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169.使えるなら先に言ってよ

 ちょっと様子を見ようと頭を出したら、額の辺りでカーンと間抜けな音がした。そのまま後ろのジャックに引き摺り下ろされる。


「どうだった?」


「いや、その前にオレの心配しようよ」


 結界で包んでなかったら、オレの額にクリーンヒットだぞ? 甲高い音がしたから狙撃銃だな。角度から考えると、左側の大木の上だろうか。


「キヨはどうせ結界で大丈夫だろ。敵はあと何人だ?」


「見えてるのは5人、それと別に左の大木に狙撃手が1人かな」


 東と南、どっちから攻めるか。悩む必要も作戦を練る時間もなかった。いきなり南の国が攻め込んできたのだ。問答無用の奇襲で、国境付近の砦がひとつ落ちた。それを取り戻すために出陣したのだが、送り出し方が酷い。


 寝起きのオレらの部屋に転移魔法陣持ち込んで「頑張れ」の一言と武器入りの袋を押し付けられて、魔法陣に突き飛ばされた。待ち構えていた宮廷魔術師ヴィヴィアン嬢が魔力を流し、一瞬で転移する。まだ頭が起きてない状態で、すぐに袋から銃を取り出して構えた。


 ここら辺は、悔しいが早朝訓練の賜物だと思う。意識が半分寝ていても、ちゃんと撃鉄あげて照準合わせようとするもん。殺気を向けられると肌が粟立ち、無意識に武器を手に取る。そこまで訓練された傭兵とオレは、放り出された茂みの中で次々と戦闘態勢を整えた。


「……キヨ、ここどこだ?」


「知らない」


「ボス、人数が足りないぞ」


「知らないよ、もう! シフェルに文句言うために、生きて帰れ!」


 怒鳴った途端に、当然ながら敵に居場所がバレた。まあ、ある意味当然なのだろう。敵地に転送された可能性を考えなかったオレらが悪いけど、転送された場所が鬼畜だった。


 奪取したばかりの砦は森に囲まれていた。その茂みを揺らしながら叫ぶ奴がいれば、そりゃ砦の兵隊は撃つ。彼らはきっと悪くない。悪いのはこの場所を選定したシフェルか、もしくはこの場所に魔法陣を設置したレイルだ。


「くそっ、応戦しろ。作戦なんて考えてる暇ないから、とにかく砦を落とせ!!」


 こう命令したオレの指示に従い始まった戦闘だが、現在膠着状態だった。かなり砦の兵を片付けたが、敵が立て篭り作戦に打って出た。こうなると甲羅に手足を引っ込めた亀と一緒で、手出しが難しくなる。亀を刺激するつもりで、結界を張ったオレが頭を出したのだが……おかげで戦力が把握できた。


「ライアン、狙撃手を片付けて」


「はいよ」


 頭上の木の枝に腰掛けたライアンは、愛用のライフル銃を引き寄せてにやりと笑う。どうやら視認できたらしい。任せても平気そうだ。


「残りは5人。まずオレが飛び出すから、そこを撃ってきた奴らを順番に……」


 万能結界を最大限活かす方法を提案すると、さすがに眉をひそめられた。


「ボス、あんた頭がいいのに、時々バカだな」


 褒めて貶すなんて、高等技術じゃねえか。ジークムンドをじろりと睨むと、反対側から盛大な溜め息をつかれた。


「おれは反対だ」


 オカンであるノアが反対するのはいつものこと。さらりと聞き流す。そんなやり取りに、足元の影がぶわりと膨らんだ。


『主殿、我は思うのだが』


「何? ヒジリ」


 黒豹は金瞳を瞬かせて、砦を見てからオレに視線を戻した。


『砦の中に我らを放てば終わりではないか?』


「うん?」


 奇妙な作戦が聞こえたけど、空耳か? そんな聞き返し方に、ヒジリの足元から顔を覗かせる青猫がひとつ欠伸をして参戦した。


『僕らが片付けたら、一瞬じゃん』


「え? そういう俗なことを聖獣に頼んでいいの?」


『声がかからないゆえ、おかしいと思ったが……主殿は主従関係を理解しておられなかったか』


 ヒジリが呆れたと呟く。その響きをじっくり検証した結果、オレと聖獣達の意識に大きな溝があったと判明した。聖獣同士の戦い以外で彼らをあまり使っちゃいけないと考えてたけど、いいんだ? 便利な手足として使っても問題ないの?!


