表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
227/410

180.権力のあるクズは最低

 打ち破った屋根の端材を空に巻き上げたブラウが、げらげら笑い出す。空中を転げ回りながら笑い続ける姿に、駆けつけた傭兵連中が首をかしげた。


『ひっ、も……むり、なに、これぇ』


 声にならない笑いに混じる言葉に、オレも叱る気が失せる。だってそうだろう、屋根に穴開けて城の上階から突入したら……そこが()()()()()()だなんて、誰が予想した?


 南の国の何番目だか知らないが、王子様なわけだ。つまりこの城がある街の領主で、責任者だぞ。それがベッドでシーツに包まって、女性達とイチャついてるのは異常な光景だった。


 民の反乱があり、正規兵じゃなくても中央の国が攻め込んで来た――どう考えても戦時中なのだ。陣頭指揮をとるべき王族が、女を抱いてるっておかしくね?


 ついでに言うなら、オレは死ぬまでDTだったのに。羨ましくなんかないぞ。だって、今は美しい黒髪美人の婚約者がいるからな。リア獣を操るリア充のオレに死角はない。


「あーあー、あぁーっと」


 マイクテスト代わりに声を張り上げると、ようやく笑いのツボが一段落したブラウが声を拡散してくれる。


「南の王子だよね? 女達とナニしてんの」


「うるさいっ! 貴様、どういうつもりだ! 私は王族だぞ。貴様のような下種とは生まれも格も違うのだ。見下ろすなど不敬だ、降りてきて詫びろ」


 王子の言葉も、女性達の悲鳴もしっかり拡散されるが……ブラウお得意の嫌らしいやり方だった。真下の部屋にいる王子には聞こえない。つまり拡散されたと気づかず、大声で空中のオレに怒鳴り散らした。


「父王に私が言えば、お前の首などすぐに飛ばせる。さっさと詫びろ! あと外のうるさい騒動を何とかしろ。集中できない」


 これ、この街の国民やうちの傭兵全員に聞こえてるぜ? ナニに集中したいのかは置いといて。


 巨大黒豹に跨ってる時点で、聖獣の存在に気づこうか。それと聖獣の方があんたのパパより偉いから。偉い偉い聖獣様のご主人様だからね、オレ。


 ()が高い、控えおろう! って叫んでみたいが、相手がすでに低い場合は使えない。ちょっと使いどころが難しいな。祖母と見た時代劇のセリフを思い出したが、今回はお蔵入りだった。


「うん、これはいらない」


 オレの一言が決起の合図となった。わっと湧いた国民の声が城を揺るがし、騎士や兵士が武器を捨てて投降し始めた。自分達が必死に敵を食い止めている間、逃げるならまだしも女を抱いてる王子なんて守れない。気の毒なので、ジャックへ風を使って伝言を飛ばした。


「王子とその周辺で甘い汁吸ってた奴以外は、丁寧に扱ってね」


「相変わらず甘いが……これがキヨだからな。わかってるよ」


 ジャックが手を振りながら了承してくれた。これでこの街の住人が暴走しても、傭兵達がある程度まとめてくれる。


 騎士や兵士が武器を放棄して投降し始めたため、あっという間に市民が駆け上がってくる。このまま突入されると、素っ裸にシーツ巻いた侍女やご令嬢が危険だった。飛び降りて女性の安全だけ確保する? でもその姿は誤解を招く気がした。


 まるでオレが女を奪うために飛び降りたと思われるのも癪だし、万が一リアムの耳に入ったら軽く3回は死ねると思う。


「ブラウ、女性の安全を確保。外へ逃してくれ」


『あいよ〜、お任せあれ』


 なんだろう、嫌な予感が?


