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190.噂の一人歩きどころか成長?

 詰め寄るオレ、態度が変わって後ずさるジャッキー。微笑ましそうに見守るユハとヒジリ、足元でつぶれた青猫……全員バラバラだな。


「ボス、準備したぞ」


 わらわらと傭兵が集まってきた。ちょうどいい。


「話があるからジャッキーを捕まえたら、ボーナス出すよ」


「「「おう」」」


「うおぉ!! 裏切り者がぁ!!」


 全力で逃げるジャッキーを、目の色変えて追いかけ回す傭兵達。のんびりとヒジリの背に跨って待てば、諦めたのか。自分でこっちに走ってきた。


「くそっ、小悪魔めっ。戻って、きたから、ボーナスは、俺に、くれる、だよな?」


 息を切らせながら尋ねるジャッキーの後ろを指差す。目の色を変えて迫る連中に、ジャッキーが悲鳴をあげた。


「はいここまで。ジャッキーの自首で終わりね。ボーナスだよ」


 スノーが収納へ放り込んだキベリを両手で掬って取り出すと、ユハが目の色を変えた。集まった傭兵達に渡し、ケンカしないで食べるよう注意する。


 わいわい騒ぎながら離れた彼らは、行儀良くつまんで芋虫を口に入れる。じゃなかった、芋虫に似た果物だった。遠目だと本当に芋虫、そのもの……オレもあれ食べたんだよな。


 一瞬視線が泳いでしまった。


「ジャッキーは着任祝いを兼ねて、奮発」


 金貨を一枚弾いて彼の手の上に落とす。にやっと笑うオレは、悪の親玉みたいだが……正直、手の上に落ちてくれて助かった。いやぁ、空飛んだ時にどこ行くかと心配だったからな。そういや、少し風が吹いたような……ヒジリの足元へ視線を向けると、ブラウが握った右手を上げて闇に沈むところだった。


 それは某国の映画の「あいるびーばっく!」ってやつか? アニメ以外も履修してるとは、侮れない猫だ。


 代わりに影から白いチビドラゴンが飛び出した。くんくんと鼻を動かし、振り返ってキベリを食べる傭兵を見つける。じわりと目が潤み、大きな金瞳がこぼれ落ちそうに見開かれた。


『僕の、僕のキベリが……』


「安心しろ、まだあるから」


『主様ぁ』


 感動した様子で抱きつくスノーを肩に乗せ、黒豹の背に跨ったオレはジャッキーに向き直った。


「これ、もらっていいのか?」


「うん? いいよ。くれたのに取り上げるわけないだろ。それより、噂について聞かせてくれる?」


「あ、ああ」


 そこから聞こえた噂の内容は、脚色が過ぎて別人――と言いたいが、大半は間違ってなかった。


 キベリをスノーの小さな手に握らせながら、時折口に押しつけられた芋虫形状の果物を食べる。甘酸っぱさが切なさに変わりそうだぜ。


 噂の内容は――否定しづらい物が一部含まれていた。あと情報源を特定できるものも。


 オレの素性はすっ飛ばし、突然現れた大型新人扱いだった。この辺はレイルの誤魔化しが聞いてると思う。実は北の国王の隠し子で、庶子だったという嘘は苦笑いだ。まあ王族に名を連ねたから、完全に嘘ではない。


 聖獣達を餌付けしたため、顎でこき使っている。うーん? 違う気がした。まあ野営の煮炊きに使うけどね。


 顔が整っているうえ、少女のように細いのでよく襲われる。ここは全力で否定しておこう。オレはまだ無事だ。どこがって聞くなよ。大量のピアスが示す通り、魔力量は豊富だが扱いが下手で暴走の危険あり。この辺は赤瞳の竜を上手に誤魔化した結果だろうから許す。


 ひとつずつ検分した。


 西の国へ拐われて生還した際、中央の国の皇帝に惚れて西の国を手土産にした……惜しいぞ。北の国で傲慢な貴族を一掃し、帰り道におまけでドラゴンを倒した。この辺の脚色は修正方法がわからん。


 中央の国で好き勝手し、気に入らない貴族は皇帝の威を借りて叩きのめした。おおう、オレがすごいクソガキに聞こえるんだが気のせいか?


