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274.北の国まで

『僕がご主人様を乗せます』


『それは我の仕事ぞ』


『あたくしでもいいのではなくて?』


『僕も、主様を運びたいですぅ』


 うん、人気者だ。約1匹顔を出さない無礼者もいるが……まあ青猫はいつものことだし。影からはみ出ている尻尾を掴んで持ち上げた。ずるりと足元から生える猫を転がす。受け身を取ったブラウがジト目で睨んだ。


『僕は乗せないよ』


「お前には期待してない」


 がーん! と衝撃を受けたような顔をしてるけど、それ匂いを嗅いだ時のフレーメンじゃね? 騙されないからな。


「まず、メンバーを確認しよう」


 誰が行くか、そこが重要だ。人数によっては、転移を数回繰り返して運ぶ方が早い可能性もある。前提条件の確認は必須だった。


「私は行く!」


 元気よく立候補したリアム、じいや、護衛にクリスティーン、シンとレイルは当然含まれるとして……近衛が数人? やっぱり転移繰り返し作戦か。


「キヨ、何人まで運べますか?」


「うちの傭兵全員くらいかな」


 50人規模なら、一度に運べると思う。それ以上の数になったら自信がなかった。というか、試したことがないので、誰か消えてても許してほしい。


 転移のイメージが、どこでもドアなら安全だったんだよ。最初に見た魔法陣の影響を受けて、オレの転移は魔法陣を描いてその中を魔力で満たす形に落ち着いた。つまり魔法陣を大きくすれば大勢運べるけど、魔力が大量に必要になる。試した際に安全だったのは50人前後だ。それ以上は試していなかった。


 リアムが一緒なので、安全策を取りたい。


「オレが先に聖獣で移動して転移で戻る。北の国旅行はその後ね」


 渋々頷くリアム。ほっとした様子の騎士御一行様。


「なら、おれ達は一緒に行こう」


「そうだな」


 レイルとシンは初回の同行を希望する。というか、来てもらわないと困るんだよ。突然聖獣に乗って現れて、おそらく正体は分かってもらえるだろうけど……不審者じゃん? 不法侵入者だよね、越境っていうか。義理とはいえ親子になる国王陛下との初対面が、不審者ってイメージが悪すぎる。


「そうしてくれると助かる」


 嬉しそうなシンは、コウコの前でしゃがみ込んだ。ミニ龍であるコウコは北の聖獣だ。王族なら興味を示すのが当然だった。


「コウコ様、お願いいたします」


『っ、もう仕方ないわね。乗せてあげるわ』


 オレを乗せる役争奪戦から、早くもコウコが脱落。なんだかんだ言っても、やっぱり守護した一族の末裔は可愛いらしい。敬うシンの態度も良かったんだと思う。好感触なので、今後もコウコは北の聖獣でいてくれそうだった。


『絶対に譲らんぞ』


『さっき乗せたじゃないか、次は僕だ』


 この時点で、勢いに押されたスノーも脱落っぽい。ヒジリとマロンの一騎討ちになっていた。しばらく様子を見たが決まりそうにないので、オレが決断すべきだろう。前回、じいやを金馬に乗せて、オレは黒豹だった。今回は逆が順番だよな。


「今回はオレがマロンに乗るから、ヒジリはじいやを乗せてくれ」


『うぬ……』


 主君であるオレの言葉に反論しかけ、だが微妙な状況で口を噤む。ちらっとじいやに目をやると、しっかり一礼して礼儀正しく振る舞った。


「前回マロンにじいやを預けたじゃん、オレにとって必要で大事な人なの。ヒジリに任せたいんだけど?」


 他の聖獣じゃなくてね。そう匂わせたオレの言葉に、黒い尻尾が大きく揺れた。頼られたと喜ぶ黒豹にじいやを預け、これで全員揃ったと思ったら……伏兵がいた。


「我が君、護衛をお忘れですぞ」


 ベルナルドだ。一応前侯爵閣下で、守られる側の人だからさ。敵国ではなく実家へ帰るのに、将軍まで勤めた人が護衛に就いたら仰々しいだろ。説得を試みたがうまくいかず、逆に言い込められそうになる。さすがは侯爵の地位を持つだけのことはある。ただの脳筋じゃなかった。


「わかった、スノー?」


『ドラゴンなら乗れると思う』


 譲歩してくれる空気を読む白トカゲを撫で回した。どこかの使えない青猫とは大違いだよ。ったく。すぐに転移で戻るため、荷物は必要ない。というか、オレは家財道具から食料まで一式持って歩いているので問題なかった。じいやも収納魔法はあるそうで、実家の物置の8畳を想像したそうだ。意外と大きい。しかも中に棚付き。それは便利なのか、便利じゃないのか。


