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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第22章 まさかのヤンデレ属性

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133.策略塗れの黒い弟ですまん

 慌ただしく着替えて、呼びに来た侍従の後を付いていく。敗戦国の王族であるシンがここまで厚遇なのは、オレが褒美を願い出た他にも理由があった。レイルの情報操作だ。従兄弟であるシンを助ける目的もあるが、北の国が中央の国に併合されるとパワーバランスが崩れる。


 世界は5つの国でバランスを取っていた。そして世界を保護する聖獣の数も5匹――つまり、世界の調和を取る数字が5であり、それを壊すといろいろ支障があるらしい。過去の教訓として歴史に学んだ(てい)になっているが、要はカミサマの決めたルールだ。


 カミサマにとって大事なゲーム盤である世界は、異世界から助っ人を呼ぶほど酷い状態だった。最大の領土を持つ中央の国は皇族が皇帝一人を除き全滅。貴族がのさばり、皇族を蔑ろにする事態となった。北の国も似たような状況で、理を重んじる北の王族が貴族の圧力に屈する有様だ。


 感情で動く西の国は、自治領の身勝手さを王族が後押しする始末で……中央の国の属国となった。これはまあ……皇帝陛下の誘拐を企てた以上、当たり前の結果だ。


 直接かかわりのない東の国は南の国を徐々に侵食し、領土を広げていた。南の国が受けて立ち、今は2国間の領土争いが激しさを増している。国の規模も兵力も大差ないため、消耗戦の様相を呈しており……このままいくと別の国に漁夫の利を狙われるだろう。


 狙いに行くとしたら、魚をくわえるのは中央の国になる。今まで彼らが無事だったのは、リアムを守るシフェル達が、後門の狼を警戒して動けなかったせいだ。貴族の争いが激しい宮廷内にリアムを残して出陣し、戻ったら皇帝陛下が傀儡になっていたら目も当てられない。


 他国を攻めている場合じゃなかった。だから東と南の国は放置されてきたが、今後は展開が変わるだろう。遊撃隊である傭兵を指揮するオレがリアムの味方であり、聖獣と契約した実力者なのだ。ドラゴン殺しの異名を持ち、二つ名も……不本意で厨二っぽいが頂いた。


 オレが東の国、シフェルが南の国を同時に攻めたとしても、聖獣を1匹リアムの護衛に残したら用が足りる。リアムを守りながら他国を攻める体制が整うのだ。


 すたすた歩きながら、隣のシンを見上げる。彼の立場は揺るがないものとしなければならない。北の王族として、中央の国の皇帝にオレを嫁がせ……ん? オレが婿か。まあいい。とにかくオレとリアムの婚約を成立させて、北の国の立場を明確にする。


 他国との婚姻は北の国の安定に欠かせない。自国の有力貴族がのきなみ戦死した現状、王太子が捕まり次の王子がいないのだから、何としても国に帰り王様になってもらう必要があった。


 義理の父になる国王陛下はまだ顔も知らないが、問題ない。中央の国の公爵家と皇帝陛下の後見付き、聖獣付き、ドラゴン殺しの英雄様だ。受け入れないなら退位していただくまでだ。悪だくみの笑みを浮かべたオレのおでこを、レイルがぱちんと指ではじいた。


「いてっ」


「悪い顔してんじゃねえよ。北の国の品位が疑われっだろうが」


「……お前の口の悪さも何とかしろ」


 レイルに文句を言いながら、オレのおでこを撫でてくれるシンに「痛かった、お兄ちゃん」と甘えてみる。真っ赤な顔で口元を押さえる兄よ、鼻血が垂れてるぞ。ポケットから取り出したハンカチを渡せば、慌てて血を拭った。


「怖い奴、マジ怖いわ」


 レイルの鼻にシワが寄る。べっと舌先を見せて、シンの隣に並んだ。そっと手を握ってみる。すぐに握り返す兄は、もう鼻血出した変態の欠片もなく笑顔だった。


 うん、弟って立場も悪くない。一方的に庇護されて許される経験なんて、まったく記憶になかった。幼い頃は両親が甘やかしたんだろう。それが長男の特権だと思うが……残念ながら記憶に残っているのは、弟妹が甘やかされる姿だけ。これはどの家庭でも同じだけど。


 せっかく子供の身体に戻ったんだから、甘やかされて幸せに浸る時間も欲しい。この世界に突然きたオレだが、世界のバランスを取って戦う存在オンリーじゃないと思いたかった。


 カミサマがどこまで考えたか知らないが、子供の外見で放り出したんだから、オレが子供返りするのも想定内だろ?


