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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第22章 まさかのヤンデレ属性

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134.秘密の裏には何もなかった

 王族用の控室は広くて立派な家具が並んでいた。元庶民のオレとしては、たじろぐところなのだが……兄シンはソファに陣取り、横を叩いてオレを呼ぶ。一人掛けのソファがあるのに、離れた場所の長椅子に寝転がるレイルは「皺にするな」とシンに注意を受けた。


「へえへえ」


 文句たらたらの返事で、服を直して……また寝転がる。ひとつ欠伸をして腕を枕に寝ようとするレイルに、オレは時間を確認してから声をかけた。


「レイルは北の王族なのに、どうして情報屋してたんだ?」


 普通に考えて、王族は特権階級だ。底辺で差別される傭兵に分類されることはない。


「うーん。簡単に説明するから、変な同情するなよ」


「わかった」


 同情する気はないが、事情は知っておきたい。変な横槍で嘘吹きこまれても困るし。今後の信頼関係に必要だと思うんだ。ヒジリの背から、兄の隣に移動しながら頷いた。


「いいのか? レイル」


「しょうがねえだろ。一応これでも親戚になるんだから」


 服の胸元に隠していた煙草を取り出し、レイルは慣れた所作で火をつけた。指先で火をつけるの、魔法だけどカッコいいな。煙草は好きじゃないが、今の動きは憧れる。足元でヒジリが丸くなった。その上に足を置くと、足首を噛まれる。


「いてっ」


 すぐに舐めて癒されるが、なんだろう……このドM調教みたいな状況。噛まれるのは誉れだと言われたが、絶対に嘘だよな。異世界人を揶揄っただけだと言ってくれ。ジト目で見ているオレの視線をスルーして、ヒジリは足を離して眠り始める。


 黒い艶がある毛皮の上に、白いチビドラゴンと赤いミニチュア龍が出てきた。一緒に夜会に出る意思表示らしい。ブラウは相変わらずマイペースで、行方不明だった。


「おれは王弟の子で、ほかに妹が1人いた。母親は3つ下の妹を生んですぐに死んだから、顔もぼんやりとしか覚えてない。北の王族は荒れてただろ? おれが8歳の頃、父親が貴族達に担ぎ出され旗印にされたんだ。国王である伯父に処刑され、その際におれは幽閉された」


 他人の事情を語る冷めた口調が、どこか切ない。母を失い、父が処刑され、自分は幽閉された。あれ? 妹は……。


「妹はまだ5歳だったが……運が悪いことに流行り病で死んだらしい」


 これは幽閉されて人づてに聞いたのだろう。悲しそうに目を伏せたシンは、隣に座ったオレの髪を撫でる。逆の手でオレの肩をしっかり掴んでいた。痛いほどじゃないが、固定するように掴むのは……きっと振り向かせたくないんだ。レイルの顔を見せたくないのだと思う。


 泣いてる感じじゃない、乾いた声は耳じゃなく心に突き刺さった。


 反逆の旗頭にされたなら、父親の処刑は仕方ない。その息子も担ぎ出されないように、国王は手を打ったのだろう。幽閉という形で、レイルの命を守ったのだ。恨まれることは承知の上で、それでも親族を生かそうとした。レイルも一緒に処刑した方が楽なのに、国王は殺さない選択を貫いたのだ。


「孤児になったおれは、いろいろあって傭兵になった。そこで差別に抗わず受け入れる連中に嫌気がさして……情報屋として独立したってワケだ」


 省かれた「いろいろあって」の部分で、シンの手に力が入った。見上げた兄の顔は青ざめていて、多分だけど……幽閉先から逃がしたのはシンなんじゃないか? そう直感した。


 また貴族に利用されて、従兄弟が死ぬのを見たくないから逃がしたのに、その先で彼が苦労して(すさ)んでいったのを知り、シンは後悔したんだろう。


 でもさ、多分だけど……本当に勝手な想像だけど。国王が命じて幽閉した罪人が、そう簡単に逃げられるわけがない。逃がそうとした息子を、国王はわざと見逃した、そんな気がする。貴族の手前、許すことは出来ないが見逃すことは出来た。そう思うと、会う前から父王に好印象を抱きそうだ。


「わかった。話してくれてありがとう」


 情報屋として独立したレイルが成功したのも、陰からあれこれ支援した人がいたんじゃないか。彼の努力はもちろんだけど、孤児の傭兵なんて最底辺からのし上がるには、何らかのコネや繋がりがあったはず。王族の秘密だけでも、十分商品価値があるだろう。