『主殿、あやつに任せてはっ!』


 ヒジリの叫びに慌てたオレは、ひとまず止めた。


「ま、待て! ブラウ、待て!!」


『残念、僕は猫だから芸は出来ないんだよ〜。それと』


 そこで意味ありげに言葉を区切った青猫が、にやりと笑う。あれだ、お化け屋敷の化け猫系の、口が裂けてる感じの顔。


『もうやっちゃった』


 ヒジリが溜め息をついた。目の前を白いシーツが飛んでいく。ご令嬢だか侍女だか裸では判断つかない女性達は、確かに安全に外へ運ばれていた。


 ここに命令違反はない。そう、言うならオレの命令が悪かったのか? ブラウ以外ならこんな意地悪なことしないと思うけど……ああ、そうか。オレは命令の内容を間違えたんじゃない。頼む奴を間違えたんだ。


 がくりと肩を落としたオレの前を通り過ぎたシーツの端を掴んだ、すっぽんぽんの女性が通り過ぎ、彼女の後ろから別の女性も空を飛ぶ。怯える彼女達はシーツにしがみ付こうとするので、下から胸や足が丸見えだ。隠そうにも難しいだろうが、身体を丸めりゃいいのに。


 ちょっと自業自得だから、これがラノベで読んだ「ざまぁ」って展開か?


『僕、リアルざまぁしてみたかった』


「ああ、うん。わかるけど」


 オレが女性の扱いが非道な奴だと思われちゃうじゃね? もう少し優しい方法はなかったのか。せめてシーツに包んで運んでやれ。


 ブラウはニヤニヤしながら空中を歩き、女性達を巻いた風を操る。そのまま城外どころか塀の外へ出してしまった。下ろされた場所が街の外なので、あれは服の調達に苦労するだろう。


「お前さ、オレの命令を曲解するの……やめろよ」


 溜め息をついた足元で、なぜか歓声と怒号が同時に沸き起こった。両手で顔を覆っていたオレがそっと覗くと、住民達は男女問わず歓声を上げて拳を突き上げる。怒鳴ったのは王子だった。目の前で女性達を拉致られたんだから、当然だけど。


 こういうのって「キャトられる」で合ってる? 宇宙人にビームみたいな光で回収されるやつ、映画で観た。


『ついでにキャトってみた』


「だよね」


 うん、知ってた。楽しそうなブラウが戻り、コウコはひらひらと空を舞う。大きな龍体は光を弾いて幻想的で美しかった。巨大化したスノーも、尻尾で余計な壁を壊している。建物や公共施設を壊さないのは、すでに住民が味方だからだ。マロンはいつの間にか、逃げる貴族を蹴り飛ばして確保していた。


 馬鹿な子ほど可愛いっていうだろ? あれは嘘だ。今のオレはブラウを殴りたいからな。そりゃあもう、吹っ飛ぶくらい全力で。


 足元では王子が住民に捕まって、2〜3発殴られていた。溜め息をついて見守る。


「ねえ、殺されそうになったら助けてやって」


『いやよ』


『お断りします』


 コウコとスノーに断られるが、ここで新参者のマロンが株をあげた。器用に空中を駆けてきた馬は、ふんと鼻を鳴らした後で軽く請け負った。


『ご主人様、僕が助けてやりますよ』


「お、いいね。任せ……ごめん、その前に助け方を説明してくれる?」


 ブラウで何度も失敗したため、オレもさすがに学んでいた。彼は悪びれた様子なく、当たり前のように教えてくれる。


『簡単です。あの男を空へ蹴飛ばせば、住民達も諦めますよ』


 人の恋路を邪魔してないのに、馬に蹴られちゃうのか。それも嫌だが、死ぬよりマシだと思ってもらおう。


「出来るだけ加減して」


 唸りながら許可を出したオレの耳に、下の住民の声が届いた。


「俺の妻に手を出しやがって! このクズ王子が!!」


「お前がうちの娘に手を出したのは知ってんだぞ!」


 ……聞こえちゃったからさ。ほら、彼らの心境もわかっちゃうし? 僕は何も見なかったことにしよう。大きく溜め息をついて、ヒジリに合図して背を向けた。


「30分くらい、休憩してくるから……殺されなきゃ放置していいよ」


 先ほどと似た命令だが、かなり内容に幅を持たせた変更に、ブラウが空中で寝転がりながら尻尾を振った。


『さすが主、わかってるね。クズ王子にざまぁは定番だもん』


 黒豹が駆け下りたのは、ノアが待つ地上だった。城壁の外なので、まだ住民が城に駆け込んでいくのが見える。どこかの奥さんがフライパン片手に走っていった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