「じいやの収納の棚って、どう使うの?」


「……キヨヒト様の収納の方が不思議ですぞ」


 会話が噛み合わない。そこで部屋の隅でこそこそ確認し合った結果、じいやの収納の謎が解けた。じいやはこの世界の人から「収納魔法がある」と聞いたが、実物を見たことがなかった。その状態で収納魔法を想像したため、実家の8畳間が思い浮かぶ。その部屋は棚がびっしりと並んだ、見事な収納庫だった。


 そのまま再現したわけか。オレは先にノアの収納を見てから、ファンタジー映画の無限に入る空間を思い浮かべた。それが反映されたのだ。じいやの収納は、なんと本人が入って出し入れできるタイプだった。それは羨ましい。でもオレは片付けられないから、今のでいいや。


 リアム達に見送られて、聖獣の背に跨る。シンとレイルを乗せたコウコが先行したのは、きっと北の国の聖獣だからだろう。後ろを追いかける形でマロンに乗ったオレ、じいやを運ぶヒジリ。最後はドラゴン姿のスノーにしがみついたベルナルドだった。振り落とされるなよ?


 空飛ぶドラゴンって、意外と不安定だ。そもそも巨体を翼で飛ばせるはずがなく、魔力で浮いているらしい。そのくせ羽を動かすから揺れる。ベルナルドの「くっ」と堪える声が気の毒で、オレの魔力で支えてみた。


「どう? だいぶ楽?」


「あ、ありがとうございます。我が君」


「あのさ、呼び方がキヨから戻ってる」


 支配者の指輪を見て忠誠を誓った時に「我が君」と呼び始めたベルナルドだが、説得して「キヨ様」まで呼び方が砕けたはずなのに。いつの間にか元に戻ってしまった。それを指摘すると、ベルナルドが慌てて「キヨ様」と呼び直した。


 北の国までの距離はそれなりに遠いが、聖獣は空を移動する。飛行機と一緒で最短ルートを飛ぶため、歩いて移動した1日半の距離を数時間に短縮した。


「うっ……酔った」


「聖獣様、あり……がとう、ございました」


 なんとか礼を言うベルナルドと、気持ち悪いと訴えるオレ。レイルは無言だが青ざめており、シンは気絶していた。よく落ちなかったな。レイルがしっかり腕を掴んで確保してくれたらしい。


 意外と涼しい顔をしていたのは、じいやだった。乗り慣れたヒジリにすれば良かったか。でもマロンが泣くんだよな……美少年姿で泣かれると絆されちゃうのが現実だ。


「北の国まで来るだけなのに、重症者でた」


『北の国から、じゃなくて?』


「それはドラマ」


 お前、守備範囲が広いな。影から尻尾と首だけ出すのやめとけ。周囲がドン引きだぞ。


「……ああ、その……お疲れ様でした?」


 迎えにでた北の国の宰相が、引き攣った顔で頭を下げた。その挨拶が微妙に語尾が高くて、疑問系に聞こえるのは気のせいか。自国の王太子への声かけとしては、ぎりぎりレベルだった。


「シン兄様……お兄ちゃん、生きてる?」


 揺り起こすと飛び起きる。


「お、お兄ちゃんは元気だぞ」


 うん、見ればわかる。さっきまで気絶してたとは思えない姿で、オレの手を両手で握った。じいやは後ろで静かに控えているし、ベルナルドはよろよろと剣を杖代わりに姿勢を正していた。その剣、鞘に入ってるとはいえ杖にしちゃマズイだろ。


 中央の国の元将軍が同行していても、この具合が悪そうな姿から無害と判断されたのは当然だった。周囲で迎える騎士や兵士も、気の毒そうな顔をしている。同時に恐ろしい物を見るような目が、聖獣達に向けられた。


『主様、僕は影に入ってていい?』


「ああ、いいよ」

 

 視線が居心地悪いのか、飛び込んだスノーに続きコウコも影に飛び込んだ。マロンはきょろきょろ見回してから、やはり後を追う。ヒジリは平然と尻尾を振っていた。


「ん? 一緒に行くのか?」


『我は主様の名を持つ唯一の聖獣ぞ、常に同行する』


 頼もしい限りだ。でもここで褒めると、青猫や他の聖獣が拗ねるから無言で頷くだけに留めた。

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