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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第30章 マロンの複雑な事情

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216.甘やかすのは主人の役目

※矛盾点が発見されたため、後半を大幅に変更しました。2020/10/11

「マロンは少し休憩」


『まだ出来ます!』


「だめだ。休憩は義務だぞ」


 またもや驚いた顔をする。今までの主人にどんな扱いをされてきたのかと眉をひそめた。他の聖獣は主人の数が少ないみたいだから、馬だけに酷使されたのか? まあ、乗り物としては黒豹より乗り心地はいい。背が高いのは怖いけど。


 次に乗せてもらうときは、ポニーサイズでお願いしよう。森の中だと木々がぶつかりそうで危ないんだよな。


 考え事をしながら、スライスした茹で卵を並べる。起きたコウコにスープの火の番を頼むと嬉しそうだった。基本的に聖獣は主人に何か頼まれたり、命令されると嬉しいようだ。必要とされてる感じが伝わるんだろう。


 引きこもりが親に声かけてもらえなくなって、見捨てられたと焦る気持ちが近いのか。いや、全然違うな……たぶん。


「出来たぞ!」


 パンを炙りながら声をかける。白パンではなく黒パンを選んだが、これはカチカチの硬いやつじゃない。城の料理人に頼んで黒糖で作ってもらったパンなのだ。少し炙ると美味い。


「黒パンか」


「硬いのか?」


 集まった連中の残念そうな声に、ふふっと笑いが漏れた。


「これはほんのり甘くて柔らかいぞ! 特注だ!!」


 初お披露目の黒糖パンを手にとり、柔らかいことに驚く傭兵達。いたずら成功の気分だ。炙ったパンの中央を切って、真ん中にカリカリベーコンと卵を挟む。葉野菜も一緒に挟んだ姿を見て、みんなが真似し始めた。


 オレの食べ方が少し変わってても、傭兵にとって未知の料理を提供してきた実績から、彼らは真似しようとする。それを5つ作って、聖獣の前に並べた。それからスープを聖獣の器によそう。ヒジリ、ブラウ、コウコ、スノー、マロンの順番だ。これはケンカしないよう、オレの聖獣になった順番を基準にしていた。なぜか納得してくれたんだよな。


 赤いスープの入った器と、パンが乗った皿を交互に見て、聖獣達は並んだ。地位は偉いんだろうが、黒豹や青猫が人間と同じように椅子に座るのは無理だ。そのため彼らは分厚い絨毯の上に鎮座していた。


 聖獣用絨毯は、最近になって出来上がったとシフェルが届けてくれた物資の中にあった。一応、皇帝陛下より上の地位だからね。地面で食べさせてたオレを見て、悲鳴を上げた連中からの進言があったとかなかったとか。


 食事の挨拶があるまで、大人しくお座りしたりトグロを巻いて待っている。今回のマロンは特別扱いで、オレのベンチの隣に座らせた。人間の姿してるから、椅子に座れるし。あまりに今までの扱いが酷かったようなので、甘やかしてやりたい気持ちもある。


 オレの前に、聖獣用のお代わりと一緒に器が置かれた。今日の同席はレイル、シフェル、マロン、ノアだ。……ん? シフェル、お前は正規兵のテントに帰れ。


 文句を言ってもスルーされたので、シフェルは放置して隣のマロンに黒糖パンやスープを差し出した。器の中を眺めて、オレの顔を見る。様子を窺う姿に、どこか怯えた雰囲気が混じっている。別にマナーがどうとか言わないぞ。


「マロンは人間の姿だから、一緒に食事だ」


 言い聞かせると、閃いた顔をして椅子から降りようとした。理由を聞くと悲しい答えが返ってくる。


『僕、床で食べます。ご主人様の隣で食べるのは無礼ですから』


 馬に戻って床で食べると言いたいのだろう。


 誰がそう教えたんだ? 聞く必要もない。前の主人が目の前にいたら、1発どころか顔の原型が崩れるまで殴ってやったのに。


「オレの命令だから、隣で食べること」


 おどおどしながら頷くマロンの事情を知っているらしい、他の聖獣が目を逸らす。問い詰めるのは後だ。椅子の上に立ち上がり、右手のスプーンを掲げて注意を引く。


『へーんしん!』


 それはあれか、特撮の名作! にやりと笑って、親指を立てるオレにブラウが大きく尻尾を振って応えた。


「それでは、いただきます!!」


 大声で叫ぶと、異口同音に挨拶が返った。すっかり定着した食事風景である。がっついてスープを食べる傭兵をよそに、猫舌の聖獣はパンから齧った。具を砕いて混ぜたせいで、先日のポタージュ風シチューと同じように熱い。しかもどろりとしているので、冷めにくかった。


