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201.敵の敵はやっぱり敵だった

 阿鼻叫喚の騒動を見つめながら、オレは冷や汗をかいていた。どうしよう……これは討伐すべきか? マロンが操るはずのドラゴンが足元の街を壊しまくる。理由は操作役のマロンが倒されたからだ。予想外が積み重なった結果、最悪の方向へ事態が転がっていた。


「キヨ、どうする?」


「介入する義務はないわ」


 ジークムンドの質問に、クリスティーンが取りつく島もなく切り捨てる。薄情な言葉を吐く癖に、彼女はさっき襲われかけた子供を助けていた。立場があるから、感情的に振舞うのを抑えている感じだ。ここはオレが動くしかないでしょ!


「ひとまず……ドラゴン片付けるか」







 予想外の始まりは早朝だった。クリスティーン率いる援軍は予定より遅れ、昨日の昼頃ついた。ちょうど食事を作っていたので、量を増やして対応する。この勢いで食材を使うと、明後日には補充が必要だと考え込んだ。そこで聖獣を呼んで命じる。


「食材探してきて」


『主殿、それは聖獣の仕事ではない』


「ご飯、あげないよ」


『主様、僕は果物専門ですけど』


「グダグダ言わずに手分けして探す」


 聖獣達に食材探しを言いつけ、オレはノア達と調理した。それを兵士にも振舞い、かなりの距離を歩いてきた彼らを労う。おかげで援軍の兵士も傭兵達と和気あいあい、夜は酒も出してやったので打ち解けたらしい。


 戦いの前の準備は大事だよ、ほんと。士気を高めて美味しい食事でリフレッシュ、気合を入れて臨んだ早朝のドラゴン呼び出しも、なんら問題なかった。先に王都へ飛んでもらったのだが、指示出しのために聖獣達を連れたオレは先にマロンと空を移動する。


 手を振って別れた兵士達が追い付いたとき、すでに事件は起きていた。空を舞うドラゴンを追い払おうと、大きな弓を持ち出す南の国。王城を囲む壁の上に設置されたそれらは、2人がかりで全身を使って弓の弦を引いた。仕掛けた矢は槍ほどの大きさがあり、息を合わせて引いた弦を離すと……飛距離が半端じゃない。


 ごおおぉ、とあり得ない音を立てて近づいた槍もどきが、ドラゴンの1匹を傷つけた。幸い翼ではないので落下しなかったが、足を傷つけられたドラゴンが怒って火を噴く。そこから徐々に狂い出し、何とか止めようとしたマロンが撃たれた。


 ヒジリとスノーが影を広げて落下を受け止めるが、突き刺さった槍の傷は深い。ヒジリが治療し、今は影の中で眠っているだけ――そう、ドラゴンを操れる唯一の聖獣が眠ったことで、誰もドラゴンを操れなくなった。仲間を傷つけた人間を敵視したドラゴンは火を噴いて建物を壊し、逃げる住民をつつき回す。


「最悪の展開だ」


 聖獣なのにマロンがやられたことも、ドラゴンが暴走して止める手がないことも、全部オレの作戦から端を発していた。ここは責任を取るべきだろう。


「ちょっと行ってくる」


 ここで先のやり取りに戻るわけだ。この際丁度いいから、ある程度敵の勢力を削ごうと傍観する正規兵の皆さん、南の国出身の奴もいるので被害を食い止めようとする傭兵達。責任を取るため聖獣を総動員しようと考えるオレ……全員がバラバラだった。


「まず、オレは行く。聖獣も連れていく。正規兵は残ってていいよ、中央の国の思惑もあると思うから。傭兵は一時的に解雇……はまずいから、休暇を与える! 1日好きに過ごして。助けに行ってもいいし、見ててもいい。それじゃ解散!!」


 ヒジリに跨って空を駆ける。空中で腕を組んで考える事、わずか数十秒――使える手は何でも使うと決めた。コウコとスノー、ブラウは戦力として使える。


「コウコ、スノー、ブラウはドラゴンを追い払って」


『殺すのではなくて?』


 コウコが不思議そうに問い返す。彼女の言いたいことはわかるが、呼びつけたのはこっちだし。退治するのは可哀想だろ。それにマロンが巣穴から全部狩り出したとしたら、一家全滅になっちゃう。それは極悪非道すぎると説明した。


