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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第23章 狙われ続ける人気者

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139.わかりやすい敵対行為の裏は?(1)

 盛大な名乗りのお陰で、会場中の視線を釘付けだ。悠々と歩くシン、2歩下がってレイル、その隣をオレon尻尾フリフリ黒豹――ヒジリが聖獣なのは昼間にバレたため、ざわついていた会場はオレ達が通ると静まり返った。


「本日はお招きいただき……」


 長い挨拶を淀みなくこなすシンの背を見ながら、オレは魔力感知の波紋を放った。不穏な動きをする奴がいたら引っ掛からないかな? と軽い気持ちだったが、予想外に反響があって魔力を遮断する。びくっと肩を震えてしまった。


 魔力を持ってる奴は、問答無用で感知の対象になっちゃうらしい。もっと対象を絞ったり、条件付けしないと頭が茹だりそうだ。この世界はイメージで魔法を使えるわけだから、こう「オレに害意のある奴だけピンポイントで探す」みたいな検索条件を追加できないだろうか。


 ヒジリは澄ました顔で尻尾を振っているが、警戒は怠っていない。さきほど狙撃されたため、オレも万能結界を張っていた。対象はオレ達3人とリアムだ。


『主殿、痛むか?』


 治癒したいのだろう。そわそわ尋ねる黒豹の首を撫でながら、オレは「そうでもない」と呟いた。その言葉をわざと周囲に聞かせるのも重要だ。少し大きめの声で、わずかに魔力を乗せて……。この方法はリアム直伝だから、上手にやらないとね。


 ちらりと視線を戻せば、シンの挨拶を聞きながらリアムが口元を緩めた。玉座の肘掛けに乗せた指先がわずかに動く。にっこり笑って「気づいたよ」と知らせる。こういうやり取りは秘密の恋人っぽくていいな。口元が緩みそうだ。


 シンの挨拶が終わり、遠方より顔を見せた北の王族と西の王族を歓迎するリアムの声が響く。その合間を縫って、乾杯の為のグラスが配られた。侍女や侍従達の足音を立てない洗練された動きは、人々にグラスを渡しながらも風のように軽やかだ。


 武道を極めると舞に近づくと聞いたことがあるけど、その理論で行くと侍女や侍従は戦闘能力が高いんじゃないだろうか。緊急時に暗器だして守ったり……さすがにないか。妄想しながら差し出されたグラスを受け取る。


「皇家と親愛なる2王家の繁栄を祈って」


「「「「乾杯」」」」


 これ、自動翻訳だからオレの知ってる単語になってるけど、本来は別の言葉なんだろうな。グラス同士をぶつける仕草はない。目線より上に掲げて、口をつけた。


「……うん、また毒」


 ぺろっと舌を出して苦笑いする。ここまで狙われると、いっそ何か裏があるんじゃないかと疑るよね。分かりやすい毒ばっかり使うんだもん。


 隣のレイルは「マジ? おれは普通だけど」とグラスを交換し、中身をわずかに口に含んだ。すぐに眉をひそめて「ホントだ」と呟く。途端にヤンデレ兄シンが過剰反応した。


「キヨ、またか!? もう北の国に連れ帰って部屋から出さないぞ」


「落ち着いてよ」


 宥めながら、毒のグラスをもう一度あおる。口をつけて傾け、中のワインらしき酒を少しだけ舌の上に流した。先ほどのべたべたに甘い毒と違い、今度は苦い。共通点は、どちらも口に含んだだけで気づく味の毒を使った点だ。


 もしかして……何かの警告、かな?


 ぺろりと舌で唇を舐め、グラスを足元に落とした。ぱりんと音を立てて割れるグラスがもったいない。王族の端くれらしからぬ感想を抱きながら、わざと隣のレイルに寄り掛かった。毒を確かめるために距離を詰めたレイルが近かっただけなのだが、むっとしたシンが押しのけてオレを抱き締める。


 寄り掛かったオレから自由になった途端、レイルは表情を作った。


「可哀想に……すぐに解毒してやるぞ」


 親切で優しい従兄弟を装いながら、レイルが懐からごそごそとケースを取り出した。実際は収納魔法が使えるから、レイルの収納から出たのだろう。服の中にしまうのは無理がある大きさのケースを開いた。中には毒と薬が大量に並んでいる。


 あれだ。試験管の小さいのをイメージすると近い。あれがびっしりとケース内に並んでおり、模様みたいな記号が記されていた。万が一の場合に悪用されないため、彼は常に暗号を使用する。幸いオレは弟子だから意味がわかるけど……。


