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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第31章 お土産が優先だからね

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223.東の国へ大急ぎで突入!

 マロンと並んで座り、他の聖獣にも器に多めによそった。聖獣に猫舌がいないとわかったので、熱いまま放置。ブラウは「おっと手が汚れた」とか言いながら、手をシチューで濡らして味見てやがるけど。今日は見ないフリしてやるよ。


「食材に感謝だぞ! いただきます」


「「「いただきます」」」


 復唱する傭兵達ががつがつとシチューを流し込む。マナーを覚えさせるのは、中央の国に帰ってからだ。隣でベルナルドが行儀良く……いや、傭兵顔負けの早さで口をつけて飲み干す。一応侯爵様だったんだよな? 礼儀作法の先生にする予定なのに、ちょっと傭兵に染まりすぎだろ。


 遠くに見える正規兵のテントでは、きっとお行儀良く食べてるに違いない。マロンは嬉しそうに握ったスプーンを右手に、左手で掴んだ器に口をつけて飲んでいた。可愛いんだけど、何のために右手にスプーンを持ったんだ? 


「マロン、飲みづらいから置いていいよ」


 一度スプーンで食べさせたため、食べるときに使う道具という認識は持ったらしい。だが使い方が良くわからず、周囲の様子に倣って口をつけて飲んだ。だが手放さないスプーンが、マロンの困惑具合をよく示している。苦笑いして預かれば、両手で器を持って飲み始めた。


 歳の離れた弟枠かな。いや、ペットか? ペット枠はすでにスノーが埋めたし。可愛ければいいか。コウコは上品に飲んでいたが、ブラウやヒジリの飲みっぷりに驚き、お代わりがなくなる危険を感じて顔を突っ込んだ。そのまま呼吸せずに飲んでるけど、火傷は……しないだろう。うん、死ななきゃいいよ。


 食べ終えた数人がお代わりに立ち、焦った連中がざわつき始める。


「ここの分は取り分けておいた」


 給仕係を買って出たノアとサシャがいるため、このテーブルは別格だ。オレがいるし、聖獣の分も必要なのでお代わり分を小型鍋に用意してあった。さすがオカンだ。


「ありがとう」


「……明日は東の国に攻め込むのか?」


 珍しく沈んだ声のジャックが口を挟む。食事にみんなが夢中の状況だから、話の内容があちこちに漏れる可能性は低い。だから直接答えた。


「うん。そろそろ東の貴族から連絡入る頃だ。王族を一度蘇らせて、さくっともう一度処分しないとね。そしたらお土産を買って帰る」


 観光のプランのように軽い口調で答えたのは、深刻さを増してもいいことなんてないから。彼の母国なのも、家族がいるのも承知だ。オレが暗くなれば、ジャックはさらに沈むだろ。


 おたまで鍋のシチューをブラウの皿に注いだ。尋ねる仕草で首を傾げると、ヒジリが鼻先で器を押した。珍しい。たっぷりと入れてやり、コウコが顔を出すのを待って追加した。スノーは器を手にテーブルの上で、足をばんばん鳴らす。兎か?


「大丈夫、スノーの分もあるよ」


 白いシチューを注ぐと、恥ずかしそうに背中を向けて飲み始めた。最後にマロンの器にも足してやり、パンを千切って染み込ませる。


「こうするとパンも美味しいぞ」


 目を輝かせるマロンは幸せそうにパンに手を伸ばした。スプーン、と思ったが好きにさせる。子供姿だと火傷が心配だけど、平気みたいだ。ぱくりと口に放り込み、にこにこと頬を両手で包む姿は幸せそうだった。問題は金髪がシチュー塗れになること。仕方なく髪紐を取り出して、マロンの髪を結んでやった。


 両手で手掴みで食べるマロンは、ベタベタの手で髪紐に手を伸ばす。


「こら、ご飯の手であちこち触ったらダメ。我慢」


 言い聞かせるとなぜか笑いながら頷いた。叱られるのも構ってもらったと喜んだみたいだ。どれだけ孤独だったんだろう。寂しかったマロンを想像したら泣きそうだから、ぽんと結び目を叩いて終わったぞと示すだけにした。


