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234.ヒントはあちこちに

「それは」


 口籠もったのはアーサー爺さん。考えてみたら妙なんだよな。聖獣が契約した人間がいないと、国の領地が保てない。それが世界のルールで、理だったなら……。


「どうして人間が戦って、他国の領地を手に入れられる?」


 オレの疑問に答えを持つ人間はいなかった。ガツガツとお菓子を頬張る子供達に「慌てなくてもたくさんあるぞ」と目の前に積み上げてやる。驚いた顔に「いいの?」と書いてあるので、大きく頷いた。


 少し安心したようで、ゆっくり食べ始める。お茶にも手を伸ばす余裕が出てきた。気の毒そうな顔をするセシリアが、お茶のお代わりを注ぐ。貴族のお嬢様だったわりに、普通の子みたいだ。


「キヨの予想を聞かせてください」


 考え込んだシフェルは、自分の意見を一時保留にした。異世界人じゃなければ気づかなかっただろう。だって宗教がないこの世界で、聖獣は宗教に近い。生き神様状態の聖獣がいるのに、疑うことはなかった。


「予想……うん、本当に仮定の話だから真実はわからないけど。この世界で聖獣が神なら、人間が主君になるのおかしいだろ。主ってことは、オレが聖獣の上に立つんだ。皇帝陛下や王族より偉い立場に、世界を知らない異世界人がいたら困るじゃん。世界のルールも知らない奴だぞ」


「ですが、キヨ様は」


 ベルナルドがすかさず、忠誠を誓った部下の欲目で反論しかけるが、オレは手をあげて遮った。


「ごめん、まずは聞いて」


 お茶を一口飲んで喉を湿らせて、再び口を開く。


「もしオレが殺人狂だったら? 聖獣を使って世界を滅ぼすかも知れない。そんな危険な奴が主になれるのが変だ。この世界の人間同士が争って、国境線が変わるのもおかしい。聖獣が作って決めた領地が、勝手に変更になること……それは聖獣の力関係ならわかるけど」


 たとえば中央のヒジリが西のブラウと戦って勝てば、西の領地が減るだろう。ヒジリの領地が増える理由もわかる。でも代理人ですらない人間が戦って、どうして領地が動く?


「一番最初におかしいなと感じたのは、中央の国を放り出したヒジリが西にいたこと。契約者の皇帝陛下は生きてて、聖獣だけ他国にいるなんて。それでいて戦ったら西の国が負ける。しかも西に自治領があったじゃん」


 ユハが所属していた領主のいた土地、あの飛び地が疑問の発信地だった。


「あの自治領の聖獣って、誰よ」


「……飛び地、でしたね」


 領土が繋がっていないのに、西の国と認識される理由は? 自治領に聖獣はいない。だがあの場所でオレはヒジリと出会った。


 くるりと振り返ると、聖獣達は全員影に逃げ込んでいる。それがひとつの答えだった。


「聖獣のいない自治領が飛び地として存在し、聖獣同士の力関係を無視して陣地とりが出来る。そう考えるとおかしくないか?」


 オレの疑問にようやくシフェルが口を挟んだ。ずっと考え込んでたのは立場があるから。迂闊なこと言えないもんな。そういう事情も考えられるようになったあたりは、オレも成長したと思う。


「黒豹の聖獣殿と皇帝陛下の契約は切れていません」


「うん」


「ですが聖獣殿は、中央の国を出ていた」


「そう」


 相槌を打ちながら、オレもお菓子を齧る。シフェルは前提条件を呟きながら、考えをまとめ始めた。


 聖獣の契約者が王族、王族を支えるのが貴族、そして国民だ。これはわかりやすい。だが王族がいなければ国土が失われるのはどうしてだ? オレが知る異世界物は、王族が死んだら交代するだけだ。それが魔王だったり英雄だったりするだけ。他国の侵略で国土を奪えるのに、聖獣がそこに関与しないのは不思議だった。


 たとえば、戦で勝って「ここまで欲しい」と花一匁みたいに要求したとしようか。負けた国が承諾しても、聖獣には無関係だ。聖獣が承諾しないのに土地の所有権が動くなら、聖獣がいなくても土地は消えないはず。


 オレの考えを例えると、聖獣は大家でアパートという国土を契約した王族という店子に貸していると思っていた。だけど、勝手に又貸ししたら契約違反じゃん。知らない人住まわせてもアウトだろ。ついでに店子が出てっても、アパートが消えたりはしない。それは大家の財産だからだ。


 こうやって整理するとおかしい。今の状況だと店子が消えたり死んだら、大家は建物をすべて壊して更地にする話になってしまう。その際に家財道具である国民を道連れにするのか?