 したたかに生き延びた友人は、吸い終えた煙草を灰皿に押し付けた。少し離れた場所で居心地悪そうにするシンは、ちらちらとレイルに視線を向ける。何か言いたくて、でも言葉を飲み込む感じ。


「シン……お兄ちゃん、レイルに話があるんじゃない?」


 名を呼んだら悲しそうな顔で振り向かれたので、お兄ちゃんと呼んでおく。大きく頷いたシンは、ようやく切っ掛けを掴んだらしい。大きく息を吸って口を開いた。


「父上を許して欲しい、とは言えないが……私はお前の味方でいたい」


 味方でいると言い切らない誠実さに、オレは頬を緩めた。王族であり、これから王位につく人間だから、親の代と同じ事件が起きたらレイルを断罪しなくてはならない。それはオレが相手でも同じだった。反逆の証拠が出てしまったら、国王として国を守るために断罪するのが役目だ。


 だが信じたいと思うし、味方でいたいと口にするのは精一杯の歩み寄りだった。


「わかってる。おれだって昔のままじゃないさ」


 苦笑いしたレイルが新たな煙草を咥える。今のやり取りで、やっぱり逃したのはシンで、その時に何か傷つける言葉を吐いたレイルが後悔しているのもわかった。こういう察しの良さは、空気を読むことに長けた日本人特有の能力だろう。コミュ障の引きこもりかけであっても、日本人の端くれだった。


「ねえ、レイル。妹って可愛かった?」


「あん? そうだな、可愛かったぞ。赤毛でおれと同じ薄い水色の目が大きくて……」


「会いたかったな〜、可愛がる自信あるぞ」


 雑談に空気を読まない話題をわざと出す。普通死んだと聞いた子の話を切り出したりしないけど、レイルにとってもう傷口じゃない。さっきのシンに対する受け答えで、オレはそう判断した。無理に話題を避けるのは、逆にレイルの気持ちを遠ざけるんじゃないか。


 本人は痛みもない傷痕を、いつまでも加害者が気に病んだら。オレがレイルの立場なら、傷を見せないよう振る舞う。それが壁を作って距離になる気がした。だから今のうちに傷痕を笑い飛ばした方がいいんだ。一度はレイルに拒絶された恐怖を知ってるから、オレはこの場で空気を読まない。


「……お前の方が年下だから、可愛がられる方だろ」


「ん?」


「死んだのが5歳、おれの3つ下だから……今のお前より10歳は上だ」


 指を折って数えてみる。オレが12歳、10歳上ならレイルの妹は、22歳と想定される。レイルが妹より3つ上で……あれ?


「レイルって25なの?」


「知らなかったのか」


 仲が良さそうだから知ってると思ったとシンが呟く。他の傭兵が生まれた年も「たぶん」と推定するくらい詳細不明なので、孤児だと言われたら年齢は詮索しなかった。レイルに関しても孤児で傭兵上がりのレッテルで、年や生まれた国を尋ねたことがない。それを説明すると、シンは穏やかな表情で笑った。


「そうか。キヨは本当に聡いのだな」


 えらく勘違い気味に、好印象に受け止められた。ついでなので、年齢の話を持ち出しておく。


「シンはいくつ?」


「27だ。弟はいないが、レイルと同じ25歳の妹がいるぞ」


「へえ」


 竜以外の属性は普通に年を取るが、寿命の数え方に違いはある。しかし明らかに長寿なのは、竜属性だけだと学んだ。この世界でオレに竜属性、それも最強種の赤瞳が与えられたってことは――カミサマはそう簡単にオレを休ませてくれる気はない。つまり、この世界は崩壊寸前のぎりぎり状態だって意味か。


 長く生きて世界を救え、そのための力は与えておいた。カミサマの気持ちを代弁すると、多分こんな感じだろう。


「ちなみに、父は45歳だ」


「へ……ええええ?! 17で子供作ったの?!」


「キヨは計算が早いな」


 ぽんぽんと頭を撫でて褒めてくれる兄には悪いが、国王様ってずいぶん手が早い……げふん。早熟なんですね。前の世界で死ぬまで童貞だったオレとしては、羨まし……けほっ。いや、なんでもない。


 げらげら笑いながら煙草を灰皿に押し付けるレイルから、特有の甘い香りがする。この雰囲気がどことなく居心地がよくて、オレはほっとした。秘密なんて互いに消してしまえば裏には何も残らない。隠すから壁が出来てしまう。前の世界で学んだ数少ない教訓が役立ってよかったよ、ホント。

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