「キヨ、もう一度お兄ちゃんって呼んでくれ」


「うん、お兄ちゃん」


 素直に呼んでやれば、こっちが引くほど喜んでいる。繋いだ手を振りながら歩く。後ろで大笑いしているレイルに関しては、あとで締めればいいや。


「ところで、準備はしたがどうする?」


 今日の夜会で仕掛けるか? そう問われたオレは一瞬で感情を切り替えた。甘えるのはいつでもできる。レイルはにやにや笑いながら、民族衣装の襟を弄っていた。


 瞳の色に合わせた薄水色の絹に、銀の刺繍が施された漢服は、裾に向かって濃色になる。見事なグラデーションの帯は黒だった。赤い髪とバランス悪そうなのに、意外と悪くない。色合わせなのか、瑠璃が連なる耳飾りがぶら下がっていた。ピアスとは別につけたのか。雫型の飾りがしゃらんと音を立てた。


「オレは仕掛ける気はないけど、向こうはどうかな〜」


 思わず見惚れた自分が悔しい。繋いだ手にぎゅっと力を込められる。オレに合わせたシンは抹茶に似た渋い色の服だった。赤やオレンジと金糸で龍が刺繍されている。身体に巻きつく形で、肩から胸に頭が描かれていた。中華風の龍は、聖獣コウコがモデルだろう。


 そういや、北の国の聖獣だったな。ヒジリが西? あれ、ブラウも西にいたぞ。北との国境にいたスノーに関しては、元は東に住んでいたらしい。あのドラゴンに喰われた際、勝手に奴が他の聖獣の気配に惹かれて移動した結果だ。


「ヒジリ、ちょっといいか?」


『構わぬぞ、主殿』


 のそりと影から出てきた黒豹に、案内役の侍従が悲鳴を上げた。


「聖獣だから気にしないで」


 笑顔でヒジリを抱き寄せて撫でると、手が離れたシンが残念そうな顔をした。侍従はなんとか頷くと後ろを見ないよう歩き出す。慣れたヒジリの背に乗った。出会った頃に喰われると思って逃げまわったのが嘘みたいだ。今は安心できる。首の辺りをわしゃわしゃ撫でて声をかけた。


「コウコは北、スノーが東だよな。ブラウとヒジリはどっちが西?」


『西は青猫だ。我は本来は中央よ』


「うん? なんで西にいたのさ」


 西の自治領で逃げ回った時に、追いかけまわされたんだぞ。自治領は元々中央の国だったとか、そんなオチか? ユハが西の聖獣だと思ってたってことは、西に長くいたんだよな?


『主殿は知らぬ方がよい』


「……じゃあ聞かない」


 この国であった出来事が、ヒジリの琴線に触れたのだろう。本人が話したくないなら、無理やり聞いても仕方ない。命じれば教えてくれるけど、オレはそんな傲慢な権利の行使はしたくなかった。信頼がもっと深まれば、またはヒジリの気持ちの整理がつけば話してくれるさ。


「それでいいのか? おまえ、やっぱり変わってるな」


 レイルが面白そうに呟く声に、疑問と一緒に何かが混じっていた。オレが知らない感情なのか、何かはわからないけど。答えは決まっていた。


「オレが頼りない主人だからしょうがない。ヒジリがまだ心に何かしこりを持つなら、それが溶けるまで聞く必要はない。そういうのが信頼関係じゃね? 今のオレに必要ない話なんだよ。もし必要なのにヒジリが言わないなら、それは主人失格の証として受け止めるよ」


「大人すぎて可哀想になる」


 泣きそうな顔で、白金の髪を撫でたシンが漏らした声は、本当に泣いているのかと思った。見上げても眉尻を下げて泣き笑いの顔で、でも泣いていない。


「こちらです」


 震える声で侍従に示された控え室に入る。廊下で随分と物騒な話をしていたが、あの侍従が漏らしたりしないだろうな。じっと見つめるオレの視線に気づいて振り返った侍従は、ヒジリの金瞳に睨まれて悲鳴をあげた。


「口止め、必要かな」


『我がやろうぞ』


「わ、私は何も聞いておりません! 本当です!」


 転びそうになりながら礼をして逃げ出す後ろ姿へ止めを差した。


「聖獣は影の中ならどこでも移動できるから……足元に、気をつけてね」


 ひいいい! 転がるような後ろ姿を見送り、控え室のドアを閉めた。顔を見合わせて、3人と1匹で忍び笑う。性格の悪い弟でごめんな、お兄ちゃん。

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