 アパートを残して、大家は次の店子を探せば済む話じゃないか。まだ家財道具の国民やアパートの住人がいる状況で建物を壊すような、聖獣の契約解除も変だった。一方的すぎる。


「もしかして……すっごく嫌な予感がするんだけど」


 そのさきを口にする前に、オレは齧ったクッキーごと草原にいた。ここは覚えている。死んだオレがカミサマと出会った場所で、ちくちくしない芝が植えられた丘だった。


「聖獣ってカミサマの一部だったりしない?」


『勘のいいガキは嫌いだよ』


 あ、それ両手を合わせて錬成しちゃう系のアニメ。個人的に漫画の原作の方が好きでした。じゃなくて……。


「お久しぶり、カミサマ」


『君は好き勝手楽しんでるみたいだね』


 振り返った先に、見覚えのある子供がいた。


 黒髪で地味な感じの、どこにもいそうな子供。こうして単独で向かい合えば認識できるけど、人混みですれ違っても気づかないと思う。


『地味って、ひどいな』


 僕は頭の中を読めるんだけどね。そう付け加えたカミサマだが、正直取り繕って頭を下げる気はない。勝手にトレードしたくせに。それなりに楽しんでるけど、死にそうな目に何度も遭遇した。オレの思うチートと違う。


「こう……魔法で戦う世界を想像してたわけだ、オレは」


『銃撃戦があるから君を選んだんだよ? 当然じゃない』


 何を馬鹿なこと言ってるの。そう笑い飛ばしたカミサマの隣にどっかり座って寝転ぶ。青空はどこまでも高くて雲ひとつなかった。確かに現実感ない。


「ここにいる時間って、向こうは止まってるの?」


『君は止まるけど、周囲の時間は動いてるよ』


「はぁ??」


 地を這うような脅迫系の声が出たが、それも仕方あるまい。なにそのしょぼい設定、突然オレがフリーズした形かよ。パソコンじゃあるまいし、あっちはパニックだろう。


「早く返してくれ」


『君が考えてた話を蒸し返さないならね。あれはこの世界の神に関わる出来事で、重要な機密なんだ』


「……でも話しちゃった」


 途中までだが、仮定を聞かせてしまった。問い詰められたら答えてしまう自信がある。拷問されなくてもだ。


『君ってそういう子だったね。安心して、この話は消しておくから』


 便利な能力だが、だったらどうしてオレを連れてきた? 一緒に記憶を消せばいいじゃないか。


『君はすでに向こうの世界の住人だよ。僕の管轄外で、こうして干渉するのも本来は違反行為だけど』


 前置いた上で、カミサマは予想に違わぬ真実を教えてくれた。


『聖獣はあの世界の神が分裂したもの。あれは罰なんだ』


 神々の争いだか競争だか、その辺の話は流して聞いた。長くなると体が死にそうだしね。カミサマも長く干渉するとバレるからと、手短にあらすじだけ話してくれた。


 とにかく争って負けた神が癇癪起こして、他の神の領域を荒らした。その罰として、魂や器を5つに裂かれる。それが聖獣で、神としての能力は半分以上眠ってるらしい。覚醒するために必要なのが、コンプリートできる主――つまりオレを探してた。ようやく見つけたからひとつになるんだって。


 正直、どうでもいいわ、うん。


「なんでオレだったんだ?」


『アニメ好きで引きこもりで、銃撃戦がある世界に耐え得る臆病者――僕があの神に頼まれたトレードの条件だよ』


 それだけ言い残し、オレは芝の丘から弾き出された。いつも思うんだけど、なんで落下なの? 浮上でもいいじゃん。死因になったから、落下は嫌いなんだよ。


 文句を言いながらオレは目を開いた。

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