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236.同情するなら止めてやれ

 朝食は子供達と一緒に食べた。スノーがご機嫌で旗を振りまわし、それを見て子供達が喜ぶ。それを複雑そうな表情で見ながら、ジャックが説明してくれた。


「奴隷ってのは命令を待つのも仕事だ。でもって何も仕事をもらえない日は食事もない。だから白の聖獣殿が気を遣ったんだろ」


 子供の奴隷ってことは、おそらく親の記憶も曖昧だ。常に奴隷としての扱われ方しか知らない。新しく彼らの面倒を見るなら、ひとまず仕事を与えてやる必要があったらしい。その辺はスノーが意外と詳しかった。


『この東の国以外で、奴隷は存在しませんからね』


 得意げに扱いは任せろと請け負った白蜥蜴は、さりげなく子供達の膝の上に座っている。あーんと口を開け、子供がこぞって食事を匙で運んだ。今日の仕事はこれだ。スノーの食事の介助……介護? どっちでもいいか。


 神様だから気が利くのかと思ったけど、同じことをブラウができるか? と問われたら否定する。個体差か。


 各国で奴隷制度が廃止され、最後まで残ったのが東の国だった。ここは歴史の授業でも学んでいる。そのせいで、祖父の代まで奴隷制度があった貴族の一部が、まだ奴隷を解放していないようだ。今回もそういった事例の一端だった。


 奴隷の子供は奴隷。親も奴隷だから疑問を持たず、そのまま使役されてたみたい。この子達は自由を知らないし、憧れることもない。可哀想と同情される数歩手前だった。


「この子達、先に孤児院へ送ろうか」


「ん。ジークムンド班の若い連中が暇持て余してるから、依頼したらどうだ?」


「いいね、それ」


 国境付近で「待て」させたままは勿体ない。体を動かすのが好きな連中だから、護衛任務はぴったりだった。しかも彼らも孤児だから、正規兵と違って上手に奴隷の子も扱えるだろう。


「レイルがいりゃよかったが、誰か呼ぶか」


 ジャックは今回の東の国のあれこれに重要な宰相家の坊ちゃん(……笑う)なので、遣いの人を派遣して誰か呼ぶことにした。


 地下牢作戦については、シフェルが真剣に案を練っている。多少の無理は聖獣とオレでなんとかすると約束したら、それはそれは美しい笑顔で「試してみたい拷問があったんです」と言われた。


 オレは悪魔と契約したのか? まあいいや、人道外れた人は、それなりの地獄を巡っていただきましょう。オレには関係ない。


 煮浸し状態の濃色野菜と、粥に似た麦っぽい歯応えのある穀物を食べる。朝食は中華風味付けのオートミールっぽい粥だった。なんだ、この混じった多国籍料理……不味くないのが逆に怖い。漬物欲しい。ひとまず梅を取り出して乗せてみた。潰して混ぜると美味い。


『主人、スノーを止めて』


 何事かと振り向くと、リス状態に頬を膨らませ、妊婦並みの腹をした白蜥蜴? が転がっている。仕事を欲する子供達に孕まされ……じゃなかった、頬ぱんぱんにされたらしい。


「スノー、無理するな。みんなも仕事終わりだから、残ったの全部食べていいよ」


 好きにしなさいと言った途端、目を輝かせて頬に詰め込む。いや……食べていいと許可したんであって、頬袋は使わなくていいぞ。一番小さな子がハムスター状態になったのを見て、ベルナルドがそっと涙を拭う。


 同情するなら、止めてやれ――放置するな。ブラウは猫サイズだが、棚の上から降りてこない。食事も棚の上に運び込んだ様子。オレがいない間に耳か尻尾を掴まれたな、アイツ。


 ヒジリはその点大型肉食獣の姿を保ったままなので、子供達も怖くて近づかなかった。コウコに尋ねる視線を向けると、ちろちろと舌を出しながら答える。


『あたくしはベルナルドの筋肉に巻きついてたわ』


 ああ、うん。そっか……。筋肉フェチだもんな、コウコ。


「コウコ、ベルナルドと契約するか?」


『悪くないけど、契約と筋肉は別よ』


 ベルナルドの太い腕に絡んだままでは、説得力ないぞ。でも契約変更までは考えてないのか。ああ、いけね。王族の復活が終わるまで、コウコと契約継続しないとマズイんだっけ。


 ご飯を詰め込んだ子供達に、孤児院用に作らせたゲームを取り出す。いわゆるトランプだ。この世界用にマークを5種類の聖獣にした。カードは各種10枚ずつで、ジョーカー役のボスカードを入れて51枚。


