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189.人って撃たれたら死ぬんだよ!

 パンっ! 軽い音がして弾けた黒い銃、振り向こうとして間に合わないオレの手から銃が……落ちなかったけど。飛び散る赤い血、青い空、そして激しい耳鳴り。


「あ、ボスを撃ったらダメだ!」


「撃っちまったのか?」


「あ〜あ。知らねえぞ」


 口々に呟く声に、ユハの柔らかな声が混じった。ちなみに出血したのはオレじゃない。そうじゃないかな? と状況を捏造しました。映画なら血が飛び散る場面だもんな。演出とヤラセの境目がわからないお年頃だから、この捏造は許されるはず。


 意味不明の言い訳をしながら固まるオレを、ユハが「よいしょ」と抱き上げた。子供の縦抱っこは落ち着くよね〜。


「日陰に運びましょうか」


 日陰に横たえられたところで、我に返った。そうじゃない!!


「いやっ、ここはオレのケガの心配からだろ?!」


 飛び起きて文句を言った直後、さっきの見知らぬ兄ちゃんに3発撃ち込まれた。咄嗟に手をかざして、跳弾で傷つかないようユハも結界内に包む。甲高い音がして弾かれた弾は、絶対に貫通しない。


「危ねえな! ユハが死んだらどうするんだ」


「「そうだ」」


「……さっきも言ったけど、オレの心配もしようぜ」


「「どうせ平気だろ」」


 集まった傭兵達のオレへの扱いがひどい件について。どこか上申する場所はないのかよ、くそっ。それより……。


 オレに4発も撃ち込んだ男は、地面に叩きつけられていた。主にヒジリが原因だ。追加の3発を放った時点で、敵確定らしい。最初の1発目から守って欲しかった。得意げに揺れる尻尾と、ぴんと張った髭を見ると言えない。


『主殿、捕まえたぞ』


「ああ、うん。誰か説明お願い」


 傭兵達が彼に攻撃しないということは、一応味方なんだろう。たぶん、きっと。苦笑いしたユハが説明役を引き受けた。


「彼は元傭兵で引退してたけど、戻ってきたらしい。剛腕のジークの部下だったらしいよ」


「ありがとう、つまりジークが悪い!」


「「ボス、八つ当たりかよ」」


「子供じゃねえんだから」


 ぼやく傭兵連中へ怒鳴り返す。


「まだ子供だよ!!」


 硝煙の臭いがする服に、顔をしかめて「クリーン」と呟いてみる。ゲームの魔法であったお風呂後のイメージだ。髪と服についた臭いが消えて、人心地ついた。


「跳弾でケガした奴がでたぞ!」


 今頃申告されても、困るんですが? 運ばれたのは外で荷物の整理をしていた青年だった。久しぶりの絆創膏もどきを、血の上からぺたんと貼る。


「これでよし!」


「悪ぃな、高い絆創膏使ってもらって」


「ケガしたら遠慮なく使えといっただろ」


 命令しないと使わないで「いつかのため」と保管する連中だから、きっちり言い聞かせた。それから振り返り、のしっと香箱座りの黒豹に乗られた男に問いかける。


「それで、いきなり撃ったわけは?」


「砦を死守するのが仕事だ。見知らぬ奴が突然転移したら撃つだろう」


 仕事中、転移魔法陣もない場所に現れた不審な子供……しかもここは戦場。うん、オレでも撃つ――この男は無罪、とはならない。


「なるほど。理解はした。でも納得できない。人って撃たれたら死ぬからな? 普通は死ぬ。だから相応しい罰を与えるのはオレの権利だ」


「「「理不尽だ」」」


「予告なしに帰ってくるボスが悪い」


「「そうだ、そうだ」」


 よし、今の発言した連中の顔を覚えたからな! 罰を言い渡す前に、極悪非道な奴扱いされたので、それなりの罰を用意することにした。


「ここに駆け付けた全員で砦の掃除! 隅から隅まで、きっちり掃除しろよ?」


「「「ひでぇ」」」


「寛容じゃね? オレの結界内で前後左右から聖獣に攻撃される状況を耐えるのと、どっちがいい?」


 肉体的な疲労か、精神的な苦痛か。いくら結界で守られてるとわかってても、顔の前にコウコの炎とか……恐怖以外の何物でもないと思うぞ。しっかり指先を突き付けて脅す、じゃなくて説得した。彼らは快く、渋々に見えても快く受け入れてくれる。


