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188.ひとまず夜営地確保

 フライパンのおばさんの実家で、味噌を樽で購入。それから紹介された醤油屋で、これまた樽買い! いわゆる大人買いの一種だが、その先の日本酒はやられた。あれは酒だが日本酒じゃない。米を使った酒……おばさんは嘘を言ってないが、焼酎に近い。お正月の日本酒以外の酒を飲んだことないから判断できない。


 ひとまず戦利品の醤油と味噌の代金を、もらった金貨で払ったら喜ばれた。今夜は味噌炒めもいいなと、テントの下へ戻ってきた。一応占領軍だから、拠点にボスがいないのはまずいだろう。


 攻め込むと決めたら、まずは相談だ。レイル経由でシフェルやリアム宛に手紙を送る。シフェルに対しては「南の国攻め落としちゃっていい?」で、リアムは「愛してる、お土産持って帰るからね」だった。


 なお、リアムへの手紙は恥ずかしいので、二重に封筒に入れておいた。にやにやするレイルの表情から、中身を悟られた気がする。


「そんで、どうするんだ? キヨ」


 ジャックがくるくると銃を回しながら尋ねた。隣でノアも銃をバラして組み立てる。前に武器を手にすると落ち着くと聞いたから、さっきヴィリが爆弾を扱ってたのもそれかな。


 敵地にいるんだから緊張感は大事だけど、こうやって気を張ってられる時間は少ない。可能ならこの街から出た方が、気が休まりそうだった。


「うーん、返事まち」


 唸りながら、次の予定を頭の中で組み立てる。まず、奪還した砦を襲われる心配がなくなったから、兵力を統合するのが一番先か。ユハ達を合流させる必要があった。


 全員集まったら、キャンプ地を作る。この街の外に作るのは確定だが、王都側にするか、砦側にするか。進行方向を考えるなら王都側に進むのが正解だが、これから砦に残った連中を回収して合流させる手間を考えると……ん?


「なあ、ちょっと多数決とっていい?」


「タスウケツってなんだ?」


 残念、この言葉は通じなかった。王政だから多数決取らずに、トップダウン方式なんだろう。


「オレの意見に賛成か反対か示すこと」


「「「反対する理由がない」」」


 違った。言葉が通じなかったんじゃなく、その概念がないんだ。これは困ったな。オレが言うと命令になっちゃうって意味だ。再び唸りながら首を捻り、思いついた。


「わかった! それならオレの案に、意見をくれ」


 これなら今までも経験がある。オレが無茶な案を出したら、きっと意見して正そうとしてくれるはずだった。


 机の上に、先ほどスノーが持ち込んだキベリを置く。枝についてると、どう見ても芋虫だけど……。


 すでに街の連中は解散したし、南の兵士も勝手に夜営の準備を始めていた。このまま大通りを占拠しても問題なさそうだが、キベリを食べたら移動しよう。


『僕も手伝います』


 果物大好きなスノーが机に登り、チビドラゴンの短い手でひとつずつキベリを採り始めた。傭兵連中も手伝いながら、たまに口に運ぶ。スノーが綺麗にオレの前へ並べたので、礼をいって口に運んだ。


 やばい、普通にうまい。この異世界に飛ばされる未来の日本人へ、日本語とイラスト付きで食レポ残してやろう。食べ損ねたら絶対に損だぞ。でも日本人なら昆虫系は回避されてしまう。もったいない! 奇妙な決意をしながら、集まった連中に声をかけた。


「夜営する場所なんだけど、王都側でいい?」


「「いいと思う」」


「構わないが」


「危なくないか? 退路を断たれるぞ」


 そうそう、こういう意見が欲しかったんだよ。頷きながら、ぐるりと見回す。


「見張りをつければいけるんじゃないか」


 ライアンがぼそっと発言する。狙撃手で見張りを担当することが多い彼は、自分の経験から判断した。こういう意見のすり合わせがしたかったんだよ。


 にこにこしながら他の連中を見回すと、気弱で魔力ゼロのマークが口を開いた。


「あの、俺なら砦側にします」


「理由を聞いてもいい?」


「これから砦に置いてきた人達が合流するなら、近い方が便利ではないか、と……」


 自信なさげだが、彼の言葉に反論はなかった。そこでふと気づく。傭兵達って、自分の意見を押し付けたり他人の意見をいきなり否定しない。いろんな意見を出し合う中で言い争うことはあっても、実力行使で無理やり意見を通さない。


