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160.誤解が誤解を招くよね

 食事を終えて、デザート代わりに果物を剥いているところでレイルが口を開いた。


「調べておいたぜ」


「おう、サンキュ」


 空中から取り出した情報カードを受け取り、さっと目を通してから自分の収納へ放り込んだ。情報は命より大切に扱え。多くの人の命を左右するものだ――そう教えられたため、管理はきっちりする。オレに教え込んだレイルは満足そうに頷いた。


 軽く目を通しただけである程度内容が把握できるよう、一番重要な情報を上に1〜2行で記載する。レイルの情報はいつも同じ方法を取られていた。そのため奪われると内容を敵に把握されるから、暗号化されているのも特徴だ。


 暗号のパターンが3種類あり、全部焼き付けで記憶させられた。あの魔法陣の模様は、すぐ判別できるくらい使った。今度は絨毯や床の幾何学模様に隠しても、すぐ見つけてやる。


 焼き付け記憶法があまりに優秀だったこと、オレに効果が高かったことを踏まえ、レイルとシフェルに複数回試された。


「セイ、今のカードはなんだ?」


「うーんとね。秘密」


 さすがに内容をぺらぺら話すわけにいかない。情報提供者が目の前にいるし、何よりこの場所はまだ傭兵連中が休憩する食堂なのだ。当番で洗い物をする数人が消えたものの、残りはお茶を口にしたり軽く居眠りしていた。


 どこから情報が漏れるか分からないのだ。にっこり笑ってリアムに首を横に振った。教えられないよ……そんなニュアンスのオレを、彼女は盛大に誤解した。


「あ、そうか。セイも男だから……ごめん、聞いてはいけなかったな」


「ちょいまて。何に誤解した?」


 真っ赤になって目を逸らす姿から、絶対エロ画像か何かを間違えただろ。そんなの、オレにとって致命的すぎる。


「いいんだ。男ならしょうがないと聞いているし……っ、平気」


 全然平気そうじゃないし、100%誤解だから! 叫びたい気持ちを抑えて、できるだけ低い声で淡々と説明する。


「この後の貴族との争いに必要な情報だぞ。恥ずかしかったり赤くなるような内容じゃないから、そこは勘違いしないで。わかる?」


「……そういうことにしておきたいなら」


 それでいい。無理やり納得しようとするリアムは、思い込みが激しいようだ。クリスティーンが見かねて後ろから声をかけた。


「ちらりと見えましたが、初めて見る奇妙な文字が踊ってました。情報の暗号化でしょう。ご安心ください、裸の女性の絵ではありません」


「そうだけど! 合ってるけど!! 最後の表現さぁ、もっと(くる)んでよ!!」


 机を叩いて盛大に抗議する。そのせいで、寛いでいた傭兵達の注意を引いてしまった。


「どうした?」


「それがさ、ボスが女の裸絵を買ったとか」


「マジかよ!」


 ざわつく連中の口から、恐るべき誤解が飛び出した。


「そんなわけねえよ」


「ああ、だってボスは」


「「「「男が好きなんだろ(から)」」」」


 目を見開いたクリスティーンが、すがりつくリアムをオレから引き剥がした。ちょいまて、おい。なんで戦時中の噂が真実の如く伝わってんだよ。


「いや、それは絶対にない」


「皇帝陛下が好きなんだから、そうなんじゃねえの?」


 面白がって笑ってたレイルが、泥舟だが助け舟を出してくれた。沈みそうな舟だけど、これに飛び乗るしかない。


「皇帝陛下が好きだよ。それが悪いかっ!!」


 開き直ったオレに、傭兵連中が口笛を吹いて拍手喝采だった。くそっ、コイツらの誤解のせいで、カッコ悪い告白になっちまったじゃねえか。


 イライラしながら振り向くと、リアムは真っ赤な顔で口元を押さえていた。そしてクリスティーンの親指がぐっと上がる。よく言ったと褒められた感じか。護衛騎士としてはどうかと思うけど、彼女は事情を知ってるからな。


「騒がしいですが何かありましたか」


「……キヨ、後でお話を聞かせていただきましょう」


 ウルスラとシフェルが揃って入り口から入ってくる。貴族らしいキラキラしい連中が、この殺風景でゴツいおっさんばかりの空間に似合わない。騎士服のシフェルはともかく、ウススラは珍しくドレス姿だった。執務中はいつも騎士服に似た男装だったので、意外性に目を瞬く。


「ウルスラ、今日は休日だったのか」


 リアムがにっこり笑って話しかけたことで、彼女の休日用私服だと分かった。なるほど、女性なのだから家でドレスやワンピースなのは普通だ。しかも侯爵家の当主で……ん?


「ねえ、ウルスラはご令嬢なの? それとも御当主?」


 こそっとリアムの耳元に口を近づけて尋ねた。真っ赤な顔で「当主だ」と答えてもらう。リアムがめっちゃ可愛い。人目から隠すために、そっと彼女を背中に押しやった。上着の裾にぎるの、マジ可愛いぞ。


「ご無沙汰しております。ラスカートン前侯爵ベルナルド様」


 ウルスラは優雅に裾を摘んでお辞儀をした。洗練された仕草に、傭兵連中が見惚れる。ちょっとキツイ感じがする女性だけど、心遣いは素晴らしいし貴族女性として立派な振る舞いができる人だ。傭兵への偏見もないようで、ちょっと安心した。


「此度は愚弟が迷惑をかけたようだ。すまない」


 言葉遣いは上から目線に聞こえるが、ベルナルドは素直に頭を下げた。ところで、いい加減エプロンはずせ?

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