 恐怖のすし詰め教育の中に含まれていた毒の授業は、こんな場面で役立つ。まあ皇帝陛下の毒見役をするために必要だった知識と実践が、王族になったせいで最重要にランクアップ中だった。


「いかがなされましたか?」


 乾杯が終わると、貴族達はある程度自由に動けるようになる。リアムの護衛をクリスに任せ、シフェルがメッツァラ公爵家当主として顔を出した。普段の騎士服ではなく、中世のお貴族様のふりふり衣装だ。なんだこれ、顔がいいと似合うな。コスプレみたいと笑ってやるつもりだったのに。


 ぐったりしたフリで兄に寄り掛かりながら、心の中で悪態をつく。そんなオレの目が潤んで頬が赤いのは、多少なり服毒した影響だろう。熱がある子供みたいだ。うるうると無力な子供じみた態度で黒豹に跨るオレの頭は、シンの腕にがっちりホールドされていた。


 そのままだと首が締まるから、ちょっと緩めて欲しい。


「口先で祝福を述べながら他国の王族に毒を盛るのが、この国の作法か」


 怒鳴らず、激高せず、静かに淡々と口にされた言葉の威力は大きかった。しんと静まり返った夜会の広間で、レイルが毒消しを調合する音だけが響く。


「キヨ、あーん」


「……苦い?」


「チッ、わかったよ」


 舌打ちされたが、子供っぽく無邪気に装うオレの意図に気づいて何やら足した。多分、味はもっとひどくなったと思うけど、見た目は甘いフリして飲まないと作戦通りにならない。覚悟を決めて今度は口を開けて素直に飲んだ。


「甘い!」


 まさか、本当に甘くしたとは……。嫌がらせで苦いと思ったのに、甘かったので肩透かしを食った感じ。神妙な顔を作って「してやったり」と声にせず呟くレイルの性格は、どこまでも歪んでると思う。オレといい勝負だった。


「……毒、と?」


 リアムの掠れた声に、慌てたオレが視線を合わせる。大丈夫だと必死に訴えるが、彼女の顔色は真っ白だった。青を通り越して血の気が失せている。指が震えるほど強く握った玉座の肘掛けが、わずかに音を立てた。


「メッツァラ公爵」


「はっ」


「犯人を必ず捕らえよ。賓客に対し毒を盛る者は、我が国に不要。見つけ次第の処刑を許可する」


 え? 思ったより騒動が大きくなったんですが……オレ、やり過ぎた!? ざわつく貴族の中にも動揺が広がっていく。この場で押さえないと明日には国中知ってる騒ぎになるだろう。さすがにヒジリに乗ったままは失礼にあたるので、声をかけるために飛び降りる。


 がくりと足が膝から崩れて、転がるように地面に手をついた。


「ってぇ……」


 眦に涙が滲む。ついでに太腿のところに血も滲んだ。ごめんね、お兄ちゃん。服汚しちゃった……けど、監禁ルートはなしでお願いします。


「キヨ、お前はケガ人なのだから、無理をしてはいけない」


 言い聞かせる口調で、膝をついて抱き起したシンに礼を言って立ち上がる。さっきの甘い煙草のせいで痛みが鈍かったけど、飛び降りたせいで滅茶苦茶痛い。失敗した。そうだよ、少し切るだけでいいんじゃないかと話した際に、ヒジリに治癒してもらえば良かった。


 さすがに痛いからって、この場で服を捲って素足を出すわけに行かない。順番もやり方もかなり間違った。がくりと項垂れて、自業自得の痛みを受け入れる。


「夜会は中止……」


「ダメです!」


 無礼を承知で、リアムの決断を遮った。こうなったら足が痛いのも最大限利用して、同情を引きまくって、可哀そうな犠牲者を装ってやる。加害者が予想したより酷い状態になったと見せつけ、処刑される前に名乗り出て恩情を願うよう仕向けるしかなかった。


 正直、収集つかないじゃん。多少サバゲーやゲームの知識でチートしたって、現実のやり取りの中じゃ想定外もあるし、敵が思うように動かない場面もある。オレの浅知恵程度、ボロが出て当然だった。ならば、ボロも繕ってみせましょう。


「その決断はお待ちください」


 きちんと言い直したオレは、崩れそうな膝からわざと力を抜いて床に座り込んだ。

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