 他にも赤い悪魔を手懐けたって、レイルは自分でちゃんと否定しろ。外見で釣ったゴツい男を侍らせて、ハーレムを築いたらしい。誰の話だろうね。


 噂の一人歩きの成長具合に、目頭を押さえて「よくここまで」と感涙するレベルだ。もちろん嬉しくない。ほとんど間違ってるけど、所々正しいのが複雑だった。


「どこまで本当だ?」


「半分くらいかな」


「そうか、半分も合ってるなら噂としては上等だな」


 感心するジャッキーに、苦笑いした。キベリを食べ終えたスノーが「足りない」とオレの爪を齧る。


「ボス、準備できたぜ」


 噂の確認をしている間に、傭兵達は準備が終わったらしい。ぐるりと見回し、大きな荷物を持ってる奴を数人手招きした。


「荷物はオレが収納で運ぶから、ここ。今回はのんびり行進じゃなくて、早朝までに砦に辿り着くのが目的だから。武器と水筒以外はこの上ね」


 取り出した大きなシートを示す。ビニールシートに見た目が似ているが、これは布なのだ。緊急時は毛布や雨具にもなるよう、防水機能を付け足した。その上に着替えや予備の装備が並べられる。


「大丈夫なのか」


 心配そうなジャッキーに、他の傭兵が先に話しかけた。どうやら顔見知りらしい。親しげに肩を抱くと、こそこそと説明する。


「ボスは銃弾を弾く。死んで取り出せなくなる心配はないから、何も問題ない」


 ぐっと親指立てて、力説した。内容は間違ってないのに、オレがドラゴン級の化け物扱いされてるような……。


「よし。荷物しまうよ」


 軽装になった彼らを見回して声をかけ、巨大風呂敷を風の魔法で包んでいく。結び方はおばあちゃんが使っていた……名前わかんないや。とにかく解けないようにしっかり縛った。


 持ち上げることなく、収納の口を触れさせてしまう。見慣れた傭兵達は気にしないが、ジャッキーは目を見開く。こういう新鮮な反応、久しぶりだった。最近はオレが何かやらかしても「キヨ(ボス)だからな」で片付けられてきた。


「砦を放棄して、出発進行!!」


 砦を占拠したときに、南の兵士を逃した門からぞろぞろと傭兵が出ていく。寄ってきたユハが、ぼそっと疑問を口にした。


「放棄していいの?」


 上司に何か言われるんじゃないか。その心配は最もだ。特に兵士として勤めていたユハらしい質問だった。傭兵は拠点を死守する感覚が薄いから。


「すぐにシフェルが兵を派遣する。それに、ここを守る必要がなくなったんだ。奪われても取り返せばいいんだもん」


 一度入り込んだ場所だから、次は簡単に転移魔法が使えた。有志を募って、中に飛び込んで戦うトロイの木馬作戦が使えるのだ。相手に誘い込んでもらう必要すらないのは、最強だろう。


 頷くユハの目に「ああ、規格外だから」って書いてある。もう文句言う気にもならんよ。実際チートで規格外だからね。そこは否定しない。生温い目を向けられながら、オレはヒジリの背で揺られる。


『ご主人様、僕は馬なので……その』


 乗り物なら僕の役目じゃない? そう訴える栗毛の馬に、少し考えてにっこり笑った。


「マロンに乗るよ」


『主殿は、我より金馬が良いと申されるか!』


 むっとした口調のヒジリの鼻筋を撫でて、落ち着くよう促した。少しトーンダウンしたところに、お願い事をする。


「実はヒジリにしか頼めないお願いがある。手の空いてる聖獣達を指揮して、周辺に危険がないか警護して欲しいんだ。こんなこと、オレの名前をもつヒジリにしか頼めない」


『よ、よかろう』


 わかりやすくご機嫌な尻尾を立てて、影の中に飛び込んだ。黒豹を見送るオレの背を咥え、マロンは小柄な子供を空中に投げ飛ばす。空中で一回転してマロンの背に着地しながら、汗がぶわっと噴き出した。


 焦るから、そういうのやめて欲しい。注意する前に、傭兵達が手を叩いて褒め口笛を鳴らす。危機感がないが、この集団に勝てる兵力がないのは、魔力感知で確認済みなので咎めずに笑顔で受けておいた。


『焦ったくせに』


 にやにやしながら出てきた青猫の鼻先をデコピンし『ぐおぉおお、卑怯なりぃ』と叫んで影に逃げる姿が、途中で黒豹に捕捉されるのを見る。


「ブラウの奴、ついに時代劇に手を出したか」


 おばあちゃんと観た時代劇の言い回しを思い出しながら、馬の背に揺られて笑い……舌を噛んだ。

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