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166.世界征服? 冗談でしょ

「キヨ、離れなさい」


 柔らかく抱き返してくれた腕から、無理やり引き剥がされる。くそっ、単純な力勝負ではシフェルに勝てねえ! 


「いいじゃん、転移成功のご褒美だからぁ! ちょっとだけぇ!!」


 必死にしがみつくオレに、溜め息をついたシフェルが「少しだけです」と許可してくれた。ぐずぐず鼻を啜りながら見上げた先で、黒髪美人が苦笑いする。差し出したハンカチで鼻を拭いてくれ、ついでに溢れた涙やら涎も清めてくれた。


 美人なだけじゃなく、中身も天使だ。


「ありがと、リアム」


「セイは頑張ったのだから、大目に見てやってくれ」


 レイルが横から覗き込み、赤くなった鼻を摘む。息が苦しくなって口を開けたところに、飴玉を放り込まれた。


「ったく、何をやってんだか」


「ひとまず転移は成功です。手足の欠けはありませんが、これを他の兵が使えるようになれば……」


 有事の際に便利だ。そんなニュアンスに、一応釘を刺しておく。ぐしっと袖で顔の液体あれこれを一気に拭い、リアムに抱きついたまま口を開いた。


「オレ以外は無理だと思う。魔力消費が大きすぎるし、たぶん……座標の固定が出来ないから」


「なるほど。異世界人の固有能力か」


 こくこくとウルスラの意見に頷いた。見せろと騒いだわりに静かなヴィヴィアンを振り返ったら、感動して涙で何も言えなくなっていた。そんなに感動する要素あった?


 我、隣の部屋から移動しただけぞ? ついでに言うなら疲れて動きたくないくらい魔力食われた。


「随分効率が悪いですね。その状態で北の国まで魔力が持ちますか?」


 シフェルの最もな指摘に、レイルが笑いながらオレの指輪をつついた。


「この指輪に喰われてるんだよ。まあ外せねえけど、ピアスに溜めた魔力を流せば足りるだろ」


 リアムにもらったり、レイルと交換したり、ついでにシフェルから追加されたピアスは、両方合わせて25個。この世界の魔力を溜める目的があったとしても、暴走を止める為のピアスが多過ぎた。さらに魔力を食う指輪ときたら、当然こうなる。


「魔力量の測定をしておきましょうか」


『主殿の魔力は測定できぬ。我や他の聖獣の魔力も使えるゆえ、膨大すぎて計測不可能だ』


 のっそり顔を覗かせた黒豹の発言に、ざわっと場が揺らいだ。みんなが驚いた顔でこっちを見てるんだが、何か? どうして今さら驚いてるんだろう。


「ん?」


「非常識だと思っていましたが、そんな表現では足りませんね」


「最高の戦力です」


 呆れ顔のシフェル、何やら物騒な想像をするウルスラに、腰がひけた。


 リアムは無邪気に喜んでいる。シフェルとウルスラ公認だが非公開の婚約者であるオレを褒められたと、嬉しそうに声をあげた。


「私の婿殿は三国一だ!」


「三国どころか、すべての国を探してもいない破格の存在ですわ」


 皇帝陛下を凌いでいるらしい。この宮殿に来たばかりの頃は「まだまだ届かない」と言われたのに、聖獣チートでドーピング超えしたようで……。ヴィヴィアンはリアムに笑顔で頷いた。


「お前、いっそのこと世界征服しちゃえよ」


 レイルがげらげら笑いながら、悪い(そそのか)しをする。リアムの黒髪の匂いを嗅いで、ちょっと隣室を思い出したオレは慌てて首を横に振った。


「やだよ、面倒くさい」


 世界征服なんかしたら、仕事が山積みになりそうじゃん。オレは有能な宰相と強い騎士に守られるお姫様の婿になって、チートな引きこもりを目指すんだから。皇帝陛下のヒモが理想の生活だ。


