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254.風呂は男女別だった

 漫画やアニメだと「カポーン」という意味不明の擬音で、オレは今の状態だと思う。スパと呼称するが、どう見ても銭湯だよね? というサイズの風呂に浸かりながら、ぼんやり窓の外を眺めていた。


 残念ながら富士山の絵はない。そして傭兵達にも砦から真っ直ぐに帰ってもらったので、一緒に入浴しているのはベルナルドと聖獣のみ。レイルは烏の行水でさっさと出てった。


 正式な婚約前に混浴が許されるはずはなく、混浴したら護衛や侍女も一緒について来るので、それも怖い。特にシフェルが。主にシフェルが。大事なことなので二度言いました。


「我が君、お背中を流しましょうか」


「うーん、いい」


 断る意味の「結構です」だったんだが、逆の意味に取られた。ざばっとお湯から担ぎ出され、軍隊式の手荒な洗礼を受ける。文字通り綺麗に洗われた。股間だけは死守したけどね。


 ベルナルドの体は傷だらけだ。傭兵達と張るくらい前線に立ってきたらしい。「流してやるよ」「いえ、恐れ多い」の定番会話を3回繰り返した後、オレは命令の一言で終わらせた。ごしごしと洗いながら、傷の深さから痛みを想像して顔を顰める。


 オレの背中や肩に受けた傷を含め、ほぼすべてヒジリが治した。治癒を使うと体力が削られるので眠くなったり疲れるが、傷痕は残らない。おかげで肌は王侯貴族に相応しくツルンツルンだった。


「ベルナルドはどうして治癒魔法を受けなかったんだ?」


「治癒魔法が使える魔術師は、戦場で真っ先に殺されます。連れて行けません」


 ああ、そうか。オレは治癒担当が聖獣だったから問題ないけど、宮廷魔術師って外へ出ないもんな。魔法が使えるけど戦えない奴が多いんだ。貴重な人材を戦場で皆殺しにされても、補充が追いつかないのか。


 中央の国でそれだから、当然、他の国が連れてきてるわけがない。魔力で防御しても通常は弾が当たればケガするし、悪くしたら死ぬ。やっぱ怖い世界だったんだな。オレがチートじゃなかったら、大事件だぜ。


「オレは運が良かったんだな」


 洗い終えた大きな背中に湯を流し、オレは湯船の縁に腰掛けた。現在、このスパは貸切になっている。というのも、ベルナルドが「裸になり無防備な状態で、襲われたら困りますからな」とスパの主人に金貨を積んだせいだ。リアムの安全に繋がるならいいか、とオレも妥協した。


 貸切風呂の湯船には、現在ヒジリが大人しく浸かり、ブラウが泳いでいる。スノーは洗い場に氷を張って休んでいるし、マロンは沈んで……ん?!


「マロンが溺れてないか」


 様子を見に近づいて、湯の中から回収する。オレによく似た子供姿で、真っ赤に茹だった肌が妙に艶かしいのは……なぜだろう。もしかしてオレも同じ?


 数回胸を押すと、ぴゅっと湯を吹いた。やっぱり溺れてやがった。マロンはベルナルドに任せ、オレは脱衣所に戻る。涼んでるレイルは、ワイン片手にご機嫌だった。横に空き瓶が3本あるが、お前、全部飲んだのか。


「どうした?」


「えらい飲んだな」


「そうか。こんなの水代わりだ」


 どこのフランス人だ? これがビールならドイツ人だな。テレビの半端な知識で突っ込みつつ、オレはマロンに水で冷やしたタオルを被せた。よく覚えてないが、冷やせば良かった気がする。風魔法も追加しておく。扇風機がわりになるだろ。


 コウコは乙女だと自称して、リアムと一緒に入っている。風呂としては隣なのだが、当然立派な壁に間を隔てられていた。チート魔法で覗けるんじゃないかと思うだろ? オレも思った。だが我慢だ。見ちゃったら、絶対に鼻血噴くもん。誤魔化しきれない。


 聖獣がついていれば、護衛は問題なし。スパ施設は貸切、こんなにのんびりしたの久しぶりだった。


 砦をひとつ取り返しに行っただけなのに、南の国を攻め落とし、東の国を占拠する。おかげで一週間程度のつもりだった戦場が、一ヶ月近くに延長された。オレとしては、このくらいの褒美は当然だ。


 聖獣が神様の分割した姿だとか、世界の秘密だとか。余計なことを知りすぎたので、まったり休みながら情報も整理したいし。


「ほら、喉乾いただろ」


「おう。ありがと」


 受け取って深く考えずに瓶に口をつけた。ぐいっと飲んだら喉が焼ける。咳き込んで瓶を見ると、ワインのラベルが貼られていた。


「くそっ、盛られた」


「毒みたいに言うなよ。うまいんだぞ、これ」


 白ワインが、火照った体に急速に回る。世界も視界もぐるぐる回り、オレは抗えずに横たわった。ごろんと倒れたオレの視界では、天井の模様まで回る気がする。


「我が君!」


『主殿は酒に弱いのか』


 ヒジリの呆れ声が最後の記憶で、オレはそのまま眠りについた。……死んでないからな? ただ本当に眠っただけだ。それが不思議なことに、半分くらい意識が残ったような感覚だった。外で起きてることが何となく伝わってくるし、理解できる。でも手足が動かないし、目が開かない。


 意識はふわふわと安定しなくて、心地よさだけが残った。

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