『主のそういう甘いとこ、意外と嫌いじゃない』


 ブラウ、どっかの乙女ゲーのツンデレのセリフか? 回りくどくてわかりづらい上に、褒められた感がない。肩を竦めてもう一度同じ命令を下した。


「追い払って」


 素直に従ってくれた彼らが、ドラゴンを上手に王都の外へ押し出す。翼に強風を当てて吹き飛ばしたり、炎で軽く炙って外へ押し出した。氷の小さな粒を叩きつけるチビドラゴンは、間違えて撃たれないように周囲に氷の壁を作る。2~3発弾いてたから、氷の壁は大活躍だった。


 外から見ると、攻撃してきたドラゴンもスノーも同じ蜥蜴類だし? 気を付けるよう言い含めたら「僕は主様に愛されてる」と勘違いして、空中で踊ってたが……まあ問題ないだろう。


「キヨ~!!」


 大声で呼ぶジャックに気づき、ヒジリと下に戻る。


「俺らは王城制圧してくるから、あと任せる」


「はぁ……?」


 それってオレが指揮しなくていいのか? と思ったら、すでにジークムンド班が侵入していた。混乱した状況なら簡単に王城を占拠できる上、正規軍より個々の能力が高い傭兵の方が向いているのだと。説明されて頷くオレに、クリスティーンが苦笑いした。


「私たちはあまり役に立ってないな」


「あ、それならお願いがあるんだけど。街の人たちを誘導して、ケガ人の手当てをしてくれる?」


「……なぜだ?」


「占領した直後は何か奪われるんじゃないかって疑心暗鬼になるでしょ? だから優しくして懐柔するのさ」


「懐柔してどうするのよ」


「占領しやすくなるじゃんか」


「「「……やっぱキヨだな」」」


 何、その評価。絶句したクリスティーンも目を見開いて驚きを露わにする。そんなに変なこと言ったかな?


「あ、こらまて」


 正規兵に呼び止められるも、ジャック達はあっさり包囲を突破して走り出した。その際の捨て台詞がこれである。


「俺らは休暇中だから~!!」


 中央の正規兵の視線が刺さる。くそ、オレのせいみたいじゃないか。間違ってないけどね、肩を落としたオレの頭を撫でたクリスティーンが指示を出す。


「我らはこれから南の民の保護を開始する! 邪魔する者らは排除せよ」


「「「承知しました」」」


 一斉に敬礼して部隊が動き出した。邪魔する者ら? 首をかしげると、王都の民を外へ出さないよう警護? していた兵らが、こちらに槍や剣を向ける。よく見ると南の衛兵と恰好が違うし、武器もデザインが違っていた。


「ああ、東の連中か」


 そういやオレ達に増援が来た情報をレイルが持ち込んだとき、南の国にも東から応援が来た話を聞いた。あまり重要視してなかったけど、混乱した王都から逃げようとする民を押さえつけてるのはよくわからない。ひとまず逃げて安全を確保してから、再び受け入れればいいのに。


「変なことやってるな」


「民は税を納める財産と考えたんだろう。逃がして難民になられても困るからな」


 レイルが興味なさそうにしながらも、的確に疑問へ答えを寄越す。この察しの良さと知識や考察の深さは、本当に一国の宰相並みだ。独立して組織を作り上げた才覚の片りんに、オレは素直に感嘆の声を上げた。


「へぇ。さすがレイル。よく知ってるな」


「お前が言うと嫌味に聞こえる」


「なんでだよ」


 えいっと叩けば、レイルが避ける。追いかけまわす姿にクリスティーンが吹き出した。


「そうしてると本当に仲がいいわね。私も向こうの手伝いに行ってくるわ」


 東の兵が作った囲みを突破した中央の兵が、逃げ出す民を誘導している。傷の手当もあるし、魔法が使える貴族は便利だろう……オレも手伝うか。ドラゴン作戦決行した責任があるから、最後までちゃんと後始末しないとね。


「キヨ、余計なことは言うな。中央が不利になるぞ」


「わかってる」


 ドラゴンは偶然来訪して、それを進軍したオレらが追い払ったことにするんだろ? 暴露するほど考えなしじゃない。オレがただの異世界人なら何を言おうと自由だが、北の王族で中央の皇帝の婚約者になるんだから、経歴に妙な傷は不要だった。


 卑怯? 上等だ。身一つで放り投げたカミサマに文句を言ってくれ。


 先に歩き出したクリスティーンに追いつき、凛とした佇まいの女騎士の隣に並ぶ。さあ、正義の味方を始めようか。偽善だって構わないだろ?

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