパと呼んでくれ? それはこの場じゃ無理だろ。場所とタイミングを考えろっての。まあ、聞き届けるかは別だけど。


「ごめんね、リア姫。いえ……皇帝陛下」


 リア姫と呼んだどこぞの姫君が、中央の皇帝陛下だと暴露する。生き残った貴族から吹聴してもらうのが目的だ。青ざめた顔色で、リアムの顔とオレを見比べる連中の中に、さらに血の気の引いた奴が数人いた。どうやら皇帝陛下の絵姿を見知っているようだ。


「私的な集まりだ。場を移すか」


 集まった貴族を睥睨し、シンが重々しく口を開く。この場で私的な話が出来ないと言い切った。押しかけ部外者が多すぎる。だが、ここで虎の尾を踏むバカが出た。いや……この世界では黒豹の尾かもしれない。


「そこの小童が王族なら、私は王家の正当な血筋の公爵ですぞ。なぜ私ではないのですか!」


 いい歳したおじさんだ。やや腹が出ており、頭はまだふさふさしてた。まあ、義父も髪は無事なので……王家の血筋にハゲはいないらしい。シンもレイルも良かったな。的外れなことを考えながら、オレの口元が笑みを浮かべた。


 生け贄って――本当に向こうから飛び込んでくるものみたいだ。


「ドキドキする」


 すっかり立ち直ったリアムも少し興奮気味だ。日本人会の伯爵令嬢パウラことアイリに、異世界のざまぁ小説を聞かせてもらったらしい。最近仲が良くて妬けるくらいだけど、そのざまぁ展開がお気に召したそうだ。ならば披露して楽しませるのが、婚約者としての義務、いや権利だな。


「血筋? それって、そんなに大事か?」


「大切に決まっている! 血筋で聖獣様との契約が継続されているのだ」


「ふーん。でもオレ、5匹の聖獣すべてと契約してるけど……誰とも血が繋がってないぞ」


『主殿との契約は、皇族との契約より上位ぞ』


 いいタイミングでヒジリが口を挟む。悔しそうに唇を噛む姿が、いと哀れなり……あれ? 使い方が違う。いとをかし、だっけ? 古文は成績底辺だったな。余計なことに思考が逃げていく。正直、この男じゃ物足りなかった。これじゃ、立派なざまぁ展開ができない。


「下賤な生まれ育ちを自白するとは」


「下賤? あのさ、オレがコウコに命じて北の国の契約を解除したとする。あんた、明日から平民だぞ。それと自分の国の民を含め、平民を下賤と呼ぶのは品位がないな」


「あんただと?!」


 え? あれだけのセリフで、そこに引っかかるの? 自分の呼ばれ方より、契約解除とかじゃなくて……?? 何なの、バカなの? あ、バカなのか。命運を握る相手に叫んで喧嘩売るなんて、動物以下だった。しかも聖獣ヒジリの言葉を聞き流しやがったぞ。


「シン兄様、処分していい?」


「聖獣殿が認めれば、処分するのが当然だろう」


 王家の正当な血筋とやらがどこまで濃いのか知らんが、王位継承権がレイルより下って時点で結果は出ていた。彼は不要だ。この国にも……シンの治世にも。


『主、僕に頂戴』


 わくわくうきうき、獲物を見つけた猫の顔で強請るブラウだが、その前に権利を主張する聖獣がいた。


『え? 僕にも分けてください。ずるいです』


 遊び道具なら分けてくれと言い出したマロンが、ポニー姿で足踏みする。あれか、子どもが地団駄踏む感じ。なんとも可愛くて「いいぞ」と許したくなるじゃないか。


『あたくしが貰うわ。マロンも手伝って』


 上手にマロンの気持ちを汲んだコウコがそう言うなら、任せるのが一番だろう。彼女のいう通り、北の国は彼女の領域だからね。


「いいよ」


 大喜びで巨大化したコウコが、びびって頭を抱える男を外へ跳ね飛ばした。あの尻尾でのワンパン、すごい威力だぞ。シフェルと顔を見合わせてしまった。あれは敵わない。逆に目を輝かせて「さすがコウコ様」と興奮するベルナルド、お前、本当にコウコと相性いいな。


「あれで終わりか?」


 残念そうなリアムの呟きに、オレより早く反応した奴がいた。謁見の間にいる貴族はがくぶるで立てなくなっているが、外から乱入した奴は事情を知らない。ご新規の貴族は、自ら大声で名乗った。


「北の王家を支えるアホラ公爵が参りましたぞ、陛下。この無礼な輩は私が処分いたしますゆえ、ご安心ください」


 額を押さえる義父が、体内全てを絞り出したかと思う巨大な溜め息をつく。ついでに肩が落ちた。あれれ? もしかしてこっちが本命か。


「アホな公爵?」


 煽るには、貴族ご自慢の家名を弄るのが早い。とにかく家柄と血筋しか誇る場所がないんだから。強いて言えば、ご先祖様のおかげで金に困ってなくて、美人を嫁にもらってきた家系なので顔はいい方か。その分だけ頭を使わないから、とにかく馬鹿ばっかり。


 国王が義理の家族との対面をするのに、口を挟んだら1アウト。続いて聖獣や他国の要人がいるのに気づかないので2アウト。さらに呼ばれていなくても遅刻してきたのも減点で、3アウトチェンジだ。野球は詳しくないが、アウト3回で終わりくらいの知識はあるぞ。


「アホではない! 王家の姫君を妻にもつ我がアホラ家を、なんと心得る!」


「なんとも? だって、オレ第二王子だし」


 オレより地位が低いよね。淡々と突きつけた事実に、おっさんの顎が落ちた。漫画みたいな表情、初めて見た。すげぇ、本当に顎が外れた感じになるんだな。


「貴様など知らん!」


「知らなくていいよ、オレもあんたを覚えなくて済む」


 腕を組んだリアムが、きらきらした眼差しでオレを見ている。負けられない戦いは本当にあった! リアムの尊敬とざまぁを見たい夢を叶えるため、オレの粗末な脳はフル回転だ。


「陛下、このような無礼な輩は……」


「アホラ公爵、キヨヒトは我が息子だ。無礼が過ぎるぞ」


 オレに言っても通じないと、国王に向き直ったところで嗜められてしまった。そこで諦めないでくれ。北の国の貴族は根性ねえよ。ざまぁする前に潰れてくれるな。リアムの前でいいカッコするためなら、オレは敵にも塩を贈るぞ。プレゼント、フォーユーだ!!


「パパ、黙ってて」


 ぴしゃりと言われたショックと、庇ったはずなのに? の疑問。それを上回るパワーワード「パパ」の喜びに、義父は石像のように固まった。満面の笑みで貝のように口を閉ざす。完璧だ。


「なるほど。陛下を誑かしたのは間違いなさそうだな」


 あれ? おっさんが突然理知的な発言しだした。これは……期待しちゃうじゃん! リアムと視線を合わせ、お互いに笑顔で頷き合った。後ろでシフェルのぼやきが聞こえるが、そこはスルーしてやった。

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