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237.金色のタマネギの下で

 あれですね、王族がクソなら部下の貴族もクソだった……。該当する単語がほかに見つからないオレは、やたらと豪華な建物を前に、ぽかんと口を開けて立ち尽くす。


 アラブとかのタマネギ形の屋根が、ぴかぴかなのですよ。金箔? 金メッキ? この世界の標準的な技術が不明だから判断できないけど、とにかく金に光ってた。壁にも複雑で細かい模様が彩色なのかタイルなのか、びっしり!


「すげぇ……悪趣味」


 ぶっと噴き出したレイルが「言うに事欠いてそれかよ」と賛同する。後ろで眉をひそめるジャックが、連れてきたアーサー爺さんを振り返った。


「なんでこんな金掛けた建物に許可でてるんだ?」


 言外に、宰相だった父の無能ぶりを指摘する。無精ひげをいじりながら、アーサー爺さんが溜め息をついた。


「これでも地味にさせたのだが……息子が無能なのは認めよう。あれはどうにも圧力に弱くてな」


 圧力をかけられて屈したわけですね。王族に賄賂を渡して、圧力かけてもらったクチかな? にしても、地味にしてこれか。この金箔だかメッキの一部を使ったら、孤児の救済費用が出そうだ。奴隷だった子達の退職金と今後の生活費も必要だし……。


「ある意味、貯めこんでくれる悪党でよかったかも」


 ぼそっと呟いて、唖然とするライアン達を手招きした。ノアは拳銃とナイフ、ライアンが小銃でサシャは大きめの剣だ。それぞれに愛用の武器を手に突入待ちの状態なのだが、武器を持たずにシフェルは腕を組んだ。


「シフェルは待ってる?」


「全体を俯瞰する者が必要でしょう?」


 指揮官として、どこか見晴らしの良い場所で待ってると言われた。それもそうだ。何より中央の近衛騎士団長が、他国の制圧に加わると政治問題に発展しそうだし。


「逃げる奴がいたら知らせて。これ通信機替わりね」


 シフェルの手の甲にぺたりと魔法陣を貼り付ける。これ、すごい発明だと思う。魔法陣を薄いシール状にしたいと思いながら描いたら、透明なシート状態にできた。肌や道具に貼れるし、使用する魔力量も少ない良品だ。


「……相変わらず、狡くて非常識な能力ですね」


「褒められちゃった」


 にやにやしながら聖獣達を振り返る。実はこのアイディアを形にするため、彼らの力を借りたのだ。新しいチート能力きた――っ!! って感じ。手招きして、ジャック達やレイルにも貼り付けた。


「これ、呪いとかじゃねえよな?」


「あとで取れるんだろ」


 ……いっそ呪ってやろうか? オレのチートの恩恵を素直に受けろ! 叫んで飛び掛かったら、上に担がれてジャックの肩車に落ち着いた。よくわからんが視界が高いのはいい。


 ジャックの短い髪を掴んで馬代わりにしようとしたら、足元でマロンがぴょんぴょん跳ねた。


『ご主人様、僕に乗って、僕に!!』


 必死で叫ぶが、今のお前……少年姿だぞ? 乗ったら潰れるんだけどね。口にする前に、マロン自身が気づいたようで慌てて馬に戻った。足を踏み鳴らされ、苦笑いしたジャックに背中に乗せられる。甘やかした分だけ、我が侭になってきたなぁ。


「馬に乗って入ったら、ドアくぐれないんじゃ?」


 玄関で馬だけ通過してオレが後ろに落ちるコントは要らない。きりっと指摘したところ、無駄に大きな扉だから玄関は潜れると思う旨の答えがあった。ほんと、無駄遣いの建物だ。


「よし! 作戦はなしで奴隷解放と行こうぜ」


 一狩り行くテンションで号令をかけると、そこは孤児出身の傭兵ばかり。あっという間に散開して思い思いの場所から突入した。上の階はオレが担当するので、全員地下に向かってもらう。偉い人って高いところ好きだから、一般的に罪人や奴隷は地下室だろ。予想は大当たりだった。


「いたぞ」


 通信が入って、オレは上の階の確認を終えてからマロンと一緒に地下室へ向かう。ちなみにマロンは少年姿になってもらった。いくら差し押さえ中でも馬で屋内を歩くのは失礼かな? と考えた。この辺が間違いなく自分は日本人と認識する部分だ。


