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258.あれ、1人多くね?

「あれ? だってカミサマに言われて、チートもらっただろ?」


 ここは重要な確認ですよ。なんで収納くらいで羨ましがられ……後ろから擦り寄るヒジリを何となく撫でながら気づいた。聖獣はこの世界に5匹いて、全部神様の欠片だ。なのに異世界つうか、日本人がオレ以外に4人もいて誰も契約してなかったの??


「貰ってない。愛梨は気づいたら赤ちゃんの中だったもん」


 女子高生口調か。あ、前世の享年18歳だっけ。リアル女子高生が貴族令嬢、これって王道の悪役令嬢展開だな。過去に読んだラノベに当てはめると、キャラの把握がしやすい。


「僕もカミサマに会ってないし、目が覚めたら赤子でした。まあ長生き系の熊属性だったんで、助かってますけど」


「あれ、ハンヌが熊……パウラ嬢は?」


「やだ、愛梨でいいのに。えっと、鳥。治癒魔法がちょびっと使えるくらい」


「ああ、悪いけど腰痛治してくれないかい」


 老女の言葉に、愛梨が素直に治癒魔法を施す。というか、腰痛に効くの? 治癒って傷に使うものだとばっかり思ってた。


「自己紹介の続きをするか。俺はアルベルト。日本では海斗って名前でミュージシャンの卵だった。たぶん轢かれたんだと思うが、気づいたら奴隷の子供として生まれてた。そこの婆様に購入されて、今は解放民だけどね」


 解放民、聞きなれない単語はクリスティーンが教えてくれた。なんでも奴隷上がりの平民が与えられる肩書きらしい。ようは差別用語ってことか。


「残ったのは私かい? 愛梨ちゃんありがとうよ。80年ほど前にこの世界にきたが、死因は覚えちょらん。老衰じゃないかねぇ。ここではトミと名乗っとるよ」


 慌てて書いたメモの日本語を、みんなが懐かしそうに指差す。文字が間違ってたらしい。直されながら、日本語のメモは完成した。


 老女……トミさん。死因不明、おそらく老衰。現在は北の国で宿屋を営む。


 金髪の兄ちゃん……アルベルト(海斗)、轢死? ミュージシャンの卵だったが、奴隷からの解放民。トミさん所有。


 貴族令嬢……クロヴァーラ伯爵令嬢パウラ(愛梨)、トラック轢死。中央の国貴族。


 逞しい兄ちゃん……ハンヌ(貴)、土砂崩れ圧死。西の国で鍛冶屋さん経営、熊属性。


「あれ?」


 おかしいぞ。一番後ろに、タカミヤ爺さんのメモを取る。


 旅館の主人……タカミヤ(高宮)、老衰。元旅館の主人で、現在も継続中。今後は女中さん連れて、中央の国でオレの執事。


 ひぃ、ふぅ、みぃ、よぉ、いつ……で、オレ。


「タカミヤさん、数え間違ってるよ。オレを入れて日本人は5人だよね。1人多いじゃん」


 こういう怪談あったよ。暗い部屋で怪談で盛り上がる部屋で、1人増えてるんだけど全員知ってる人で、誰が増えたのか分からないってやつ。


「いや合っとるよ、わたしゃ、フランス人だったけぇ」


 トミさん、まさかのフランス人疑惑! いや、本人が言うならフランス人確定だけどさ。え? その訛り、日本の田舎の婆さんじゃないの!? つうか、なんで日本人会に混じってるんだよ。


「キヨ、全部声に出てるぞ」


 膝にしがみついたリアムが呼び方を修正しながら首をかしげる。しっかり自分の存在をアピールしてくるあたり、侮れん。政の中心地で苦労しただけのことはある。ウルスラが補佐に入ってシフェルが守ってきたんだから、このくらいの芸当は朝飯前か。


「えっと、トミさんを除いた4人とオレで5人。トミさんは日本を知ってたの?」


「行ったことはないが、黄金の国じゃったか」


「トミさんが死んだ時って西暦でいうと」


「1800年代の半ばじゃ」


 中世頃のお人でしたわ。火縄くすぶるフランス革命……1789年か。その後だな。


「1850年頃って何があったっけ?」


「ああ、ナポレオンがいた頃だよ」


 ナポレオンか! 白馬に乗ってロシアに攻め込む山脈の途中絵画が有名だ。嫁に浮気されたっけ? あれ? まあいいや。


「ナポレオンとは有名人か?」


 こっそり聞いてくるリアムに、小声で「向こうの世界では名前くらい知ってる過去の有名人かな」と返す。耳元で囁きあうのって、恋人っぽさがあっていい。にやにやしちゃう口元を手で覆い隠した。


