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202.灯台下暗し? 灯りをケチるな

 逃げてきた王都の民を治療して、子供にパンを配布する。東の兵をヒジリやブラウが翻弄する間に、保護した人数は数千人に達した。と後から聞いたが、そんなにいたか?


 精々、中学校の集会程度だったぞ。35〜40人のクラスが4つで3学年、500人弱かな。まあよくある現象だ。デモ隊と警察の参加者数の発表が食い違うのと、同じだと思うわけ。どちらかが嘘をついて数を誤魔化しているが、実害ないのでスルーだ。


 問題は物資の不足だった。幸いにして、食料品はクリスティーン達の軍人用携帯食を提供してもらえた。というのも、昨日からオレが振る舞った食事のお陰で、余っていた分だから。治療に使う絆創膏もどきや薬が足りない。


「うーん、魔法でコピーできないかな」


『主、物を複製するには材料が必要だよ』


「無から有を生み出すチートはないのか」


 唸るものの、ないものはない。逆立ちしたって出てこないものは、ない。諦めきれず唸るオレは、目の前に積んだ絆創膏もどきを睨みつけた。


 これを大量複製出来たら、問題は一気に解決するんだが。確かにマロンが鍋を作る際も、金属片が必要だった。形を変更したり材質を多少いじることはできても、魔法で作り出すことは無理だ。そんな魔法見たことない。


 水を作れるのは、空気中に湿気があるから集めただけ。風も土も操ってるだけで、新しく生み出したわけじゃなかった。火に至っては理論が難しそうだが、要は温度を操ってるらしい。


『主様、氷と綺麗な水を作りました』


「ご苦労さん」


 スノーを労うと、照れた様子で頬を両手で掴む。トカゲなのに後ろ足で立つのは、ありなのか? 小さな子供に人気のチビドラゴンは、せっせとスポドリを生産していた。


 ブラウに風でスライスさせた檸檬は、スノーのおやつを借りた。果物の在庫は大量にあるらしい。ちょっと褒めたら提供してくれたので、さきほど抱っこして撫でたのだが……機嫌が良くなりすぎて、大量のスポドリを作り続けている。そろそろ止めないと鍋が足りなくなるな。


 兵士でも南の民でも自由に飲んでいいと告げれば、恐る恐る集まってきた。喉は乾いてるが、得体の知れない飲み物に困惑顔だ。クリスティーン達、中央の正規兵は味を知っているので柄杓でカップに入れて飲み始める。その様子をみて、1人また1人と手を出した。


 仲間が飲んでお代わりすれば、すぐに他の連中も続く。子供が多くいたこともあり、甘酸っぱい飲み物は好評だった。


 そうこうする間にも、治療用の薬や絆創膏もどきが減っていく。備蓄が尽きたら困るな。王城へ攻め入った連中にケガ人が出たら使うし、そろそろしまうか?


 唸ったとき、コウコが予想外の発言をした。


『主人は、聖獣の力が使えるじゃない。どうして物資に頼るの?』


 単純に疑問に思ったのだろう。その言葉を一度飲み込んで噛み砕き、もう一度唸る。あれ? もしかして聖獣の力が使えるなら……オレは治療が出来るんじゃ??


「誰も言わなかったから」


『だって主は聞かなかったじゃん』


『え? 知らなかったのですか? 主様』


 ブラウとスノーが首をかしげる。少し離れた場所にいるヒジリを手招きすると、渋々近づいてきた。コイツは絶対に確信犯だ。わざと黙っていたに決まってる。


「ヒジリ、オレはそんな話知らなかったけど……ヒジリが使ってる治癒はオレも使えるの?」


 具体的に逃げ場を封じて尋ねると、嫌そうに頷いた。つまり絆創膏もどきは無くても問題なし。ついでにヒジリに舐められながらの治療も拒否できる? 何それ、今まで損してた。


 治癒が自分で出来るなら、まさに灯台下暗し! 


「コウコのブレスに関して、オレは口から火を噴くの?」


 微妙に嫌だなと思いながら尋ねたら、首を横に振られた。蛇って肩がないから、首を振ると威嚇するコブラみたいで怖い。


『手でも足でも、体から出せるわよ』


 生物兵器じゃん。でも圧倒的火力が手に入ったら、武器がなくても平気か。いや収納で持ち歩いてるから使わないと思うけどね。あんまり人外な魔法を使うと、変な奴に目をつけられそうだ。


 くるくると毛先を弄りながら、長くなった髪を風で切り落とした。イメージはブラウが使う風の刃だが、すぱっと切れて少しだけ肌も切れた。こわっ……次から注意しよう。


 ついでなので、その傷をヒジリの治癒を思い出しながら指先でなぞった。じわりと濡れた温かい感触まで思い出して、背筋がぞっとする。また噛まれながら治療するのは嫌だな。要は聖獣の力を一時的に借りられる。だからオレが自分の魔力で自分を直そうとすると失敗するが、ヒジリの魔力を借りれば治る、でOK?