 それってオレがめちゃくちゃチートじゃん。世界の守護神みたいな……神聖なイメージは不要でしたか。それじゃあ遠慮なく使用させていただきましょう。


「いや、そういう重要なことは先に言ってくれないと」


『普通は聖獣と契約すれば、使おうとするのが人ではないのか?』


「……オレが人じゃないみたいに言うなよ」


 異世界人だけど、一応人の括りに入ってるから。文句を言いながら、彼らを使えるなら作戦の幅が広がるし、被害も少なくできると気づいた。


『主殿だからな』


『主だもんね』


『そうよ、だから言ったじゃない』


『本当に気づいてなかったのですか?』


 ヒジリとブラウに続き、コウコとスノーも参戦して聖獣4匹でディスられた。お前らが表に出てきてあれこれ言うから、ジークムンドが苦しそうに笑いを堪えてるじゃないか。ジャックなんか遠慮なく笑ってるが、息が詰まって声が出てない。器用な奴らだ。


 シャツの袖で滲んだ汗をぬぐい、作戦を変更する。頭の中で組み立てた通りなら、ほぼ被害ゼロで行けるぞ。


「よし、それじゃ作戦変更。まずヒジリはオレを乗せて飛んでもらう。弾はオレが防ぐから、コウコも一緒に行こうか。派手に火を吹いて脅してくれると嬉しい。その間にブラウとスノーが影から侵入して、向こう側を攪乱して。ジークの部隊が攻め込むフリで兵士を引き付ける」


「真似だけか?」


「実際に攻めるとケガ人出るだろ。まだ戦いは序盤だから、ケガ人はゼロの方針で行くよ。ジャック達は裏から回り込んで、どこかの入口を壊して侵入して欲しい。上から指揮するけど、伝達には風を使う。オレが指定した奴以外に聞こえないから、いきなり耳元で声が聞こえても叫ばないこと! 以上」


「「「あいよ」」」


「「わかった」」


 騎士なら敬礼や「かしこまりました」が挨拶だけど、傭兵は承知したことを口々に伝えてくる。この微妙に揃わない感じが、だらだら過ごした高校時代を思い出せて懐かしい。暑い夏の日にだらだらと過ごした午後の体育とか、こんな感じだったな。


 懐かしみながら分担を決める彼らを見守った。ユハは最近、ジークムンドの班に混じっていることが多い。あの班は人数が多いし、まとめ役のジークムンドが受け入れ体質だからな。拾ってきた奴を片っ端から面倒みるのに、見た目が熊みたいで怖がられちゃう不憫な人だ。


 彼らが決める間に、収納から武器を取り出した。レイルにもらった銃はベルトに差し込み、ナイフを足や腰のベルトに隠していく。脱出用の小さなナイフも持ってるけど、聖獣がいるから不要だった。魔力を封じられても、聖獣は呼べるらしいし。


『主、僕……生きて帰れたら、今夜はからあげ食べたい』


「ブラウ、不吉なフラグを立てるな。聖獣は死ねないくせに」


『一度やってみたかったんだけど……ああ、ひどひぃ』


 猫の頬を両側に引っ張ってげらげら笑う。その様子に、周囲の緊張はほぐれていった。こういう空気はよく読むんだよな、青猫って。普段は役に立たないんだけど、道化師的な役割を買って出るところは偉いと思う。


『主人の野菜スープがいいわ』


「スノーやヒジリは?」


『前に食べた酸っぱくて黒い肉が食べたいですぞ』


『私は美味しい果物があればそれで』


 欲があるのか、ないのか。聖獣の希望したメニューは意外と地味だった。唐揚げ、野菜スープ、おそらく黒酢炒め、果物。今は好物になって強請るヒジリだが、最初の頃は顔を顰めて「酸っぱい物は腐敗しておりますぞ」と文句言ってた。黒酢はジークムンドの故郷の調味料だっけ。また補充を頼まないといけないな。


「ボス、準備できたぜ」


「こっちも、いつでもいいぞ」


 ジークムンドとジャックの班が準備完了だ。この2班で砦を落とし、今日は中でゆっくり休むぞ!


「よし! 作戦通りによろしく! 今夜は唐揚げと野菜スープ、黒酢炒めだ! 最後にデザートの果物もつくので、しっかり仕事するように」


「「「「おうっ!!」」」」


 ん? オレの号令がおかしかった気がするけど、こんなもんだよ。もたもたしてると日が暮れる。さっさと敵を砦から追い出すとしましょうか。

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