表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
324/410

271.もう公表しちゃえ!!

 見苦しい言い争いを続けるべきか、核心をつくべきか。ここで秘密をバラして、リアムの婚約者がオレだと公表するつもりなのは確かだ。裁判の間の会話はすべて記録される。だから公式記録として残るのは、都合がいいと考えたんだろう。


 この辺はウルスラの案だと思う。だって、オレが断罪を申し出たときに背を押してくれたからね。あれはオレが問い詰めたら、彼らが余計なことまで口にすると踏んでの促しだった。


 ふんと鼻を鳴らしたとろり蒟蒻が口を開く。


「調子に乗るなよ。こっちは皇帝陛下の秘密を握ってるんだぞ」


 ざわっと貴族が騒ぎ出す。互いに顔を見合わせて、誰か知らないかと探り始めた。中には知ってるフリをして注目を集めるバカも出てくる。ここはバラすチャンスかな。にしても、簡単に墓穴掘るんだな……こいつら。


「そうだ。俺達は国を揺るがすような秘密を知ってる」


 胸を張るおなら公爵の脅しに、オレはくすくす笑い出した。なんだかおかしくなってきた。前の世界から来た連中がチートだと伝わってる一番の理由って、この世界の大半が愚者だからだ。ある意味幼いんだと思う。オレはラノベでナーロッパ話を読んでるから、こいつらの無駄な自尊心や言い回しを折る方法を知ってる。こういう知識の差や常識の違いが、チートの源だろう。


「いいよ、その秘密バラしても……大したものじゃないんでしょ」


 ここでオレの口からバラさないのが作戦だ。煽れば馬鹿は木に登る。それを上で待ち構えて、足蹴にして落とすのが最善だった。そちらに気を取られてくれれば、真犯人の名を口にする可能性が減るから。


「馬鹿にするな、聞いて驚くなよっ!」


「皇帝陛下は女性だ!」


「「なんだって」」


 騒ぐ貴族の声に得意げな顔をしてるけど、君らはどこまで行っても罪人だからね。別に秘密を知ってたからって許されるはずがないし、そもそも上層部に利用されてるから。ついでに言うなら、秘密を脅しの道具にするなら、最後まで秘匿しないと価値がないんだぞ。全員が知ったら秘密じゃないからね。脅す材料がなくなる。まあ……ざまぁしてやった! と勘違いしてる顔だ。


「前皇帝陛下の妹君、ロザリアーヌ姫殿下。そんなのとっくに知ってるけど……オレの婚約者だもん」


 きょとんとした顔を作って、小首を傾げる。向かい側の傍聴席にいた貴族も、同じように首を傾げた。少しして、理解した奴が騒ぎ始める。あ、これ試験紙として最適だ。頭の回転の良さが一目でわかるもん。


 馬鹿判別機に近い。オレの「なに当たり前のこと言ってるの。あんた情弱?」みたいな煽りに気づかず、3人の罪人は顎が外れたような間抜けな顔でオレを見ていた。


 あれれ? これで反撃終わり? まさかこの程度なのか。それでケンカ売ったの。呆れ半分で周囲の様子を窺うと、貴族達の大半が驚愕に目を見開いていた。そんな中、見覚えのある少女を見つけて口元を緩める。無事にパウラは家族に保護されたらしい。後ろにいる顔立ちや髪色の似たご夫妻がクロヴァーラ伯爵家御一行様みたい。


「ねえ、秘密ってそれだけ? オレが北の王家に養子に入った時点で気づかないとさ、遅いんだよね。皇族に嫁ぐなら分家の肩書きだけじゃ足りないから、養子に出たんだぞ。オレと皇帝陛下が結婚するなら、どちらかが女性じゃないとおかしいだろ」


 BL系の世界じゃないんだから。けろりとオレが肯定した「皇帝陛下は女性でした」という話に、あちこちの貴族は盛り上がった。なおガッツポーズしてる奴もいるが、婚約者はオレだからな? チートな異世界人のオレを排除して、リアムを射止められると思うなよ!