『主様、氷も! 氷もやりましょう』


「あ、うん」


 一通り試したのに水や氷がなかったので、スノーが必死にアピールした。水と氷は前から作れたから、聖獣の能力なのか分かりにくい。彼が満足すればいいと、氷の柱を作ってみた。ついでにイメージを膨らまして、人魚像みたくしたら感嘆の声が上がる。


「綺麗ね」


「すごい彫刻だ」


「溶けちゃうのかしら」


「もったいない」


 特に女性に人気だったので、帰ったら早速リアムにも披露しよう。にやにやしながら氷の像を眺めた。



 岩の上で歌う美女姿だが、過去の記憶から作り上げたので水着着用タイプだ。等身大より少し大きく作ったので、近くにいると涼しい。子供のいる場所でも安心して設置できるだろ。


 早くリアムにも見せたいな。あ、この世界にプールってあるのか? プールサイドに設置すると涼しげだけど、なければ噴水に立ててもいいな。想像が膨らむオレの前に、おっさん集団が帰ってきた。


 騒がしい一団は、綱で拘束した捕虜らしき数人を連れている。


「キヨ、捕まえたぞ」


「お疲れ」


「お、スポドリだっけ? 俺にもくれ」


「土産はあとだ」


 説明も後回し、手足に返り血を浴びた連中がスポドリの鍋を囲む。行儀悪くカップを直接入れて飲むが、残り僅かなので注意はやめた。それより後ろに連れてる捕虜が気になる。手や首に宝石や貴金属がじゃらじゃら巻いてあるので、貴族階級か。


「これが土産?」


「南の国の王族だとさ。逃げ回る貴族を脅したら、あっさり隠れ場所を吐いた」


「あいつら根性が足りねぇよ」


「貴族なんてそんなもんだろ」


 好き勝手に吐き捨てる傭兵達を、浄化で綺麗にする。ちょっと汗臭いので、先手を打ったオレにジャックがにやりと笑った。


「褒美は奮発してくれていいぞ」


「……確かに王族だわ」


 手元の資料の似顔絵と照合したクリスティーンが呻く。応援に正規兵を率いてきたのに、騎士団が活躍する前に戦争が終わってしまった。損害なく南の国を制圧したことは評価に値するが、まったく出番がないまま解決した結果をどう報告したものか。


 出兵した意義を問われそうだと悩む横で、何でもなさそうにジャックが提案した。


「手柄ならやるぞ。俺らは報酬だけもらえばいい」


「そうそう。肩書なんて重いだけだ」


「だが……っ!」


 反論しようとしたクリスティーンに、傭兵達は口々に「永住権が欲しい」だの「新しい官舎のベッドが欲しい」だの要望を口にする。それらを慌てて書き留める彼女が吹き出した。金髪を揺らしてひとしきり笑うと、口を開く。


「こうしよう! 連合軍が頑張りました……その結果として危険な任務を担った傭兵に多めに支払う。どう? もちろん官舎を豪華にしてベッドも最高級の物を用意させるわ」


「「いいじゃねえか」」


 ライアンとサシャが嬉しそうだ。まあ、あの官舎のベッド硬かったからな。寝心地だけなら、戦場の折り畳みベッドの方が快適だった。生活環境の改善をメモしたクリスティーンの後ろで、傭兵から騎士へ捕虜の引き渡しが行われる。丸く収まったようで、オレとしては一安心。


 にしても……王族の連中静かだな。攻め落とした街の領主だった王子の横暴さを見ると、結構酷い騒ぎをすると思ったのに。そう考えながら観察すると、全員口いっぱいに布を押し込まれて縛られていた。猿轡を通り越し、あれじゃ息が苦しそうだ。同情するほど知らない奴だけど。


「あれ、死なないのか?」


「キヨ、人間ってのは意外と丈夫だ」


「そうそう。それに国民捨てて逃げる奴に同情はいらん」


「最低だな」


 傭兵達が見た暴露話で、南の民は驚くことなく「ああ、やっぱりな」と納得して王族を差し出した。

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