「なんか厭らしい」


 愛梨ちゃんに「このこのぉ」と突っ込まれながらも、真顔を作る。しかし呼び名がたくさんあって面倒だな。


「ところで、キヨ君? の本名って何」


「あ、それ知りたい」


「ベルナルド。言っちゃって」


 少し離れてたところで、大人しくお座りして待つ忠犬ベルナルドに声をかけた。オレだって覚えてないんだぜ? そこは彼の出番だろう。


「キヨヒト・リラエル・エミリアス・ラ・シュタインフェルト殿下にあらせられます」


「というわけだ」


 えっへんと威張ってみても、自分の名前を覚えてないのが丸わかりだ。苦笑いした周囲をよそに、愛梨だけは大きく首を傾げた。


「あら。お名前がまた変わると聞いたけど」


 貴族令嬢らしい言い回しだが、そういえば皇家のご養子になるとか……言われたな。


「正確にはキヨヒト・リラエル・セイ・エミリアス・ラ・シュタインフェルトだが、近く、キヨヒト・リラエル・セイ・エミリアス・ラ・コンセールジェリンになる」


 横文字だらけで聞き取れなかったので、リアムにメモの端に書いてもらった。えっと、中間にセイが増えて名字が北の王家から中央の皇族に変わる、か。まさに出世魚!


「「長すぎる」」


「皆はキヨでいいぞ。ちなみに前世は聖仁と書いてキヨヒトだった」


 生まれ変わりはこっちで親が新しい名前を付けてしまう。愛梨がよい例だ。本人の意識があろうと赤子なら名前を伝えられないからね。オレは幸いにしてサイズ変更した上で転移なので、自分で名前を口に出来たってことか。


 複雑な事情を理解しながら、呼び方に迷う。


「今後はキヨに頼むとあれこれ便利そう」


「わかる! 権力者の知り合いって便利よね」


 物騒な発言は無視して、日本人会のメンバーはわざと名前を使い分けていると教えてもらった。外でうっかり話しても「伯爵令嬢パウラ」と「愛梨ちゃん」が同一人物だと気づかれないらしい。その意味では、オレのような本名が呼び名のタイプは困るだろう。でもセイはリアム専用の呼び方だし。


「銀髪だし、銀ちゃんでよくない?」


 愛梨ちゃんの一言で決まった。日本人会では銀ちゃん……メモの端に書いておく。絶対にオレ忘れる自信ある。呼ばれても反応しないと思うが。


「それにしてもタカミヤさんの旅館、もうすぐ終わりかぁ」


「あ、私も部屋取ってよ。泊ってくから」


「貸し切りだから無理ですよ」


 海斗と愛梨ちゃんの声に、タカミヤさんが律義に断る。が、リアムに尋ねたら「いいよ」とあっさり許可が出たので、お泊り会が決定した。夜は肉じゃがが出るらしい。オレの料理チートでも、調味料が把握できてないものは作れないからな。醤油と砂糖は分かるんだけどね。


「ところで、聖獣様って5匹だよな?」


「うん」


「倒したドラゴンって、聖獣様じゃないのか」


「あ……うーん、微妙に違うというか。合ってるというか。その辺は夕食後に話すよ」


 倒した竜の中にスノーが飲み込まれてたんだよな。その話を肴に盛り上がるつもりのメンバーだが、気づいてしまった。リアムは愛梨ちゃんに対して警戒心が働いているらしく、可愛く睨んでけん制している。何このハーレム展開! え、違う?


 いいじゃないか。オレが望んだ異世界ラノベ展開そのものだ。もちろん大切なのはリアムだけだから、この後しっかりフォローするけどね。


 不敬だと騒ぐのも違うと感じたベルナルドとクリスティーンは、それぞれに国や夫へ連絡を始めた。その脇で、卓上ゲームを持ち込んで知識チート全開の貴が取り出したオセロは、大いに盛り上がる。チェスに慣れたリアムも何回か負けたことでムキになり、あっという間に仲良くなれた。


 ちなみに夕飯には日本酒が添えられ、刺身、てんぷら、肉じゃがと和食の大盤振る舞い。慣れてきたリアムやクリスティーンも満足する豪華さだった。なお、最後に牡丹鍋だと言って出された肉は、イノシシに似た別の魔物の肉だったらしい。美味いからいいけどさ。

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