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11.拘束状態での拝謁(3)

 金のかかってそうな廊下を進む。両側の絵画も高そうだし、無意味に花も生けてない壷が置いてあったり、シャンデリアも煌びやかだった。ふかふかの絨毯は踏み心地が良さそうで、足首まで埋まる……なんて冗談半分の言葉が浮かんでくる。


 ところで……この国、戦争中だよな? 


 大きな一枚ガラスをあしらった窓や、この宮殿の装飾品はおかしくないか? 地下壕に隠れたり、爆撃があったりしないのだろうか。


 まだシフェルの腕に座る形で抱き上げられているため、大人しく周囲を見回して観察していく。前世界で戦時中といえば第二次世界大戦のイメージだった。


 たしか『欲しがりません、勝つまでは』だよな。本で読んだり、終戦記念日のドラマ放送から得た知識だともっと悲惨な……あ、でもアメリカはステーキ食べながら戦争してたっけ。


 東西南北を敵国に囲まれていると聞いたので、てっきり敗戦ムード満載かと思い込んでました。どうやら負け戦に投入されるわけじゃなさそうだ。


「どうしました?」


「いや、戦時中なのに豪華だな……と」


 素直に答えながら、ちょっとした悪戯心でシフェルの髪に手を伸ばす。謁見のために丁寧に整えたブロンズの頭を、抱きついたフリで崩した。


 ざまあ!


「……動くと落としますよ。まず国力が違います。5つの国がある話は聞いていますか?」


「ああ」


 頷きながら、乱しすぎた髪をそっと戻した。もしかして、本当にさかさまに頭から落とされるかも知れん。つうか、コイツはやりかねない。皇帝陛下に会った後が怖いことに気付いた。


 会うまでは丁重に扱ってくれるだろう。何しろ預かり物と一緒なのだ。しかし謁見が終わった後、コイツがオレの教育をするとか言い出したら……地獄だろ。


 死ぬ寸前までいびられるに決まってる。


 ……いつもギリギリまで追い詰められないと気付けない癖、何とかしないと。そのうち取り返しがつかない失敗をする予感が……あれ、こういうのって『フラグ』とか言うんだよな。


「中央のこの国は四方を敵に囲まれていますが、一番大きな国です。他の4国をすべて集めても、わが国より小さいのですから」


「じゃあ、なんで勝てないんだ?」


 子供は無邪気に核心を突く。意地悪するつもりはなく、本当に素直な疑問が口をついていた。慌てて口を手で覆うが、目を瞠ったシフェルがくすくす笑い出す。


「そうですね、皆思っていますよ。なぜ勝てないのかと」


 どうやら何かあるようだが、異世界に落とされたばかりで正体が知れないガキに教える筈がない。シフェルは多少気に食わない奴だが、今見開いた新緑の瞳はキレイだと思った。


 澄んだキレイな色だ。だから、少しだけ譲歩してやる。




「――陛下って、どんな人?」


 12歳の外見を生かして、興味が逸れたように装う。子供らしい質問に、シフェルは一瞬だけ動きを止めた。気付かれちゃったか……と残念に感じながらも、彼が乗ってくれることを望む。


 話せない機密を根掘り葉掘り聞くほど、精神は子供じゃない。もちろん、彼ならさらりと躱してみせるだろうが。


 元の年齢(享年)は24歳だ。異世界でも大人に分類されるだろう。だから大人の事情ってのも、少し配慮してやれる。


「そうですね……」


 そこで考え込むな。一言で「優しい方ですよ」とか「外見は怖いですが、云々」を期待したオレが怖がるだろ! 子供相手に詳細な説明なんか要らん。


「いろいろと規格外の方、です」


「きかく、がい…」


 見た目? サイズ? それとも頭の中身? どこが規格から外れてるんだろう。部位によっては関わりたくないんだが?


 本気で心配するオレが口元に運んだ指を齧っている姿に、シフェルも同情したらしい。もう少し言葉を選んで説明を付け加えた。


「いきなり殺そうとしたり、殴ったりしませんから安心してください」


 さらに怖い説明だ。つまり、いきなり殺そうとしたり殴るような知り合いがいるんだな? お前には……。安心できる要素がない。


「……帰りたい」


 出来るなら前の世界に帰りたい――切実な声色の呟きが零れ、噛んだ指に再び歯を立てる。


 オレ、この世界で何年生きられるのかな……ふふっ。


 遠い目をして現実逃避した間に、大きな扉の前に到着していた。


「近衛騎士団S隊隊長、シフェル・ランスエーレ殿到着です」


 偉く立派な名前と肩書きで扉が開き、両側に立っていた衛兵が一礼する。


 シフェルは当然のように足を踏み出した。まだ腕に座った状態のオレはそのまま連れて行かれる。降りなくていいのかと見回すが、誰も気にしていない。いや、見ていなかった。


 正確には、部屋の中にいた高そうな服を着た連中――貴族か?――は奥へ頭を下げており、誰もこちらに注目していない。


 グレーで無骨な印象の建物から想像も出来ない、美しい白い石を使った部屋は天井が高かった。よく大聖堂やホテルのロビーで見るような、数階ぶち抜いた高さだ。


 上部が円形の塔になっているらしく、ガラス張りの天井から光が降り注ぐ。明るい室内をさらに眩しく彩る白が床と壁を覆っていた。勉強不足でわからないが、磨いた大理石っぽい艶のある表面が光を弾く構造らしい。


 ……神々しさの演出がハンパない。


「すっごい………」


 思わず漏れた感嘆に、シフェルがちらりと視線を向ける。


「……お金の無駄遣い」


 だが続いた言葉に苦笑が口元に浮かんだ。建物に感動したというより、幾らかけたんだ? の疑問が頭の中で踊る。


 皇帝や王様――陛下と呼ばれる人たちは、荘厳な建物が好きなのか。


 感覚が庶民すぎて、光熱費がかかりそう……と変な心配をしてしまう。掃除も大変そうだった。魔法があるから、別に苦労はしないのかも知れない。

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