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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第20章 権力者の妻を舐めるなよ!?

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122.準備中も気を抜かないのが一流

 あまりにも平和に数週間が過ぎた。この世界に来てから、分単位のスケジュールで動いてた気がする。戦ったり誘拐されたりしないだけで、すごく平和だった。まあ、早朝の戦闘訓練やお勉強はあったのだが……生き残ってきた環境が厳しすぎて生温く感じる。


 欠伸をして、午後の昼寝を満喫する。庭の大木は根元まで芝が伸びて、気持ちよかった。そこで眠るつもりで腰掛けると、隣に現れたヒジリが背もたれのようにオレを毛皮で包む。チビドラゴンとミニチュア龍が腹の上に乗って、両手をそれぞれに奪って撫でさせた。


 木漏れ日が心地よい。うとうとするオレの足に、青猫が乗った。重いんだが絶妙な感じで痛くはない。ぎりぎりの重さはブラウなりの気遣いだろう。両手も足も動かせず毛皮に巻かれたオレは目を閉じ……ゆっくりと呼吸の回数を落とした。


 ざわざわと葉の擦れる音が響き、意識がどこまでも届く。感知能力が高いオレの周囲が半透明の立体となって、頭の中に構築された。これは北の王太子であるシンに教わった技術だ。彼の国は昔の日本に少し似ていて、陰陽師みたいな術が残っていた。


 王族に伝わる秘技らしいが、平安の陰陽師より平成の立体カーナビの方が近い。半透明の風景の中に、歩く人影がいくつか投影された。教わって数日は暴走して、トイレの中にいる奴をリアルに透視したり、連れ込んだ女とアレコレしてるところを覗いてしまったりした。加減が難しいのだ。


 最近は眠っていても術を操れるようになり、相手のプライベート空間に無断侵入する回数は減った。まあ相手は気づいていないのだけど、顔を合わせた時に恥ずかしいじゃないか。


 瞑想に近い精神状態で、刺々しい感覚に気づいて意識を向ける。近づいてそこをズームする感覚は、スマホを操るときと似ていた。指先でその部分をぐいっと広げて拡大するイメージだ。異世界の生活で使用した感覚は、膨大なイメージとなって残っている。


 異世界人がこの世界で強いのは、魔法をイメージで使うためだろう。イメージが豊富な異世界人は、この世界で不可能とされた事象や考えつかない状況を、非常識な魔法で打破してしまう。しかしその技術がこの世界に定着しないのは、イメージを明確に相手に残す方法がなかったと考えられた。


 だってスマホが存在しない世界で、相手に的確にスマホの使い方やアプリで出来ることを伝えるのは無理だ。同じ世界のお年寄りに説明するのだって難しいんだから。


 棘に似た違和感へ集中した意識へ、攻撃的な思考が突き刺さる。相手の考えを読むほど便利で万能じゃないが、強い感情は形や色となってオレに伝わることがあった。棘はオレを排除しようとしている。


「……ん」


 眠っている身体が殺気に反応してぴくりと動く。しかし指先にコウコが擦り寄り、声をかけた。


『主人、もうブラウが向かったわ』


 その言葉に口元が緩む。僅かな微笑みに、コウコは再び身を伏せた。重かった足からブラウが下りる。影になった左足にざわりと毛の感触が触れて、影に潜ったブラウが消えた。半透明の世界では追えている。すたすたと地上のように歩くブラウの位置は低かった。


 オレが知る知識に当てはめると、地下道を歩いてる感じだ。ただ真っすぐじゃなく、好き勝手に敵へ向かって最短距離を進んでいく。そしていきなり何もない場所から頭を出した。


 聖獣のこの影を渡るシステムは、ぜひ解明してみたいものだ。理由は簡単で、使ってみたいから。ヒジリの説明によると遠く離れた場所でも、一瞬で移動が可能だとか。もし使えるようになれば、某猫型ロボット並みの便利さだ。


 棘の生えた歪な球体を、ブラウの猫パンチが襲う。蹴飛ばして両足で潰し、最後に咥えて影の中に引きずり込んだ。この時点で犯人は死亡確定だ。死体以外は移動させられないと聞いたので、これは間違いない。


 距離が近づいたところで、欠伸をして身を起こした。両手に絡みついていたスノーとコウコがそれぞれ肩や腕にしがみ付く。彼らは重さを調整してるらしく、今までに重くて肩が凝ったことがないのはありがたかった。


 ずるりと人の手が現れ、その手に握られたライフルを先に拾った。ヒジリはちらりと目を開けたが、またすぐに伏せてしまう。ただ耳は動いているので、熟睡したわけじゃなさそうだ。警戒してくれるヒジリの頭を撫でて座り直した。


『僕は狩りの上手な猫だからね』


 得意げに捕まえた獲物を放り出す。猫が獲物を飼い主に差し出すのは(以下略)、まあ飼い主には無理だろうと同情した結果だという。このメンバーで最強はオレだと思うけどな? 何しろ異世界知識がチート過ぎた。それでも猫の顎の下を撫でて労うのは、実家で猫を飼ってたからだ。


 猫は意外と単純な思考をするので、褒められるとまた獲物を捕まえてくる。家に入り込むネズミを始末するため、何度も褒めて覚えさせた過程を思い出した。ブラウも躾ければ、オレの敵を狩るお利口さんになれるかも!


