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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第20章 権力者の妻を舐めるなよ!?

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123.舌戦は低レベルなほどダメージ大(2)

 いい加減、限界なのだ。この国の腐った特権階級は、崩壊寸前だった。あれだ、フランス革命前夜の退廃した雰囲気。日本史はあまり詳しくないが、世界史はまあまあ得意なんだよ。お陰で西洋っぽいこの国の感じもぼんやり掴める。


 爵位は公侯伯子男(こうこうはくしだん)――習った順番で行くと、このふんぞり返った男は上位の公爵か侯爵あたり。シフェルが特に注意勧告しなかったから、アイツより下……侯爵か。


 力を持ちすぎる宰相には、公爵家は就けない決まりがあるらしい。過去の皇家の方々が決めた細かな決まりが、崩壊しかけたこの身分制度をぎりぎりでもたせていた。ウルスラが侯爵なのは、この決まりの所為だ。そうでなければ、シフェルの兄が宰相だっただろう。


 裏を返すと、目の前のおっさんは侯爵(たぶん?)家に生まれただけの無能者だ。優秀なら宰相に上り詰めたはずだからな。貴族ってのは、よほどのポカやらかさないと降格はない。無能でも家格の維持は可能だった。


「……っ、貴様のようなガキが」


「うーん、ところでおっさん……いい加減名乗ったら? オレ、この宮殿来て日が浅いから……()()()()()()()覚えてないんだよ」


 そう言いながら、近くを通った年老いた執事さんに手を振る。彼も小さく振り返してくれた。この宮殿の執事や侍女は本当に礼儀正しくて、オレとしては変な貴族より好感度が高い。


「セバスさんと違って、おっさんは初対面じゃん」


 にこにこしながら、煽る為に執事の名を出す。分かりやすく不機嫌になった男が口を開いた。


「なんだ、セバスというのは」


「え? 知らないの? ああ、そうか。皇帝陛下であるリアムの近くに寄れないんだもんね。ごめん、リアムと親しい人は全員知ってると思ってた。リアムの専属執事の名前」


「執事風情と我が名を同列にするか!?」


「いや、本当だよな。だってさ、あんたの名前を覚えてオレに利益ある? セバスさんはご飯やお茶の手配してくれるし、いつもリアムの隣にいるからオレにとって、優しいお爺ちゃんって感じだもん。あんたを覚えても役立たないし、無駄だよね」


 同意するフリして、相手を徹底的にこき下ろす。悪いが半分以上は本音だ。隠す余地のない本音に、通りがかった男性が吹き出した。すぐに表情を取り繕うが、書類を大量に抱えた文官さんに見覚えがある。


「リサリスさん、書類大変だね。お疲れ様」


 笑顔で見送ると、彼も作った笑みを崩して微笑んだ。手がふさがってるが、指先をちらちらと動かして挨拶してくれる。とばっちりを避けるため、彼は足早に離れていく。あとで焼き菓子を分けてやろう。ナイスタイミングで通り掛ったお礼だ。


 豪華な宮殿の入り口付近は、様々な階級の人が通る。執事や侍女はもちろん、出仕した貴族や騎士も含めれば、そうとうな数の人間が行き来した。そんな衆目の中で、侯爵位(かな?)の貴族が、黒豹に乗った子供の安い挑発でやり込められてるのは、いい笑い物だ。


「こっちへこい」


「え、やだ」


 人目が多すぎることに気づいた男の誘導に、首を横に振った。大人しくしているヒジリがちらりと顔を見て、のったりと尻尾を振る。首の裏を撫でてやり、オレは男の次の一手を待った。さあ、餌をたくさん撒いたんだから、食いついてこい。


「オレはリアムに会いに来たんだぞ。邪魔する権限があるの? あんた、そんなに偉いわけ? それと、『知らない()()()について行っちゃいけません』って教育されてるからさ。悪いね」


 ひらひら手を振って背を向ける。怒りが頂点に達して言葉も出ず、真っ赤な顔でぶるぶる震えるおっさんを置き去りに、ヒジリがすたすた歩きだした。ぐるぐる喉が鳴っているのは猫科がご機嫌な証拠。どうやら無礼なおっさんをやり込めたのが気に入ったらしい。


 さすがはオレの聖獣様だ。


「待て! 貴様、このままで済むと思うなよ!!」


「あ、悪役の捨て台詞だ」


 取り繕うことなく本音が漏れた。いやぁ、本当に使う奴がいるんだな。驚きすぎて、考えを纏める前に口から零れ出てしまったじゃないか。


「このくそがき……っ!!」


 攻撃を仕掛ける男の手を、オレはそのまま見逃した。ここは一発だけ殴られて、加害者をぎゃふんと……そんなつもりでいたら、シフェルが邪魔をする。振り翳した拳を受け止めたシフェルが、淡々と話をぶった切った。


