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246.機嫌取りなら唐揚げだろ

 腰に巻いたロープを引きずって歩くオレに、同情と怪訝そうな視線が向けられる。どう見ても捕獲された犯人だ。手が自由だから解けばいいって? やってみろ、殺されるぞ――レイルに。


 ここは大人しくして信用を積むのが大事だ。明日になったら、一度転移する許可を得た。お昼を作ったら転移し、夕方の食事を作る時間までに戻る。これをこなせれば、ロープを解いてくれるって約束だった。


 大丈夫、オレはやれば出来る子だ!


「夕飯はパン……が足りないから、粥。肉はこないだの兎っぽいやつ」


 黒酢で揉むと柔らかいアイツを唐揚げにしてやんぜ! でもって黒酢を使った酢豚風に仕上げる。ちなみに野菜は適当に見た目で選んだ。いまだにどの野菜が前世界の人参なのか、切ってみないとわからない。ノアに頼りすぎてたな。


 ジャック班のノアとサシャが東の国に居残りなので、今回の移動は料理できる傭兵が半減した。ジークムンド班は基本的に、煮るだけ、焼くだけだ。味付けも塩胡椒程度だから、期待はできなかった。


「ブラウ、野菜と肉のカット。ヒジリはかまど、コウコは火をつけて、スノーは鍋に水を張る。あ、今日はこの鍋に水入れるなよ」


 ひとつだけ揚げ物用に鍋を分ける。水が入ると撥ねて危ないので、裏返して用意した。マロンがそわそわしながら目を輝かせているので、手招きする。


「マロンはオレの補佐。今日は揚げ物があるから、やけど注意だぞ」


『わかりました』


 いい返事だが、こう言う時ほど危ない。いわゆるフラグの一種だ。危険だから揚げ物はオレがやろう。


「おう、こいつらに料理を教えてやってくれ。ボス」


 ジークムンドが、悪人顔でにやりと笑う。後ろで笑ってるのは、これまた人相の悪い男ばかりだ。どうみても堅気じゃない。まあ、傭兵稼業が堅気じゃないと言われたら、その通りなんだが。


 中身は人のいい連中なんだよな。鍛えすぎで首に三角に筋肉がついたり、 顔に傷負ってたりするだけで。体も傷だらけだが、気はいい奴らだ。おずおずと奴隷だった連中がやってきた。


「あの……お手伝いを」


「仕事をください」


 あ、そうか。仕事しないと食べちゃいけないと教えられてるんだっけ。その考えを直すのは孤児院の指導員に任せるとして、気に病まずご飯食べさせてやるのが第一歩か。


「ブラウ、皮剥き残ってる?」


『終わったよ』


「スノー、水汲みは?」


『もう溜めてあります』


 得意げな聖獣達の声に振り返ると、いつも通り手際よく準備が整っていた。種類別にカットされた野菜と肉、お湯の沸いたかまどの鍋達……やばい、手伝う場所がほとんどない。


 奴隷だった人が30人以上。鍋を掻き回す人と炒める人、食器の準備まで入れても仕事が10人分しかなかった。


「……仕事、仕事」


 拝むようにして待っている元奴隷の仕事、か。ふと思いついて提案してみる。


「なあ、マッサージって出来るか?」


「はい、私はできます」


「したことありませんが、覚えます」


 意欲的だな。経験者1人に未経験者2人をつけて、3人一組で傭兵達のマッサージを頼むことにした。言うなよ、わかってるさ。オレだって、これが苦肉の策だってことくらい。


 ジークムンド達もずっと野営で疲れてるし、慰労を兼ねたマッサージはいいと思う。事実、おおむね好評だった。その間に杓文字を渡して鍋を管理してもらい、大急ぎで米を煮る。


 炊いてから入れる時間が勿体無いので、いきなり生米から鍋に投入して粥にした。見慣れない食べ物に、傭兵達はドン引き……と思いきや、オレの奇抜な異世界料理に慣れた彼らは目を輝かせた。


