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247.オレだけ酢豚

 自分の前に置いた肉だけ違う。そう、酢豚が食べたかったのだ。黒酢ドレッシング掛けた唐揚げもあるが、少量の酢豚も用意した。鍋用の野菜をちょろまかし、素揚げにしたんだよ。


 黒酢に砂糖や醤油を少し足して味を見ながら、肉と野菜に絡めた。何か足りない。そう、あの独特のとろみがないわけ。もうまぶしちゃったので、魔法でとろみをつけてみた。


 あれだろ。本当は肉や野菜にかける前に、白い粉を入れてとろみをつけるんだ。見たことはある。テレビで……ちなみにあの粉は小麦粉でファイナルアンサー?


 魔法でやったら一発だったし、食べたことがある酢豚はイメージしやすかった。とろりとした黒酢餡を一口、こりゃうまい。お粥もどきの鍋が進むわ! 普通にご飯炊けばよかった。


 かっこんでいると、酢豚の減りがおかしい。鍋の粥を食べる間に減っていく。注意して見ていたら、まずヒジリ。次にブラウとコウコがひとつずつ。マロンはそわそわしてるが手を出せず、スノーがマロンの口に押し込んだ。そして自分の分を持って机の下に逃げる。


 えらいぞ、スノー。弟分を労るところは感激した。ただこれはオレの飯だからな? 危ないので手元に引き寄せた皿を見ると、先ほどより減っていた。顔を上げた先で、レイルが自分のフォークに刺した黒酢餡酢豚を口に入れる。


「おい」


「ケチケチすんな。明日の昼はこれにしろよ」


「やだ」


 ムッとしたので唇を尖らせて「拗ねたぞ」とアピールしながら拒否する。が、次の一言で撤回した。


「そしたら明日の昼にロープ外す予定だったんだけど?」


「作らせていただきます、レイルお兄様」


 きりっと返す。その手元でこっそりベルナルドが酢豚にフォークを伸ばした。くそっ……年上だと拒みにくいぞ。仕方なく彼が肉をゲットするのを見逃し、直後にのびた青猫の手を叩いた。お前は2度目だからダメだ。


 攻防戦を向かいで肘をついて眺めながら、レイルがくつくつと喉を震わせて笑う。


「異世界人ってのは、化け物みたいなのかと思ってたが……ほんと、お前は飽きないな」


「お礼を言うところ、かな?」


 戯けて返したオレに、いきなり真剣な顔で近づいた。ごくりと喉を鳴らして待てば、情報をひとつ。


「皇帝陛下が危険だ。貴族連中が何か画策してるぞ」


 リアムに危険が迫ってる? 貴族連中に女性だってバレたとか。もしくはシフェルもオレもいないから、ウルスラだけじゃ抑えが効いてない?


 顔色を変えたオレに、レイルはもうひとつ肉を掠め取りながら肩をすくめた。


「主に貞操の面で……あとは自分で調べろよ」


 肉の対価の範囲はここまでだ。そう告げた情報屋に、オレは笑顔で金貨入りの革袋を積んだ。


「お仕事、しない?」


「……くくっ、そう言うと思ったぜ」


 音を立ててハイタッチして、オレ達は笑う。もうひとつの形式美というか、これはお約束のやり取りなんだ。レイルはすでに情報を手元に持ってて、売りたい。オレはすぐに情報が欲しい。そこで金のやり取りが発生するのは友情に相応しくないって? 綺麗ごとじゃご飯食べられないんだよ。


 レイルは自分の組織の連中にご飯を食べさせ、宿を提供し、衣服だって揃えてやらなきゃならない。どれだけ金がかかるか、想像できるだろ。孤児院の運営並みに経費がかかる。巨大企業の社長と考えればわかりやすいかも。たとえ従兄弟でも仲良しの親友でも、仕事の対価はきちんと支払う。


 友情が壊れる原因のひとつが金、残りは恋愛。幸いにして恋愛は絡まなかったから、金の問題はきっちりする。恩人で友人のレイルに報いるのは当然だし、彼もオレが金払いよければ情報を持ってきやすいだろう? 目の前で困ってるオレが彼に金払わないと、友情と仕事の割り切りの間で苦しむのはレイルだ。


 まあ……そんな甘い奴じゃないと思うけどね。オレはレイルと友情を切らさないために、仕事にはきっちり報酬を出す。そこで値切るバカもしない。


 将来、金に困ったら「くれ」って強請るかもしれないけどさ。借りたら貸さなきゃならないからな。それくらいなら「くれ」って言う。本当に困ったときは、プライドが役に立たないのを知ってるからだ。


「情報は手元にあるが……紙か? 言葉か」


「言葉」


 直接貰う。受け取った証拠は残さない。もしもだが、外に漏れたらリアムの評判に傷がつくかもしれない。貞操関連って、そういう意味に受け取れる。オレの即答に、レイルの口角が持ち上がった。答えはお気に召したみたいだな。


「ちょっとこっち来い」


 素直に立ち上がったが、思い出して振り返る。もちろん遅かった。机の皿に残っていたオレの酢豚は、ジークムンド達や聖獣の腹の中だ。明日の酢豚減らすぞ。睨みつけて、でももう野菜が残ってるだけの皿から、人参に似た青い野菜を口に放り込んだ。


「スノー、お願いがある。酸っぱい果物探して」


『主様、僕は酸っぱいの嫌いです』


「料理に使うから。ブラウが知ってる、頼むな」


 パイナップルをどう説明したらいいか。外見を説明しても、おそらく色も形も違う気がする。酸っぱいのを数種類集めれば、使える果物もあるだろう。ブラウが『ぱいんあっぷるぅ』と叫びながら通り過ぎ、スノーに尻尾を掴まれた。協力して頑張ってくれ。オレは学校給食の酢豚に入ってたパイナップル好きだったから。

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