「ご主人様、美味しいです」


「よかった。……それにしても、うちの連中のがっつき振りが心配なんだが」


 ちゃんと量は用意してるはずだけど。足りないわけじゃないよな? 疑問の響きに、早速お代わりをしたジャックが、大声で笑った。


「量が足りないこたぁない。ただ旨いもんは早い者勝ちが染み付いてんだろ」


 なるほど。単にカレーをお代わりする給食の小学生レベルって話だ。量が足りなくて腹が減るんじゃなく、精神的に満たされようとする。今後もシチューは争奪戦が繰り広げられるんだろう。きっと量を増やして倍にしても同じようにかっ込んで、咽せながらお代わりを取りに行く。


 親が料理を作って食べさせ、安全を確保して育てた子供なら違うのかもしれない。量があれば安心出来るけど、彼らは生きること自体が戦いだった。いつ死んでもおかしくない傭兵なんて職業で、一片だって悔いを残さない生き方が染み付いてる。


 否定するほど、オレは偉くない。隣でお代わりを啜るマロンだって、一般的に見たらお行儀が悪い。スープやシチューは音を立てて飲んだらいけないからね。でも傭兵はみんな似たり寄ったり、味噌汁飲むみたいに音を立てて流し込む。この環境で気取って注意するより、ベルナルドみたいに馴染んだ方が勝ちかな。


 もしかしてそこまで計算して? 元侯爵だし、騎士だったし……そんな思いで視線を向けるが、気取って蓄えた髭を汚しながら食べる姿に気品はなかった。そこまで高尚な考えはなさそうだ。単に堕落したというか、染まっただけだな……うん。


 騒がしい昼食が終わると、それぞれに傭兵達が武器の手入れを始めた。昨日はまだ戦いの予定がなかったけど、明日になれば移動すると踏んだんだろう。確かにそろそろ東の国に行かないと滅びる。今は王族がいないから、契約者が不在の聖獣は国を守らない。いつ消えてもおかしくなかった。


 この辺のルールは、もう一度確認しないといけない。間違って覚えてて滅びた後に慌てても遅い……ん? オレが東の国に行くだろ。国境を跨ぐと、今度は南の国に聖獣の契約者がいない。数日で戻らないと南の国が危ないじゃん。


 あれれ? 早く契約者見つけないと、それぞれの国が滅びる! 国境に住んで、毎日行ったり来たりしないといけなくなっちゃう!!


「あのさ。契約者なしで国を保持する方法ないの?」


 食べ終えて髭の手入れを始めたヒジリが、驚いたような顔をした。ブラウは毛繕いを簡単に終える。ころんと転がって腹を撫でろと要求されたが、ヒジリに食い込むほど踏まれた。


『ぐああ、中身出るから』


『うるさい』


 踏んだくせに、ヒジリは容赦ないな。遊んでないでオレの質問に答えてくれ。足元で小さな手を水で洗うスノーが首をかしげた。


『簡単です。私と契約すればいいじゃないですか』


「誰が?」


『主様です』


 当たり前のように言われて、空を仰ぐ。考えるオレの顔に降り注ぐ木漏れ日が気持ちいい……じゃなくて。


「オレとスノーって契約してるのに」


 すでに聖獣と主人で契約済みなのに、奇妙なことを言い出したぞ。そんな顔で首を傾げれば、ブラウを蹴飛ばしたヒジリが話を整理してくれた。


『主殿は聖獣の主人だが、王族とは別に契約が存在しておろう。それを新たに結べばよい』


 主人の契約と国の守護契約は別口ってわけか。聖獣に主人がいない時期もあるし、王族の契約は常に存在してる。


「聖獣様と王族の契約では聖獣様が主で、王族が従……キヨ様の契約と主従が逆ですぞ」


 ベルナルドが丁寧に髭を拭きながら口を挟む。オレは聖獣の主人で、その聖獣にとって王族は従者に当たるのか。つまり土地の管理人である王族を選ぶのが地主の聖獣だった。


「あれ? だったらオレが命じれば、聖獣は国を維持できる……よね??」


『おそらく』


 マロンは考え込みながら呟く。他の聖獣も唸ったり頭を抱えている様子から、そんなこと想定したこともなかったんだろう。


「試してみようか」


 マロンに命じて、南の国が維持できれば……次の王族はマロン自身の意思で見つければいい。ぽんと手を叩いて頷いた時、駆け込んだレイルに首根っこを掴まれた。


「何のんびりしてる!? 東の国が消滅するぞ」


 そのまま強引に担がれ、オレは……信頼している情報屋であり従兄弟となった男に拉致された。

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