 さすがはオレの部下だ。


 合図をするとヒジリが大急ぎで駆け寄ってきた。こういうところ、ワンコみたいで可愛いぞ。同じ猫科でもブラウには期待できない愛らしさだ。黒豹をぐりぐりと撫でて、よいしょと上に座る。最近定位置になってて落ち着くんだが、そういや他の聖獣はどこ行ったんだ。


「本当にこのガキがボスなのか? ジークさんが従ったって?」


 ヒジリから解放されて、押し倒された時の埃を払いながら立ち上がった傭兵に、ぐるると黒豹が威嚇する。怒ってくれる気持ちは嬉しいが、落ち着け。ぽんぽんと首のあたりを叩いて、それから耳の付け根をぐりぐりと掻いてやった。


 途端に嬉しそうな尻尾が全力で動く。本当にワンコすぎて、抱き締めたくなるじゃねえか。


「まあ疑うのは無理もないと思うよ。どこから見ても綺麗で愛らしい子供だろ」


 しょうがねえよ、と呟けば間髪おかず「銃弾を弾く愛らしい子供かよ」と傭兵の笑いを含んだ声が聞こえた。ぎゅっとヒジリの首に抱き着いて甘えたまま、腹の底から声を出す。でも子供特有の甲高い声だと締まらない。


「そこ、聞こえてるぞ!! はい、掃除に行く!!」


 号令をかけると、意外にも素直にぱっと散った。もっとゴネるかと思ったけど。聞き分けのいい傭兵を見送り、離れようとしたユハを手招く。抱っこして運んでもらったし、彼はいいや。


 顔を上げると、オレに銃弾をはなった男は納得できずに唸っていた。


「ジークさんがこんなガキに従うなんて、どれだけ金積んだんだ?」


「うーん、通常の倍くらいかな。でも気に入らなきゃ受けないだろ。ほぼ()()()()に近い契約だから」


 オレの寿命が尽きるまで、互いに納得してれば契約を続ける。竜属性のオレより長生きする傭兵はいないだろう……途中で暗殺されたら別だが。聖獣もいるのでそこは心配しなかった。


「なっ! おま、まさか……」


 ごついくせに首や耳まで赤くなる姿に、大急ぎで首を横に振った。この世界、誰が同性愛を伝えたんだ? くそっ、外見を整えたせいで勘違いされまくりじゃねえか。まあリアムを口説く材料だと思えば、我慢も出来るけどね。


「絶対違う!」


 ほっとした様子の男は、ジークムンドによく似た黒髪黒瞳だ。南が出身地のジークムンドと、同郷かもしれない。観察しながら男に自己紹介した。


「傭兵団のボスやってる、キヨヒトだよ。みんなキヨって呼んでる」


 最低限の情報を開示して待つと、彼はぼそぼそと口を開いた。先ほどのジークムンド擁護と比べると、随分歯切れが悪い。


「ジャッキーだ。ジークさんの下にいた」


 ジークムンドを敬称つけて呼ぶのは、格下の部下や年齢が下の奴だろう。外見年齢から推測すると年上のような気がする。ジークムンドが二つ名持ちで、群れを率いてるから尊敬してるとか? 事実関係を勝手に推測していると、ユハがじれったくなったようで情報を勝手に追加した。


「キヨは()()()()二つ名持ちですよ。きちんと敬意を払ってください」


「……それを言うか」


 がくりと崩れたオレを凝視するジャッキーの目が痛い。くそ、一生隠しておきたい汚点に近い二つ名だぞ。南の国の砦でもリシャールにバラされた。トラウマになりそうだ。それと「これでも」の部分は不要だったぞ。


『死神さんだっけぇ?』


 青猫が足元から出てきて揶揄うので、ヒジリの上から下りながらさりげなく踏み潰した。ぐえぇと悲鳴らしき声が漏れるが、オレは何も聞いていない。どうせ影の中に潜って無事だろうから無視だ。


「し、死神っ! ()()……」


 青ざめたり赤くなったり忙しいジャッキーの様子に、嫌な予感が脳裏を駆け巡る。レイルがとんでもない情報を流した? 尾ひれ背びれビラビラの豪華な金魚みたいに、話を盛った傭兵がいたりして。


「ちょいまて、どんな噂を聞いてきた? じっくり語れ」


 これは聞き出さないといけない、重要な情報だった。

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