 持てる全能力と聖獣を使って潰すぞ。物理的にも精神的にも容赦しないからな。威嚇を込めてぐるりと見回す。一部の独身が受けて立つみたいだけど、コテンパンにのしてやんよ。


 サプライズプロポーズは出来なかったけど、まあオレらしいかな。見上げる先で、カーテンから姿を見せたリアムが小さく手を振る。オレは目一杯振り返した。シフェルが「さっさと片付けなさい」って目で指図してくるが、無視だ。


「き、貴様など」


「さっきから分かってないみたいだね。オレは皇帝より地位の強い聖獣を5匹従えてる。機嫌を損ねたら全国土を一瞬で消せるんだけど」


 文字通り地図から消える。ついでに他の国も消えるから、オレの足場しか残らない気がするぞ。にっこりと無邪気な笑みを浮かべてやった。こう言う時は凄むより、笑われた方が怖いんだが……馬鹿には通用しなかった。


「出来もしないハッタリを」


 強がるとろり蒟蒻を見せしめにすることにした。というか、誰か引っ掛からないかな……と誘ってみたわけで。鼻で笑う公爵の暴言はありがたい。


「ヒジリ」


『ふむ、任せよ』


 直後、足元が消えた。いわゆる穴が空いたのとは違う。真っ暗な穴がぽかっと開く。で……とろり蒟蒻、こと前トゥーリ公爵が吸い込まれた。その穴をわざと塞がないところが、ヒジリだよね。恐怖心を煽るように、穴の底から叫び声が聞こえ……徐々に小さくなって途切れた。


「きゃぁ!」


「うそっ、なんて事」


 叫んだご婦人やご令嬢の一部が卒倒したらしい。慌てて夫や家族が支えている。従者や他家の人に抱き上げられたら、お嫁に行けなくなるんだっけ? 頑張れ、男性諸君。貴族の勤めだ。


 異性には親切に、奥様や婚約者を大切に。さて、立派な標語ができたところで、周囲を見回す。問題ないかな。


 他に洗い出す貴族がいれば叩きのめそうと思ったけど、思ったよりいい子ちゃんが多いようだ。前回身分差で叩きのめして、夜会でもやっつけたからね。見ていた貴族はもう逆らおうと思ってないだろう。


 震えるおなら公爵に穏やかな笑みを向ける。なお、ヒジリが開けた穴はそのままキープだ。


「どうだろう、逆らってみる?」


「ひっ、ば、化け物がっ!! 近づくな」


「うわ、こっちみるな。来るなっ」


 どっちも酷いな。手下のはったり侯爵……ぺタリだっけ? まあ暴言の言葉尻を捉えるなら、彼らもこの中に落ちていただく必要があるか。見せしめは中途半端じゃない方がいいよね。


 もう皇帝陛下の婚約者だと発表したし……何かをネタに脅される心配もなかった。オレの親や実家は犠牲になりようがなくて、さらに婚約者は最強の権力者だ。周囲に優秀な側近も揃って、オレの未来は薔薇色だった。


 多少血の色が混じっても誤差だろう。


「ヒジリ、片付けちゃって」


『ふむ。主殿の命ならば』


 重々しく頷いたヒジリが視線を向けた先で、2人の足元にも穴が開いた。先ほどより大きな悲鳴と助けを求める声が聞こえ、最後に謝罪がドップラーして消えた。救急車の音が遠ざかるときのアレ、結構好きだったんだよね。懐かしく思いながらパチンと指を鳴らす。


 タイミングを図ったヒジリが穴を塞いだ。ちなみに、これはヒジリ達が使う影を模したただの転移魔法だ。応用と言ったらいいかな。すごく深い位置に作った魔法陣を通過すると、彼らは地下牢に転がり出る仕組み。ヒジリが使う影は、オレと契約した聖獣以外の生き物が入ると死ぬらしいから。


 シンに頼んだ仕掛けが無駄になりそう。使う場面がないまま終わりそうだが、今回の騒動を画策した真犯人との対峙で使うか。


「裁判長、お時間をありがとうございました」


「あ、う……は、はい」


 何も言えずに頷く裁判長は、手元の罪状を書かれた紙に目を落とす。これを読み上げて罰を言い渡す予定が、罪人が全て消えてしまった。この場で読むべきか、それとも読まずに閉廷すべきか。悩む裁判長にオレは笑顔で言い放った。


「せっかくですから、集まった紳士淑女の方々に罪の重さを理解していただいた方が良いでしょう。読み上げてください」


 半分強制的に罪の言い渡しが始まる。代替わりはもちろん、爵位降格や領地没収の厳しい沙汰が響く。貴族の青ざめていく顔を見ながら、オレは満面の笑みを振り撒き続けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