 遊び方はババ抜き限定だ。奴隷だった子達の年齢差が大きい。誰でも簡単にできるよう、マークが同じならオッケーにした。なお、このババ抜きは種類が奇数のため、失敗すると一般札が余る。そうしたらドローでやり直し。


 傭兵と遊んだ時は、あっという間に終わってしまったが……まあ時間潰し出来ると思う。他の遊び方も考えて教えてくれと言ったら、目を丸くしていた。単純作業を命じられることはあっても、頼られたりお願いされた経験はないみたい。


 嬉しそうに頷いた子供達を全員撫でて、部屋に案内した。ジャックの祖父の屋敷の侍女達に、お菓子や飲み物を切らさないようお願いする。しばらくは満腹でも不安だろうから、いつでも食べ物が与えられる環境を作って安心させたい。そう口にしたら涙を浮かべて頷かれた。


 同情してくれてるなら、ひどい扱いはないだろう。安心して屋敷を抜けられる。


「ジーク班の呼び出しに加えて……ジャック班招集して」


「わかった」


 他の奴隷がいる屋敷を襲う。言い切ったオレに、ジャックが短く了承した。手早く指示を伝え、早馬の騎士が駆け出す。馬を使う彼らがキャンプ地につくまで1日、帰ってくるのに1日か。もしかしたら半日くらい早いかも。


「被害者救済活動しようぜ!」


 気持ちは奴隷解放運動である。ただ、奴隷奴隷と連呼するのはどうかと思うわけで……ここは被害者の救済が一番ふさわしい単語じゃないかな。


「まずは奴隷を持ってそうな貴族リスト、それから家の場所と見取り図だな」


「両方用意できたぞ、高く買ってもらおうか」


 にやにやしながらレイルが近づく。それからオレの頭をこつんと叩いた。拳骨って、あの骨が当たるとかなり痛い。涙目で唸りながら睨むと、書類を目の前に置きながら叱られた。


「お前、最近油断してるぞ。ったく、魔力感知切ってるだろ」


「うん……ごめん」


 確かにジャックの実家に来たあたりから楽してた。敵は目視できるし、聖獣勢揃いだったから。ベルナルドも護衛についてる。オレがそんなに警戒しなくてもいいかな……と思ってしまった。


「おれの手下がお前の頭上に到達しても、ちらりとも見ねえし……ったく。あのままなら暗殺されるぞ」


 叱ってくれる人がいるうちが華だっけ? ごめんと両手を合わせて謝ると、仕方ないといった様子でオレの頭を撫でた。乱暴な動きだが頬が緩んでしまう。


「お前を子ども扱いできる奴も減ったし……おれが見てやらねえと」


「ありがとう、レイル()()


「従兄弟だけどな。そういうのはシンに言ってやれ。喜ぶぞ」


 シン兄様と呼んだら、監禁されそうなほど可愛がってくれるだろう。語尾にハートマークつけたら、北の国に拉致は確定だった。


 レイルが持ってきたリストと見取り図、どちらも完ぺきだった。何なら、某侯爵家の緊急時に使う抜け道まで書かれてる。


「これ、詳しすぎて逆に怖い」


「ん? 建設時によくやるだろ。秘密の通路作った職人が殺されるやつ……あれを助けただけだ」


 こつこつと集めたんだが、役に立つもんだと笑う。この赤毛の情報屋が一番強い気がしてきた。どんな人生送ったら、元王子様がここまでしぶとくなるのやら。まあ、オレとしては最高に頼れる従兄弟だけどね。短剣や毒の勉強の師匠でもあるから、尊敬してるけど。


「メンバー決まったのか?」


「うん、いつもの……ジャック、ノア、サシャ、ライアンかな」


 ジャック班のメンバーを口にする。あの4人はずっとオレを助けてくれてるし、気心知れてて戦いの呼吸も合わせやすい。後ろからベルナルドの必死の声が被さった。


「我が君、護衛にお連れください」


「あ、ああ。ベルナルドも」


 ほっとした様子のベルナルドを見ながら、レイルががしがしと短い髪をかき乱した。


「くそっ、次々と誑し込みやがって」


「レイル。オレをビッチみたく言うな」


「……節操なし、合ってるじゃねえか」


 今までに味方に引っ張り込んだ連中の名前を羅列され、オレは反論できないまま「節操なしですんません」と謝る羽目になった。

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