「その辺にしなさい、キヨ。陛下がお呼びです、遅れるわけにいきませんよ」


 行儀悪いのを承知で舌打ちしてしまう。ヒジリに手出しを禁じておいたのに、こいつが手出しするとは。オレが危害を加えられても助けに入らないと思っていた。油断大敵って、この場面でも使えるんだろうか。


 オレが身分差を利用して相手に手を出させる作戦だって、理解してるくせに邪魔するなんて。意外とあのおっさんは大物だったってこと? 今はまだ手を出すな、とか。


「わかった」


 むすっとわかりやすく唇を尖らせて、不満を表明する。殴られたら伝家の宝刀を抜いてやろうと考えていたため、どうしても不満が顔に出た。さすがに名乗らないおっさんも諦めたらしく、いつの間にか消えている。


 並んで歩きながら「邪魔するなら連絡しなきゃよかった」とぼやく。危害を加えられた明確な証拠を元に、やっつけるつもりで人通りが多い場所を選んだのに台無しだ。


 ブロンズ色の髪をかき上げ、苦笑いしたシフェルが少し身を屈めた。足がつかないほど大きい黒豹の背に乗っても、オレが小さすぎるらしい。


「……この後、最高の舞台を陛下が用意してくれるそうですよ」


「ん? リアムが?」


 用意してくれる……そこで気づいて笑ったオレの顔は、わかりやすく悪徳代官だったらしい。黒い悪だくみを匂わせる笑みに、シフェルが肩を竦めて姿勢を正した。


「そういうわけですから、()()()()()()()してくださいね」


 先ほどの小声でのささやきが聞こえない周囲は、ヤンチャが過ぎたオレが叱られ中に見えただろう。しかしこの場で一番悪い企みを楽しんでいるのは、絶対にオレだ。


「うん。リアムのために我慢する」


 そうだよな、折角の舞台だ。用意してくれた恋人に、最高の演技を見せたいじゃないか。これはもっと作戦を練って、おっさんをやり込める語彙力を増強しておかなくては。昔から勉強嫌いだったので、国語は苦手だが、オレはやれば出来る子である。


 無理だと思った指揮官も、ドラゴン退治も、なんだかんだ片づけてきた。過去は自信を大きく育てて、肥大させている。それにふさわしい準備もした。


「それにしても……随分低レベルの言い争いでしたね」


 どこから聞いていたのか尋ねれば、最初からだと言う。途中で助けずに見てるあたり、いい根性してる奴だ。まあ、邪魔されずに煽れたので、リアムの用意した舞台で踊って派手に転んでもらおうか。足を縺れさせ踊れなくなる無様を見せつけ敵をけん制するのは、宮廷内で有効な手段だった。


 オレが読んだ「ざまぁ」系の知識を総動員してやる。当時は現実逃避で読んでいた本だが、何事も無駄な知識はない。


「オレは子供だからいいけど、今夜はあのおっさん寝られないだろうな……悔しくて。子供と同レベルの会話でやり込められたわけだし?」


 にやりと笑ってシフェルを見上げる。ご機嫌で尻尾を振るヒジリがようやく口を開いた。


『我は主殿が誇らしかったぞ。さすがは聖獣の主だけのことはある』


「ありがとう。そういう褒めて育てるヒジリの優しいとこ、大好き~」


 首に抱き着いて頬ずりしていると、上から呆れ声が降ってきた。


「確かに彼は眠れないでしょうね。こんな腹黒の子供に言い負かされるなど、屈辱で(はらわた)が煮えくり返る思いですよ」


 リアムの部屋に着くまでの廊下で教えてもらった知識は、おっさんの地位や派閥に関するものだった。意外と大きな派閥の2番手なのだという。元派閥の長がシフェルのお兄さんなので、現在は彼が事実上のトップだった。人前で恥をかかされて、我慢できるわけがない。


 侯爵家当主の面子はもちろん、派閥のトップとして傷つけられた誇りを取り戻そうと口撃(こうげき)してくるはずだ。にこにこ笑いながら聞くオレに、シフェルは苦笑いして髪をくしゃりと撫でた。


「あまり無茶はしないでくださいね。庇いきれなくなります」


「うん、わかった」


 お返事だけは優等生で応じた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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