表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第33章 断罪劇、いっちゃう?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

331/410

277.急いでくれ、金なら払う!

 デザイナーと称するお兄さんとお姉さんが入室し、慣れた様子で採寸を始めた。それがまた……服の上からお姉さんが計測して、お兄さんがメモる。というか、この2人双子ですね。


 現実から逃げようとするオレは、軽く意識を飛ばしていた。明日戻るって言っちゃった。徹夜したらドレスって間に合うの?


「あのさ、縫うのってどのくらい……かかる?」


「そうですね。陛下のドレスですから金貨150枚ほど」


「えっと、金額じゃなくて日数の方ね」


「通常は15日ほど……」


 お兄さんの声が途切れる。オレの表情が強張ったせいだろう。お姉さんと目配せしたあと、最短時間を示してきた。


「最短で1日半、金貨を50枚ほど奮発していただければ」


「金貨100枚上乗せしたら、明日までに出来ない?」


 青褪める双子は顔を見合わせる。きょとんとしたリアムは首を傾げ、状況が理解できていなかった。もう、いっそ既存のドレスの手直しじゃダメなのか? ダメだな、最高に可愛いお嫁さんの着飾る場面で、既製品の手直しなんざ邪道だ。


 幸いにして金ならある!


「金なら、あるよ」


 じゃらっと取り出してテーブルに置いた。革袋に入った金貨を積んでみせる。正規の金額を倍にしたら間に合うなら、積んでやるよ。目が据わってきた自覚があるが、後ろからじいやが予想外の助けを出してくれた。


「デザインができており、サイズがわかっていれば……うちの女中達が対応可能です」


「え? じいやの女中さん凄い。マジで? 明日だよ? 徹夜になるのに、頼んで平気?」


「お客様のご要望には全力で応えるのが、椿旅館のモットーです」


「頼む。この追加分の金貨は女中さんにあげて」


「これはまた過分なお支払いを。きっと喜びます」


 じいやは収納に入れずに金貨を袋に入れて受け取った。あ、じいやの収納って体ごと入るから、機密なんだっけ。オレだって自分の収納はおろか、聖獣の影も入れなかったし。


「デザイン決めちゃおうか」


 にっこり笑ってリアムを横に座らせ、いくつかのデザイン画の中から指差して作り上げていく。袖は可愛いぽふっとした形で、首元はほどほどに開けて。でも下品になると嫌だからレースを付ける。こぼれ落ちそうな巨乳だったら胸元は凝視対象だけど、自分の彼女なら隠して欲しいものだよ。だって他の男に見えちゃうし。リアムは普通より少し小さめだから、レースが品よく見えると思う。


 腰は絞るとして、スカートが問題だった。


「リアムはフワッとした膝丈のスカートが似合うんじゃないかな。中に膨らますスカート入れて」


 パニエですか? と絵を見せられて頷く。だがリアムは恥ずかしいので長くしたいと言う。彼女の希望だから頷きたいけど、ここは心を鬼にして!


「お願い、リアム。この丈のスカート姿が見たい」


 自分勝手な好みを土下座で押し切る。困惑顔の彼女を承知で必死にお願いするオレの姿に、じいやが目頭を押さえる。情けなくなんかないぞ。これは戦略だ。


「わかった……それでいい」


 この時点でドレスの形が決まった。お礼を言いながら彼女の手を握る……前にじいやが差し出した布巾で手を拭く。それから握ってその手の甲に唇を押し当てた。


「……っ、愛されてますね。陛下」


 双子のお姉さんの方が感涙した。服の上から測ってたけど、当然女性だと気づいていたらしい。少女なのに性別を隠して生きるなんて、と同情していたらオレの出現だ。世話役のシフェル達にも、女性との情報は解禁になったと聞いた。その状況で、オレの暴走ぶりに感動したらしい。


「色は桜色がいいな。北の国へ行くけど、リアムらしくが大事だからね。黒髪とピンクって最高じゃん」


「わかりますぅ!!」


「同意します」


 双子がきらきらと目を輝かせた。自分達の間で通じる趣味を共有できる仲間を見つけた時、人はこんなにも輝くのだ。あっという間に顔を突き合わせて、色の濃淡に唸り始める。オレとしては薄いピンクを想像したが、彼らはもう少しローズ寄りだった。そこを強引に淡い色で押し通し、逆に生地を譲る。