「上手に狩ったな」


 言葉にして褒めれば、不満そうにヒジリが唸る。得意げな顔で胸を反らす青猫が、ごそごそとオレの膝に乗ってきた。小型サイズなので問題はないが、絶対にヒジリを煽る目的だと思う。ところが予想外にも、スノーやコウコも煽られた。


『主様、私にも獲物を』


『狩りなら、あたくしだって』


「……なにこれ」


 頑張った子を褒めたら、別の子に噛みつかれました。物理じゃなくてよかったけど、コイツらの考えがイマイチ理解できない。楽して主と昼寝してたら、そっちの方がよくない? オレなら昼寝取るけど。


「わ、わかった。順番を決めよう。今回はブラウだったから、次はコウコ、スノー、ヒジリの順番で敵を狩る」


 気分は保育園の保父さんだった。幼い子供に言い聞かせ、遊ぶ玩具の順番を守らせるのは重要なお仕事です。ええ、そりゃー園児が世界を崩壊させられる実力者だった場合、ここで手を抜くと痛い目見るのはオレだ。


『いいわ、次はあたくしの実力を見せて差し上げてよ』


 嬉しそうに身をくねらせるコウコに対し、スノーは複雑そうな顔で呟いた。


『私が次じゃない理由をお伺いしても?』


「ん? 拾った順番だよ」


 なんとなくだったので、明確な理由はない。取ってつけた理由だが、スノーは納得してくれたらしい。だが今のセリフに引っ掛かった奴がいた。言わずと知れた黒豹様だ。ヒジリは1番手だったから、最後なのはむっとしたらしい。


「ヒジリ、真打は一番最後に登場するものだぞ」


 背中の毛皮に寝転がり、首を抱き寄せて囁く。それだけで機嫌が直った。ゆらゆら揺れる尻尾がその証拠だ。左右にゆったり揺れる黒い尻尾と、得意げに緩んだ口元。耳の付け根を掻いてやると、空いた手を齧られた。


 久しぶりの噛みつきだが、すぐにヒジリの唾液で治癒される。慣れてきたのか、前ほど痛くないのが複雑だった。オレ、M調教されてね? 


「いてっ」


 考え事をしていたら腕にコウコとスノーが噛みつき、じわりと赤い血が滲む。彼らに治癒はないので、ドヤ顔のヒジリが舐めてくれた。うう……涙出たからな、今のマジいたか……


「うぎゃああああ!」


 ブラウが遠慮なく牙を突き立て、にやりと笑う。叫んだ直後に噛まれた足を振って、青猫を遠くまで蹴り飛ばした。


『主のばかぁああああ……ぐはっ』


 叫びながら飛んで行った青猫が、腹から落ちた。べし、という奇妙な音が響いてブラウが動かなくなる。猫は身体が柔らかい動物だし、アイツは普通の猫じゃないから心配しない。つうか、オレの足! マジ痛いぞ。やや……じゃなくて、本気で痛いぞ!!


「ヒジリ、痛い。ヒジリぃ」


 鼻を啜りながら強請ると、ふふんと声が聞こえそうな黒豹が足を舐めてくれた。弁慶を齧るなんて悪魔か。青猫を少し見直した評価だが、一瞬でマイナス値になった。


「何かあったのか? キヨ」


 建物の2階からライアンが顔を見せる。隣の窓からサシャもこっちを見ていた。


「噛まれただけ」


 むっとしながら答えれば、彼らは苦笑いして部屋に引っ込んだ。よくある出来事と流されるのも切ないな。実際よくあるから文句言えないけど。


「これ、どうしようかな~」


 にこにこしながら死体を突いた。動かないのは先刻承知――奪ったライフルは物証となるので、レイルかシフェルに渡す必要がある。しかし死体の使い道はないので、うーんと唸って過去に呼んだ小説を思い出した。


 そうだよ、それがいい。にやりと笑ったオレの顔は、ヒジリ曰く『真っ黒な悪人顔』だったらしい。しょうがないだろ、黒いこと考えてるんだからさ。


「キヨ、その死体はどうした。それとライフル」


 言いながら近づいてきたのはライアンだった。上からのぞいた時に、握ったライフルに興味を持ったらしい。確かに戦う必要がない午後のお昼寝にライフルを持ってる子供なんて、彼の興味を引く要素満載だ。近づいてヒジリの手が届くぎりぎりの位置で止まった。


 動物に囲まれたオレは王子様……ならぬ、猛獣に味見で噛まれた小動物だろうか。御伽噺は程遠い状況なので、ライフルを魔法で浮遊させて彼に放り投げる。危なげなく受け取ったライアンは、どっかりと芝の上に腰を下ろした。


 銃火器に関してはプロのライアンはあちこち分解しながらライフルを確認し、転がった男の死体に眉をひそめる。それから手を伸ばして男の顔を覆う布をはいだ。


「これはっ……意外と大物だぞ」


 どうやらレイル達を使わなくても、子飼いの傭兵さんが詳細情報を知ってるチート展開らしい。ヒジリの毛皮から身を起こし、ライアンに向き直った。


「情報、くれる?」

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