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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第31章 お土産が優先だからね

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228.応急処置って大切

 急ぎでなけりゃ、レイルやジャックだって孤児を無視しなかっただろう。大人だから優先する順位を間違えたりしない。正しいことだよ。


 でもオレは子供だからね。異世界人だから。それを理由に好き勝手させてもらうよ。


「ジャック、この辺に空き家ない?」


「これはダミーだからいいぞ」


 壊すよと言ってないのに、察したらしい。領主の館を守るために、幾つかのダミー住宅がある。あっさりと情報を明かしたジャックに、レイルが苦笑いした。情報屋がいるのに、そんな秘匿情報を話すと一族で村八されるぞ。あ、すでに出奔済みだから構わないのか。


 指差されたのは、左側の小ぶりな2軒の家だった。見た目は誰か住んでそうな雰囲気だが、よく見ると中は何もない。外側だけ装ったハリボテのようだった。


 領主一族の許可があるので、遠慮なく壊させてもらおう。でも屋根があると使えるから、ひとまず入り口の鍵を破壊する。中は予想通りのがらんどうだった。2階建てなのに、屋根の梁まですとんと見通せる。田舎の納屋みたいだ。


「おいで」


 パンを齧る子供を手招きして中に入れた。用心深い子に、肉を見せて呼び込む。


「入ったらあげる」


 それでも入り口で立ち止まるから、以前に痛い目に遭ったのかな。野営用のシートを並べて、持っている食料を積み始めた。見たことがない量の食べ物に、子供は釣られて足を踏み入れる。白いパンに目を見開き、手に取ったが噛み付くまえに止まった。


「食べていいよ、友達も一緒に連れておいで。孤児だろ? お腹いっぱい食べろ」


 言いながら手抜きだが魔法で沸騰させた鍋のお湯に、肉と野菜をぶち込む。それから魔法でラップして沸騰のイメージ。レンチンは鍋が金属だからやめておいた。ばちっと音がしたら怖い。


 迷ったが、胃に優しいような気がして味噌味にする。味噌汁、いや豚汁? 肉が兎だから……兎汁か。混乱しながら味見して、頷いて器に盛った。作業の間に声をかけたのか、レイルが子供達を中に押し込んでいる。ジャックやベルナルドも子供を集めて連れてきた。


 味噌汁もどきを渡し、パンを奪い合わないよう言い聞かせる。たくさんあるのだと知れば、彼らも大人しく食べ始めた。


「この場は俺がいるから、先に行ってこい」


 レイルがぐしゃぐしゃと赤毛をかき上げる。面倒そうに居残り役に手を挙げるが、知ってるぞ。レイルは子供に優しいんだ。安心して任せられると言えば、うるさいと小突かれた。


 応急処置だけど、何もしないよりマシ。この後の継続的な支援は、東の国の出方次第だ。彼らが孤児を見捨てる決断をしたら、彼らはオレが中央の国に連れ帰ろう。孤児院もまだ建て増しできる敷地があるから、問題ない。金が足りなきゃ稼げばいいよ。


 食べるのに夢中な子供達を預け、オレはジャックと一緒に歩き始める。領主の館はすぐ目の前だった。豪華な邸宅を想像してたが、近づくと地味だ。蔦が覆う壁は古さを感じさせるが、洋館や古城の雰囲気でお洒落だし、新築にはない味がある。


「こんな目の前で子供が飢えてるってのに」


 舌打ちしたジャックが、門番に声をかけた。


「ジャックが戻ったと爺に伝えてくれ」


「爺、だと?」


 長年離れてた跡取りは、当然ながら顔パスが使えない。怪訝そうな顔をするが、門番はいきなり攻撃しなかった。この点で、オレの評価がすこし上昇する。前宰相であるジャックの祖父は、あの父親よりマシみたいだ。


「何を騒いで……ぼ、ぼっちゃま!?」


 爺という表現の意味がよくわかる。白髪頭のお爺さんが駆け寄ってきた。ジャックに坊ちゃん……ぶふっ。吹き出したオレの後ろで、ベルナルドが複雑そうな表情で笑いを堪える。貴族の子弟は成長しても、老執事に子供扱いされる機会があるため、他人事ではなかった。だが笑いを誘うのも事実で……。


「すぐにお通ししなさい」


 爺やさんのおかげで、するりと全員入り込んだ。ずっと手を繋いでるマロンは、門番に手を振られて笑顔で振り返している。優しくされたと喜んでいるので、よかったなと撫でた。彼の過去の経験からすると、門番は馬を城内に入れなかっただろうから、冷たい人という印象があったのかも。


「ぼっちゃま、どこにおられたのですか。旦那様がどれほど心配されたことか」


「わかった。文句も愚痴も聞くから、ひとまず祖父様を呼んでくれないか。あとこの方はオレの主君で、聖獣の主人であるキヨヒト様だ。失礼のないようにもてなせ」


 おお! ジャックが貴族の坊ちゃんぽい口調になった!! 本物だったんだ? 揶揄う眼差しに気づいたジャックが振り返り、舌打ちする。にやにやしながら案内されるオレへの、爺やさんの扱いは丁寧だった。応接室みたいな部屋に通され、お茶やお菓子が出る。だがオレは初めて見る中華風の壺が気に入った。


 椅子から立ち上がり、台の上の壺を覗き込む。中には何も入ってなさそう。ふっくらとした形に上がくるんと反り返った口、細い部分の金の装飾が綺麗だし、絵柄も天女みたいな感じで色鮮やかだった。


 これが東の国の工芸品なら、こういうのをリアムにどうだろう。貴族っぽいし、彼女の宮殿にもたくさん飾られてた気がする。もしかして収集癖があるかも知れないな、ひとつ買っておくか。幸い金ならある! ゲスい顔になりそうだが、一度言ってみたかったセリフは、店頭での交渉まで取っておこう。


「なあ、ジャック。この壺……」


「ん、それは「「あっ」」」


 みんなの心の声が重なった。


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