211.B級ホラー映画じゃん
「我が君、さすがに悪魔の所業かと存じますぞ」
誰も味方はいなかった……。
「じゃあ、やめる?」
「殺る!」
即答したため、ジャックも鬼畜確定だろう。しかも言葉の漢字がおかしい気がする。殺るんだよね? 手を差し出すと強く握り返され、ここに「東の王家蘇らせてさくっと地獄行き作戦」が行き当たりばったりに決まったのである。
「そんで、やり方は分かってるのか?」
ジークムンドが肩を竦めて協力を匂わせる。あれこれ否定しても、結局のところ皆優しいんだよな。決める前は選択肢として否定も口にするけど、決断したら従ってくれる。こういう距離感はすごく嬉しかった。
信頼されてる気がしないか? お前の言動なら受け止めてやる、そう言い切られた気がして頬が緩みそうだ。
「ヒジリ、蘇らす方法と条件は?」
何かしら必要なものがあれば、事前に用意しなければならない。そう考えて黒豹の喉を撫でた。ご機嫌取りは重要だ。
『すべての聖獣と契約した主人が、蘇らせたい者の口に己の血を流し込めばよい』
随分簡単だな。それだと死体の脇でオレが転んで血が飛んだら蘇るじゃん。怖いよ。うっかり転べねえ。
ホラー映画で見た吸血鬼を思い出した。あれって主人の吸血鬼が、血を吸った後の獲物に血を与えると蘇るんじゃなかった? オレは相手の血を吸わないけどね。
「それだけ?」
『蘇るよう願うのを忘れなければ問題ない』
もぐもぐとオレの手を齧りながら答えたヒジリだが、そういや聖獣はオレを噛んで血を飲んじゃうけど……何か関係あるのか?
「ヒジリがオレの血を飲むのは、蘇りと関係ある?」
『ない』
あっそ。複雑に考え過ぎた。よくある伏線かと思ったじゃん。何か後で大きな事件の原因になる、とか。そういう展開を期待したのに、違うのかよ。がくりと肩を落とすが、まあ関係ないものは関係ない。
「へえ、キヨの血ねぇ」
「生きた奴が飲んでも効果はないのか?」
「寿命延びそう」
「ねえよ!」
ふざけた口調で伸ばされる腕を掻い潜り、ベルナルドの後ろに隠れた。すると抱き上げられ、ゴツい元騎士に縦抱っこされる。
「捕まえましたぞ」
「え、オレ……捕まったのか」
きょとんとして尋ねれば、ジャックやノアは苦笑いする。ベルナルドの抱き方も拘束する感じじゃなく、孫を抱き上げるお爺ちゃんだ。
「寝なければ子供は成長しませんぞ。さあ、皆のもの、我が君はまだ子供ゆえ……っ」
言葉の途中で、ぽかっと白髪まじりの頭を叩いた。
「子供じゃない」
「……そう答える時点でガキなんだよ」
ずっと口を挟まなかったレイルがぼそっと指摘し、ライアンが笑い出した。サシャが慌ててライアンの口を押さえて「しー」と静かにするよう言い聞かせる。
大騒ぎしてるけど、今はまだ夜中だ。近くのテントの奴は絶対に起きたぞ。あとで謝らないといけない。そんなことを考えながら、大きな欠伸をひとつした。
ベルナルドの頭を抱えるように顎を乗せて運ばれるうち、テントに着く頃には意識が眠りと現実の間を行き来し始める。横たえるシーツが冷たくて、きゅっと手足を縮めた。するりと温もりが足に絡み、その後で腕の中にも入り込んだ。
あったかい……そのまま目を閉じ、温もりに擦り寄った。
「襲撃だ!」
「くそっ、見張りは何してた?!」
叫ぶ声と銃声に飛び起きる。足に絡みついた青猫を蹴飛ばしてしまった。すまん……拾い上げて不満そうなジト目の猫を撫でる。
「キヨ、寝ぼけてる場合じゃねえ」
「先に出るぞ」
ジャックとライアンが飛び出し、銃を握ったノアがオレの警護に残る。数歩先で、剣を抜き小銃を抱えた物騒な前侯爵閣下が仁王立ちだった。普通、守られる側の肩書と立場の人だよな?
サシャは、同じテントのヴィリから何かを取り上げている。
「やめろっ!」
「これは使わせない」
ヴィリの頬を殴って奪ったのは、立派な爆弾でした。ご苦労様。熟睡中に叩き起こされたヴィリが、怒り心頭で取り出したところを、気づいたサシャが阻止した形だ。
「ヴィリ、爆破は禁止」
言い渡してからサシャの手にある爆弾を収納へ放り込む。
「ああ……傑作なのに……後で返せよ」
「わかった。先に迎撃してこい」
右手に青猫を抱き上げたまま、ひらひら手を振って追い払う。怒りのぶつけ先を敵にしてくれたら、少しは落ち着くだろう。相手が可哀想? そんな意識はなかった。必要以上の迎撃をされたくなければ、寝てる時と食事時は邪魔するな。あと恋人との逢瀬に乱入したら、即、殺されるから。
そのくらいの覚悟で挑め。はふんと欠伸をして、青猫を床に下した。敷かれた足元絨毯の上に靴を用意して、手早くベストを羽織る。寝る前に枕元に用意する習慣だが、予備の銃弾やカートリッジを含め、発煙筒などが装備されたベストは便利だった。
「準備できましたかな? 我が君」
「もう面倒だから、キヨって呼びなよ……準備オッケー」
枕の下に手を入れて銃を握る。手に馴染んでしまった硬い感触を撫で、くるりと手の中で回した。問題なし。テントから出ると空が少し白んでいた。早めに片付ければ、まだ寝れそう。
そんじゃ行こうか。