「キヨが決めれば、全員従うよ」


 ノアが苦笑いして肩を竦めた。そこで納得した。彼らは仲間の話を聞くし否定しないけど、ボスが動けば逆らわない。群れとして動く以上、上位者の命令に逆らう危険性を身をもって理解していた。


 戦地で勝手に右左に動いたら、部隊全滅があり得るのだ。過酷な状況を生き抜いたからこそ、事前に話を終えて動き出したら余計なことを考えない。キベリを唇に押し当てるスノーに促され、素直に口に入れた。


「よし、決めた。拠点は王都側、見張の指揮はライアンに任せる! それと……オレはこれから転移で砦に行くから、向こうの連中と戻ってくるまで待機して」


 自分だけなら転移も簡単だ。一度行ったことのある場所だから、明確に場所を指定できた。地面に埋まらないように気をつければ、空中に放り出されても魔法が間に合うだろう。


 決めた内容を早口で告げ、慌てて付け足した。


「待機中の指揮権はジャック。万が一戦闘状態になったら、無理に街を守らず砦まで撤退してね」


 万が一の策も授けたし、さてと……移動しようと立ち上がると、スノーが小さな手で必死にキベリを床に落とし、そのまま自分が飛び込んだ影の中から回収する。


 食い意地張ってるな、自分で収穫できるんだし、全部置いていけばいいのに。小型の獣があたふたしているのは可愛いので放置した。


 ヒジリがのそのそと後ろから近づき、コウコ達も先回りするらしく影に飛び込んだ。マロンは……その巨体で影に入れるの? と見守ったら、足の先を入れた途端に消えた。


 なんと! そんな技があったとは?!


「キヨ、現場は俺が預かるが……帰りも転移で帰れないのか?」


「1人ずつ運ぶと朝になると思う」


「「なるほど」」


 そう、転移で大量に運べないのが欠点。魔力量の問題かと思ったが、何やら制限が掛かってるらしい。数人なら一緒に連れてこられるが、大人数ならこの距離は歩いた方が早かった。


 朝になって魔力切れのオレを担いで移動するのもありだけどね。


「はい、テントの移動よろしく! 先に寝具と食料だけ出すから、数人来て」


 夜営予定地に決めた王都側の空き地に陣取る。収納から順番に折り畳みベッドや毛布を取り出し、調理器具を並べる。机を並べて大量の食料を渡した。


「料理当番はノアに指示を受けて。オレの味付けに一番近いぞ」


「「あいよ」」


 寝具を移動する連中の前に、テントが運ばれてきた。このワンタッチ式、めちゃくちゃ便利だ。誰かが持ち込んだ技術なんだと思えば、なんだか懐かしさすら覚えた。


 ワイヤーが入ってて放り出すとポンと広がるドームテント、あのくらいなら作ってもいいだろうか。今度、ヴィヴィアンに相談しよう。


 にやにやしながら、転移魔法陣を足元に転写する。ノアが「水筒!」と投げて寄越したのを受け取り、景色がぐにゃりと歪んだ。三半規管がぐるぐるする感覚があり、ぽんと硬い地面の上に放り出された。


『主殿!!』


 影を使って先回りした黒豹が、よろめいたオレを受け止めてくれる。ふかふかの毛皮に倒れ込み、そのまま頬擦りした。


「さすがヒジリ、あり……がと」


 ガチャ、撃鉄を上げる音がして顔をあげたオレは、丸い銃口がぼやける距離で突きつけられていた。


 戻った砦に、知らない奴がいて銃を向けられた場合、オレは攻撃してもいいの?

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