 マロンはオレが座り直すまで、大人しく両手を揃えて待っている。くしゃっと淡い金髪を撫でて、右手にスプーンを持たせた。


「使えるか?」


「いいえ」


 即答か。なんとなく想像してたけど、人間の姿を取れるのに、一緒に食事したことないんだな。7〜8歳の外見の子供を膝の上に乗せた。驚いたマロンは暴れるのではなく固まった。その間に体の向きを直して、赤いボルシチっぽいスープを味見する。


 うん、意外とうまい。なんだろう? 懐かしい味かな。南瓜のポタージュに肉のコクが混じって、砕けた他の野菜もほんのり甘い。少し熱いので、かき回して冷ましていると……向かいにいたレイルがすっと手をかざした。


 ひんやりする感じからして、冷ましてくれたようだ。礼を言って掬って熱さを確かめる。ぬるいの一歩手前、絶妙だな。


「マロン、あーんして」


 スプーンを近づけて、待つ。掬った赤いスープとオレの顔を交互に眺め、ぱくっと口を開いた。そこへ慎重にスプーンを含ませる。大きいスプーンなので、半分ほど口に入った。少し傾けて残りを流し込む。


『美味しいです。でも自分で食べます』


「今日はオレのスプーンの使い方を覚えるのが仕事。ほら、あーん」


 こうなったら徹底的に甘やかしてやる。奇妙な使命感から、マロンの分を口に運んで飲ませた。半分ほど飲んだところで、本人の希望に従い膝から下ろした。隣に座ってパンを両手で持って齧る姿は、楽しそうだ。


 膝の先をぶらぶらと揺らすのはお行儀が悪いんだけど、この年齢の子供なら許されるし。マロンが見た目以上の年齢なのは知ってるけど、中身は外見相応だと思う。成長する機会がなかったんだ。


『我も人化を習得したら……』


『え? あれは覚えるの大変だって聞いたわよ』


 抱っこしてもらえるだろうか。そんなヒジリの呟きに「え?」と振り返る。コウコは呆れたと滲ませながらも、反対しなかった。


「全員変身できるの?」


『修行してレベルアップすれば……』


『レベルアップすると、姿が変わるのであまり好みませんけど』


『僕は毛皮を捨てたら負けだと思う』


 ヒジリはそういうとこあるよね。人化って大変だけど習得できるのか。レベルアップと聞くとゲームみたいだが、聖獣でも強くなる方法があるようだ。でもってスノーはチビドラゴン姿がお気に入りらしい。ブラウはもう……我が道を行くというか、もふもふにそこまで誇り持ってたんだ?


 突っ込みどころが多すぎて絶句した後、大きく溜め息をついた。確かにゲームの中では聖獣って人の姿のイラストついてたし、カミサマも獣人がいるよと言ってた。


 レベルアップでいろいろ変化するなら、ぜひとも頑張ってもらいたいものだ。某ポ〇モンみたいに、進化したら戻れないのだろうか。


 ……顔を上げるとシフェルやレイルが驚いた顔をしているので、この世界の奴らも、レベルアップを知らなかった模様。聖獣に関する資料が少ないと聞いたけど。


「中央の宮殿に戻ったら、聖獣は全員事情聴取な」


 今度こそ隠してることを洗いざらい吐いてもらおうか。宣言したオレに目を逸らしたのは猫科2匹。きょとんとしたのが爬虫類2匹、マロンはしっかり頷いた。よしよしとオレそっくりの可愛い子の頭を撫でると、嬉しそうに笑った。そうか、オレってこんなに可愛いのか。


「そこのナルシスト!」


 無視だ。


「キヨ!」


「なに?」


 レイルがぶすっとした顔で何やら差し出した。さっと目を通して頷くと、レイルはその紙片をくるくる巻いて煙草の火をつけた。一瞬で燃え上がる紙を収納へ放り込む。


「なあ、煙草も中に入れたけど……燃えたりしねえの?」


「今まで燃えたことはないな」


 空間が特殊だから平気なのか。納得しながら両手でパンを食べたマロンの汚れた指を、収納から取り出した布巾で拭いた。濡らして保管したタオルが、そのまま臭くならずに乾かず保管できるんだから、燃えないこともあるかも知れない。


「ところで今の情報、どう利用する?」


 シフェルがいる場所でそんなこと尋ねるなんて……珍しいな。レイルの顔をじっくり眺めたが、目を逸らそうとしない。話しても構わない内容なんだろう。下手するとシフェルにも同じ情報を売った、とか? ありそう。


「東の貴族連合だっけ? 手を組んでみてもいいんじゃない?」

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