123.舌戦は低レベルなほどダメージ大(1)
新年あけまして おめでとうございます(o´-ω-)o)ペコッ
ライアンがもたらした情報を整理し、手元にある情報と合わせる。レイルが持ち込んだ話は貴族側の事情、ライアンが知ってた話は狙撃手側の知識だった。
オレを狙ったのは、この国では有名な狙撃手だった。人間相手に一流でも、神出鬼没の聖獣に勝てるわけがない。その男がしくじって排除されたとなれば、貴族は別の手を使ってくるだろう。実力行使が無理なら、次は権力や身分を振りかざす。これならば傭兵に守られるオレを、吊し上げの舞台に引っ張り出せた。
皇帝陛下のお気に入りであっても、気づかれる前に殺せばいい。不敬罪を含め身分制度を利用する彼らは、多彩な手段を持っていた。死体にしてしまえば、後の言い訳は彼らの独壇場だ。口先三寸で地位を守ってきた連中に、オレは最低の無礼なクソガキとして語られるだけ。名誉を挽回する方法はない。
英雄はひとつの称号であり地位だが、貴族制度の上にたつものでなかった。この辺はシフェルに確認済みなので間違いない。
聖獣の身分は皇帝の上らしいが、オレ自身は身分のない異世界人だった。そこを突いてくるのはわかりきった未来――ならば、手を拱いて罠にハマる理由はなかった。
「シフェルにこれ届けて」
スノーを伝書鳩ならぬ伝書ドラゴンとして活用する。手紙を書いて託し、もう1通をウルスラに届けるようコウコにお願いした。ブラウはぐてんと寝転がっている。
「ヒジリ、護衛をお願いしていいか」
珍しいオレの言葉に、ぶんと大きく尻尾が揺れた。食堂のテーブルにいたので、周囲の傭兵達がざわつく。食後のお茶をゆっくり楽しむジークムンドが声をかけてきた。
「どうした? 危険なのか」
言外にこの建物内なら守ってやれると匂わせるゴツいが人のいい男へ、にっこりと子供らしい満面の笑みを向けた。
「うん。すっごく危険、相手がね」
「なるほど、やり過ぎるなよ」
オレのやる気を尊重して引いてくれる。こういうところが、本当に大人なんだよ。ノアはオカンだから心配性だけど、ジークムンドやジャックはオレがやらかす騒動を楽しむ感覚が強かった。見守ってくれて、本当に危ない時だけ助けてくれる父親や兄のような感じだ。どっちも有難い。
『主殿は我が守る』
意気込んでるとこ悪いが、あまり守りすぎても予定が崩れてしまう。黒い毛皮を丁寧に撫でながら、抱きついた。
耳元でこっそり囁く。
「貴族があれこれ言ってきても、口を挟まないでね。オレが負けそうでも、絶対だ」
むっと不満そうな顔をするヒジリだが、何か気づいたらしい。
『なるほど……それゆえの褒美か』
「そういうこと。強請る理由と価値がある褒美のお陰で、今のオレは本当に無敵だから」
ぽんとヒジリの体を叩いて身を起こすと、ちょうどスノーが戻ってきた。返信を預かったというので受け取り、読んですぐに手の中で燃やす。
魔法使いっぽくてカッコいいから試したが、事故だと勘違いされ焦ったジャックにお茶を掛けられた。うん、カッコつかないところがオレらしいよな。お笑いみたいだもん。
『青猫はどうする』
ごろごろ寝転がるブラウを睨むヒジリの喉を撫でながら、肩を竦めて答える。
「余剰戦力? どうせ気になれば勝手に参戦するだろ」
『主殿は青猫に甘い』
むっとした口調で抗議する黒豹に、くすくす笑いながら教えてやった。
「聖獣ランク不動の1位はヒジリだぞ。オレの名を持つのも、ヒジリだけだ」
聖仁――この漢字から一字を取って、オレと同じ文字を持つ聖獣はヒジリだけ。満足したのか、ヒジリはそれ以上何も言わなかった。ただ機嫌の良さを示す尻尾が大きく左右に揺られる。
シフェルからの返事は来た。準備は出来ている。あとはオレの覚悟だけだ。勝つための手は考えたが、ぴたりとハマってくれるかどうか。相手の出方次第だった。