 見たことないが、うまいに違いない。勝手にハードルを上げないでくれ。作った粥に野菜と骨つき肉を入れる。食べる頃には肉が骨から剥がれるだろうし。


 肉の大部分は唐揚げの予定だ。下味を醤油でつけて、少し迷ってハーブも添えた。匂いがいいと思うんだよね、相性とかわからんけど。


 黒酢で揉んで柔らかくした肉に、小麦粉、卵、パン粉……おっとこれだとトンカツだ。小麦粉に卵入れて混ぜたどろどろの液体をつけて、油の中にどぼん。ちなみにこの油は退治した魔物肉から削いだラードっぽいやつ。たぶん食えるはず。


 油で揚げれば、ほとんどの物は食えるさ。某国では下水から回収した油で揚げ物してた店もあったというし、死ななきゃ問題ない。死にかけたら、責任持って生き返らせるんで安心してくれ。


 油はあっという間に溶けていく。真っ白に濁ってた塊が、熱を加えると透明に近くなるのは感動ものだ。見ていた調理担当の元奴隷や傭兵から拍手が起きた。


 得意げに笑って、油に肉を投入する。っと、半端なく跳ねた! 温度が高いのか? よくわからん。母の手伝いをしておけば良かった。怖いので結界で蓋をする。しばらく見ていると肉が浮いてきた。結界で包んだ手でちょいっとひっくり返し、狐色になったら皿に移動させる。見ていた傭兵が真似しようとしたので、がうっと威嚇した。


「危ないっ! 真似しない!!」


「真似できない技術を使うな」


 後ろからもっともな指摘をして頭を叩いたのは、レイルだった。確かに教えてやれと言われたんだから、真似できるように箸を使うべきだったか。


「うう、痛い。レイルの虐待野郎」


「本当に虐待してやろうか?」


「ごめんなさい、レイルお兄ちゃん」


 速攻で謝った。意志が弱いとか言うなよ。これが元引きこもりの実力だ。危なくなったら引くのが大事なんだよ。引き際を誤ると大惨事に発展するからな。フラグじゃないぞ。


 この世界だと菜箸がないんだよな。探せばあるのかもしれないが、ひとまずお玉を取り出す。これだと油ごと掬ってしまうので、マロンの出番だ!


「マロン、おいで。仕事だよ」


『ご主人様、僕が役に立ちますか』


 少年姿だが、後ろに犬の尻尾の幻影が見える。とことこ近づいたマロンへお玉を差し出した。


「これに小さな穴をいっぱい開けて欲しい。金属加工が得意なマロンだから頼むんだぞ」


 他の奴には任せられない。そう匂わせると、大喜びで穴を開け始めた。爪の先で……そう、爪でぐさっと刺すと穴が空く。おかしくね? 


 ぐるぐると動かし、器用に丸い穴をたくさん開けてもらった。出来上がった作品に文句はない。いわゆる穴開きお玉だ。素人にも使い勝手がいい道具が一番だった。


『僕も手伝いたいです』


「聖獣だし、いけるか」


 足元に土魔法で踏み台を作ってやり、穴空きお玉片手のマロンに手本を見せる。浮いている肉を掬って、油が切れたら皿に乗せた。簡単な作業だ。


「裏が白っぽいのは、まだだからくるんと回す」


 熱心にメモを取るベルナルドをよそに、オレは丁寧に説明した。大きく頷いたマロンに任せ、オレは肉を入れる役に徹する。いい匂いが漂う教会っぽい建造物の庭は、あっという間に人集りができた。気のせいかな、外部の人が入ってきてないか?


 バーベキューすると、いつの間にか合計人数が増えてるアレだろ? 心霊現象。全員で「誰かの知り合いだろう」と思ってるけど、実際は誰も知らない奴が紛れてる都市伝説だ。


 大量の唐揚げが複数の皿に盛られ、周囲をサラダで飾った。見た目は豪華だ。問題は味だが……実は上から黒酢で作ったドレッシングをかけた。胃がすっきりして食べやすいと思うんだよ。


「いただきます」


「「「いただきます」」」


「「「ます」」」


 一部聞き取れなかった連中が、誤魔化してたがまあいいか。唐揚げは恐ろしく好評で、足りなくなって途中で追加するハメになった。オレが揚げながら食べる横で、聖獣達も勢いよくがっつく。食べやすくするのも問題だな。普段の倍の肉が消費されていった。

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