「世界征服は後で検討するとして……まずは北の国へ行くのでしたね」


 話を纏めにかかったシフェルの表現に、一部おかしいところがあるが? なんで「後で検討」になってるの。嫌だって言ったよな。


「北の国は、義理だけど一応家族がいるから」


 義理の父と妹が出来た。オレを王子で迎える代わりに、王太子のシンや一緒に捕らわれた兵士も返してあげるのが条件だ。中央の国が圧倒的勝利をした原因は、北の聖獣コウコをオレが手懐けたから。異世界人チートだが、仕方ないよな。人間同士の戦いに聖獣をぶつけたのは、北の国の貴族だ。


 王族の権威が落ちて蔑ろにされた北の国では、勝手に公爵やら侯爵やらが湧いて出て、国王の代わりに西の国と軍事同盟を結んだ。西の国にオレが浚われたため攻め込んだ騎士団のスマートな戦で、勝利を収めたことが彼らの気に障ったらしい。


 今度は北の国と戦になったため、オレは突然戦場に放り込まれたわけだ。コウコを狂わせた奇妙な紐は貴族がどこかで見つけた魔道具だが、おかげで赤龍が味方になった。帰り道でうっかりドラゴンに飲み込まれたスノーも回収できたので、最終的に北の国からの戦果は大きい。


「挨拶すべきだろう。余も一緒に……」


「陛下は執務がございます。ましてや今の状況でご挨拶など無理です」


 ウルスラが淡々と言い聞かせる。リアムがしょぼんと肩を落とすが、ここは待ってて欲しい。まだ向こうが安全かわからないし、きちんと()()()()()から嫁を紹介するのが順番だ。


「リアム、お土産を持ってくるから待ってて。転移で行って帰ってくるから、すぐだよ」


 軽い口調で告げたのは、あまりにもリアムが心配そうだから。確かに庭でお茶してただけで攫われる僕ちゃんだったけど、今は傭兵達の立派なボスだぞ。簡単に害されたりしない。リアムの頬を撫でてにっこり笑った。


「土産はいいから、ケガをしないでくれ」


「わかった。でも何かお土産は必要かな。だって、可愛いお嫁さんを待たせるんだもん」


「お嫁、さん……」


 照れたリアムが真っ赤な顔を両手で覆ってしまった。何とか顔を見せて欲しいが、ここで無理やり手を剥いだら勢いで殴られそうだ。主にシフェルとか、ウルスラとか。ヴィヴィアンは興味深そうに観察に徹している。そもそも、なんで彼女はここに呼ばれたんだっけ?


「ヴィヴィアンって、何でここに来たの?」


「宮廷魔術師としてです。あとは、陛下の女性用のマナーや所作の教師も兼ねています」


 びっくりした。宮廷魔術師って、お抱えの技術者じゃん。前にオレが黒い沼経由で西の飛び地に誘拐されたとき、魔術師が総出で現場調査をしたと聞いた。魔法絡みのプロフェッショナル、しかも宮廷付きのエリート部署なら、ヴィヴィアンは公爵令嬢でキャリアウーマンってわけか。


 才色兼備とはよく言ったものだ。皇帝陛下を務めるリアムもすごいが、クリスティーンも近衛騎士で、ウルスラは宰相閣下だから……この世界の女性は凄い人ばかりだな。シフェルの説明に頷きかけ、ん? と左にかしげる。


「もう所作を直して平気?」


「キヨは北の王族でしょう? あとはあなたの肩書をもう少し豪華にすれば、問題ないと思います。王子なら婿養子で押し通せます。欲を言えば、もう1つくらい肩書が欲しいですね」


 簡単そうに言うけど、オレの肩書はかなり豪華だぞ。『ドラゴン殺しの英雄』で『聖獣達の主人』だし、『北の王族』になった『中央の皇帝陛下のお気に入り』だから。ついでに『中央の国の辺境伯位』も持ってるし。希少な『赤瞳の竜』属性の『異世界人』だ。これ以上の肩書が必要?


 シフェルに指折り説明して尋ねれば、にっこり笑ってとんでもない提案をされた。レイルも手を叩いて同意する。にこにこしてるウルスラも含め、無責任だぞ。


「そうですね。西は属国になりましたし、北は友好国。あとは東と南を平定すれば安心して結婚できますよ」


「そりゃーいい。お前が世界統一して、皇帝陛下になりゃいいじゃん」


 ――それって、さっき保留された世界征服案じゃね?

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