『主人、これを預かったわ』
コウコも戻ってくる。シフェルの簡潔な返事と違い、少し長い文章だった。それも読んだら燃やそうと思ったが、またお茶が飛んできそうだ。仕方なく収納空間へ放り込んだ。
よく悪人が書類や手紙を残してて、あとで証拠として回収されてピンチになる。あれほど間抜けな状況はない。脅しに使うんならともかく、そうでなければ復元できない形で処分するべきだった。燃やしたのも、収納空間へ入れたのもそれが理由だ。
「ちょっと宮殿に行ってくるね」
ちょっと行く場所ではないが、傭兵達は頷いた。オレが皇帝陛下の同性の愛人(?)だと勘違いしているため、特に心配したり疑問に思うことはない。騙すようで申し訳ないが、身分を盾にする戦場へ彼らを連れて行けなかった。
宮殿に入ると、視線が集まる。黒豹に跨った子供は目立つし、一応『ドラゴン殺しの英雄』で『皇帝陛下のお気に入り』だ。しかも外見は整ってるので、注目されない要素がなかった。
すたすたと歩くヒジリの足取りに迷いはない。皇帝陛下の私室方向へ進んでいた。あれれ? 誰も仕掛けてこないぞ。今日はいると聞いたのに……顔に出さないよう気をつけながら慌てていた。
ここまで周到に下準備して空振りとか、カッコ悪いんですけど?!
オレの呼びかけに応えたのか、ある貴族が目の前に立ちはだかった。
「英雄殿、陛下は現在来客中だ。控えてもらおう」
「……ふーん。リアムはいつ来てもいいって言ったけど」
わざと煽る口調で首をかしげる。皇帝の言葉とお前の嫉妬混じりの嫌味、どっちが優先するのかな? そんな馬鹿にしたオレの態度に、簡単に男は引っ掛かった。
「調子に乗るな。お前などすぐに飽きられる玩具だ。陛下の寵愛を得たわけではない」
まあ、そりゃそうでしょうよ。まだお互いに清い身の上ですから。保護者枠のシフェルが聞いたら呆れ返りそうな、頭の悪い発言にぷっと吹き出した。
「あれ? おじさん、嫉妬してるの?」
見た目は綺麗なガキだが、育ちも頭も悪そうだ。そう思っていたのに、意外と切り返す。オレの評価が少し変わったらしい。男は慎重に言葉を選び出した。
「嫉妬? 珍獣相手に嫉妬するほど落ちぶれていない」
……あれ、失敗かな?
「異世界人だからと不作法を甘く見てきたが、いつまでも続くと思うなよ」
あ、大丈夫だった。しっかり嫉妬してくれてる。あのまま帰られたら、わざわざ準備してきた甲斐がないからな。初老一歩手前くらいの男は、それなりに地位があるのだろう。フランス革命頃の衣装着て、胸元に洒落た宝石の飾りがついている。
「オレが不作法? ふーん、変なこと言うね。リアムとの食事会に、あんたが呼ばれたことないだろ」
親密な食事会に呼ばれない程度の付き合いで、オレにそんな口きくのやめた方がいいんじゃない? 言外に匂わせた嫌味を男は敏感に感じ取った。強く握りしめた拳が震えている。オレがずっと「皇帝陛下」ではなく「リアム」と呼ぶことも煽り効果が高かった。なぜなら、シフェルですら「陛下」と呼ぶのだから。
この世界で最大の国家である中央の国で、頂点に立つ皇帝を「愛称で呼ぶ唯一の異世界人」に逆らうか、触れずに無視するか、阿るか――ここが貴族である彼らの分岐点だった。シフェルやウルスラが今回の作戦を容認した理由がよくわかる。
先代、先々代と数を減らした皇家の血筋に、彼らは敬意を表していない。ただ皇帝という絶対的権力の象徴として見てきた。リアムの個人の意志なんて必要とされず、貴族に都合のいい飾り物扱いだ。宰相や近衛騎士団長がいくら庇っても、貴族は水面下で増長し続けた。
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