 清楚な印象が大事だし、綿がいいと思う。そう告げたオレに、相手が絹着てるのに負けるわよ! とお姉さんに叱られた。挙句、最高級だという生地を見せてもらう。


 ぎらぎらした感じの艶じゃなく、すごく品がいい。あれだ、着物の生地みたいな……侘び寂び系の手触り。縮緬とも違う不思議な感じで、リアムも気に入ったらしい。幸いにして在庫があるそうなので、じいやと女中さんが夕方に回収しに向かうことになった。双子は大慌てで型紙起こしをする。


 もちろん彼らにも奮発したさ、金貨を。こういう時でもないと、リアムに大きく使ってあげられない。それに男として彼女の装いに協力金を出せるのは、すごく名誉なことだぞ。力説したら、リアムも折れてくれた。全部自費で支払う気だったみたいだ。


 共布のリボンも用意してもらおう。簪などの飾り物が侍女によって運び込まれ、あれこれと迷いながらリアムと選ぶ。なんだこの楽しさ。世の男性は「女性の買い物は長くて疲れる」っていうけど、一緒に選ぶ楽しさを放棄してるんじゃね? オレはリアムだったら一日中でも付き合えるぜ。


 わずかに色が違うネックレスで迷うリアムに、両方を肌に乗せてみるようアドバイスした。腕に乗せた感じから、左側の淡い色の方を選ぶ。順調に選び終えたところで、じいやがさり気なく時計を示す。ああ、もう夕暮れ時か。楽しい時間ってすぐに過ぎるんだな。


「楽しかった」


 頬を赤く染めたリアムの声は弾んでいて、オレも満面の笑みで頷く。


「オレも。リアムを着飾るとき、また一緒に選びたい」


「本当か? クリス、やっぱりセイは付き合ってくれるぞ」


 壁際で護衛として立っていたクリスティーンを振り返るリアムの言葉に、なんだ? と首を傾げた。苦笑いしたクリスティーンが教えてくれた話は、前の世界でもよく聞いたやつだ。


「男性は女性の買い物には付き合いきれないそうです。長く悩むのが楽しいのですが、それが理解できないとか」


「ああ、なるほど。オレもリアムが相手じゃなけりゃ、同じこと言うかも。でもリアムの唇に触れるリップだったり、肌に触れる生地だよ? 一緒に選ぶに決まってるじゃん」


 大切なリアムを彩るパーツは自分の服より、断然順位が上だから! 力説したオレに侍女達から拍手が上がった。そうか、前の世界でもこれを言えば「彼女いない歴=年齢」から解放されたのか。まあ、顔がいいから出来る技でもあるんだけどね。これで平凡顔だったらウケないと思う。


「嬉しい」


「オレも。一緒に選ばせてくれてありがとうな」


 甘い雰囲気になったところで、ストップの声がかかった。


「そこまでです。明日の準備が整ったなら、キヨはこちらへ」


 シフェルめ。どうしていい雰囲気になるとコイツが現れるんだ? 何、これ、ゲームのバグなの!? もう!! ムッとしながら振り返ったオレに、顔の良さを生かした近衛騎士団長は「何か?」と微笑みかけた。だがその目が笑っていない。意味ありげに細められたので、話があるんだな……と察した。


「はぁ……じいや、悪いけど女中さん達に金貨を渡して。徹夜になるけどお願いしますと伝えてね。それから明日は休んで寝てていいから。オレが許可する」


「承知いたしました。過分な褒美に喜ぶことでしょう」


 じいやが恭しく金貨の革袋を掲げたところで、オレは立ち上がってリアムに微笑みかけた。さりげなく膝を突いて目線を低くするのを忘れない。これはね、身分差の話じゃない。オレがリアムを尊重してるよと普段から示す行為だから。


「ちょっと仕事してくるね。夕食は一緒に食べよう?」


「セイの作った料理がいい」


「うん。リクエストはある?」


「任せるけど、食べたことがない物がいい」


 オレと話してるせいもあるけど、徐々に口調がほぐれてきた。女性らしい言葉遣いを封じてきたから、貴族令嬢との会話を思い出しながら言葉を選んでる感じだ。これからも女帝陛下になるんだし、仕事の時は硬い口調でもカッコいいと思う。ただオレの前で、今みたいにぎこちなくても素を見せてくれたらいい。畏まらない相手って必要だろ。


 くしゃっとリアムの髪を撫でて、オレは「後でまた」と部屋を出た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