 王族もいなくなったので、この国の制度はがたがただ。この際だから建て直せばいい。王侯貴族を全員、国民の権限で解任する。そのうえで、有能な奴が貴族なり王族をやればいいだろ。この辺はアーサー爺さんが頑張ってくれれば、何とかなりそう。ジャック父は役立たずだから、名前すら覚える気がないけどね。


『ご主人様、また奴隷ですか?』


「うん。ひとまずご飯食べさせて、きれいな服着せて。暮らしていくのに必要なことを教える。無理そうならどこかで雇ってもらう手もあるからね」


 奴隷の子達と一緒にいて、独立させる手筈は整える。無理な子は命令されて仕事が出来る下働きや兵士なんかがいいかも。兵士は寮もあって食いっぱぐれない上、仕事は上官が命令してくれるから悩まない。うん、女の子ならメイドさんもいけるか。


 ある程度見通しをつけたところで外へ出て、金ピカで趣味の悪い屋根をじっくり眺めた。久しぶりに水筒持ったノアが近づいてくる。遠慮なく受け取って口をつけた。あ、これ紅茶だ。


「屋根を光らせてどうする気なんだ?」


「わかんないけど、目立ちたかったんじゃない?」


 オレに聞かれても、趣味の悪い悪党の心境なんざ知らんけど。悪い奴ってラノベやアニメの中でも、趣味悪い目立ち方を好む傾向があるよな。あれ、テンプレなのかも。


「ひとまず、屋根の金を溶かすか剥がしたら使えそう」


 イメージは雨が流れてくる感じで、あの金が溶けたらいいな……だった。突然どろっと金が動いて、慌てたオレは雨どいの先に鍋を置く。寸胴タイプを置くのに邪魔なので、雨どいは膝上の高さで切らせてもらったけど。


『主、何……これ』


「たぶん、金?」


『混ぜ物が多く質が悪いぞ、主殿。精製しておこう』


 ヒジリが鍋を覗くと、一瞬だけピカっと光った。流れてきた金は安っぽい黄色系だったのに、精製後は山吹色になった。これが時代劇で出てくる「そちも悪よのぉ」の小判か。確かに山吹色のお菓子だ。


『そちらも悪よのぉ……』


 お約束のブラウの呟きに、オレはにやりと笑う。しかしヒジリは知らなかったようで、侮辱されたと青猫を咥えて足元へ放り込んだ。親指立てて沈んでくところだが、残念ながら頭から突っ込まれたらしい。前足は真っ先に吸い込まれた。


「お約束なのに」


 残念と思いながら鍋を振り返ると……金が溢れそうだった。


「キヨ!」


「わかってる。秘儀、鍋交換の術!!」


 えいっと満タンの鍋に手を触れて収納した直後、すぐに新しい鍋を置いた。だいぶ勢いが弱くなったが、金の回収は無事できそうだ。数歩さがって屋根を見上げると、緑がかったタマネギが見える。タマネギ、青くなったぞ……。


 金回収作業の間に、奴隷だった人達が地下室から解放された。庭に出てくると、これまたお約束の仕草で目を手で覆う。眩しいと思う度合いが人によって違うのは、外作業に駆り出された周期だろうか。すぐに手を離して喜ぶ人もいれば、茫然としている人もいた。


 鎖を外してもらうと、大喜びで走る子もいる。あの子達はまだ奴隷になって間もないんだな。外に連れ出されてソリを引いてた子達と明らかに違った。


「奴隷の焼き印がされてた。胸糞悪い」


 人間を何だと思ってるんだ。そんな口調でサシャが戻ってくる。肩や首、中には鎖骨のあたりにある火傷の痕がそれか。よく見ると、確かにカステラに押してある刻印みたいなマークが入っていた。


「あれが傷に該当するなら、治癒の対象かな……ヒジリ、ん?……ヒジリぃ」


 隣にいると思って話しかけたヒジリがいなくて、きょろきょろすると足元から飛び出してきた。


『古傷は治りにくいが、根気よく治療すれば消えるぞ』


 なるほど。そこらへんは普通の治療と同じか。納得したところで、後ろからマロンが口をはさんだ。


『ご主人様なら一瞬で消せますよ、たぶん』


『出来そうよね、非常識だから』


 コウコが後押しするので、試してみたくなった。外に出たものの、命令がないので動かないのは古参の奴隷だろう。ぺたんと地面に座り込んだおっさんに近づき、首についた焼き印に手をかざした。


 治れ! 

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