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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第20章 権力者の妻を舐めるなよ!?

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116.不吉フラグ? 立てねぇよ!

 あっさり土地は決まった。オレも驚いたのだが、英雄様の報酬に土地が含まれていたのだ。街と宮殿の中間ほどの位置に与えられた土地は、オレの屋敷を建てる予定だったと聞いた。


「オレは屋敷とかいらないから」


「……欲がないよな」


「まあ、ボスだから」


 最近よくわからない理由で納得されているが、オレに欲がないという通説に傭兵達が一斉に頷く。納得できない。オレより欲深い奴はいないってくらい、あれこれ強請ってるぞ。


 傭兵を雇ってもらって、孤児院を作ってもらって、その土地や建物もそうだし、実はもうひとつ大きなものを欲しがったのだ。


「オレは欲深いぞ? だってあれこれ欲しがって、与えてもらったもん」


 足元のヒジリを撫でながら、孤児院予定地を確認した。思ったより広いし、立地条件もちょうどいい。護衛につけられたジャックとジークムンド、ライアンが首をかしげた。


「そんなに豪華なもん、強請ったか?」


 不思議そうなジャックに、にっこり笑う。


「うん、北の国の王子様とそのご一行様。オレがもらったんだ」


 まだ誰にも教えてなかった話をもらす。眉をひそめたジャックは「そんなもん、金にならねえだろ」とぼやいた。どうやら命乞いをして彼らを助けたと思ったらしい。


 残念だが、オレはそんなお人好しじゃなかった。ちゃんと思惑はあるし、利用価値もある。


 膝まである草をかき分けて歩くオレの後ろから、背中に乗れとヒジリが鼻を押し付ける。ぽんぽん叩いて、彼の背に乗せてもらった。足元の草の中にいるコウコが、するすると足を伝って登ってくる。


「コウコ、スノーはどうした?」


『主ぃ、僕のことは?』


「お前が無事なのは上から見えてる」


 青い毛皮がもそもそ草をかき分けて歩く姿が見える。しかし白いスノーの姿がなかった。明るい昼間に見落とす可能性は低い。


『スノーなら影で寝てるわ』


「そう? ならいいや」


 ぐるりと見回した土地にある丘に建物を建てて、手前に庭を作る。子供達が「閉じ込められた」と思わないように、壁は作らない。開けた状態を維持することで、孤児以外も安心するだろう。


 孤児にしても、拒まれていないと理解できる。受け入れてくれるのだと……そう思わせないと建てる価値が半減するから。


「ここから育った子供が、次の子供を育てて……そうやって世界が変われば、オレがこの世界に残した功績になるだろ?」


「不吉な言い方するんじゃねえよ」


 いらっとした口調でジークムンドが吐き捨てる。オレが早死にフラグを立てたと思ったのか?


「ここで残念なお知らせだ。憎まれっ子世に憚かる――オレは簡単に死んでやらねえぞ」


 にやっと笑ってからかうと、ぐしゃりとジャックが髪を撫でた。後ろで縛った髪をライアンが引っ張る。


 やめろ、オレが禿げたらどうしてくれる?!


 ヒジリに跨ったまま逃げると、追いかけっこが始まった。大騒ぎしながら走って戻るオレ達の様子に、勘違いした兵士の一部が駆け寄ってくる。


「どうしました?!」


「ぶっ……どうもしませんけど?」


 突然話しかけられて、ヒジリが急ブレーキ。つんのめって前に転がり落ちたオレは、なんとか取り繕う。カッコ悪いとこ見られた。


 しょんぼりした見た目のいい子供、足元には巨大な黒い獣、後ろから追いかける人相の悪い傭兵達。どう見ても誘拐されそうな子供か、獣に襲われたガキ……状況はよろしくなさそう。


 間の悪いことに、このタイミングでヒジリが手を噛んだ。


「こら! ヒジリ、痛いっての」


「ひっ!! 危険だぞ」


「この獣を捕獲しろ」


 そうだよな、こうなるわけ。いきなり槍を突きつけられたヒジリが唸る。どっちの立場も理解できるので、間に立って互いを隔てた。こういうときは、見えてると互いに感情が高ぶるらしい。ケンカしている動物は引き離すのが原則……これは某国営放送の動物番組で観たチート知識だ。


「ヒジリ、お座り。兵隊さんも落ち着いて」


 そう言われても、噛まれた子供の手は血塗れである。ヒジリの唾液で傷は塞がっても、流れた血はまだ舐め取られていなかった。真っ赤な手で制止されても、兵士も止まれるはずがない。街の治安を守る衛兵としての誇りもある。危険な状況ならば、子供を保護しなくてはならなかった。


 どうみても高そうな服装で、見た目も整った子供だ。きっと犯罪に巻き込まれて……。


「何度も言ってるが、人前で噛んだらダメだ。ジャックも銃を抜かない。ジーク、その手は何を持ってるの? ライアン……狙撃は中止」


 後ろにいた2人の強面に言い聞かせて、それから姿の見えないもう1人に指示を出す。足元の黒い獣はよく見ると、金色の目をした聖獣だった。黒豹だ。


「まさか……」


「おまえ、じゃなかった。あなたが、ドラゴン殺しの?」


「ん? やだなぁ。有名になってるの?」


 ちょっと照れるじゃん。少し離れた物陰から顔を見せたライアンは、収納空間に銃をしまっている。愛用のライフルを持ち歩くのはいいが、何かあるたびに構えるのはやめさせないと。


「「非常識で我が侭な英雄様」」


「うん?」


 何か奇妙な単語が上についていた気がするぞ。にっこり笑って振り返れば、衛兵たちが「ひっ」と息を飲んだ。解せぬ、こんなに可愛い少年を前に怯えるなど……おかしいだろ。


「やっぱり有名になったか」


「まあ、あの宴会や戦場での騒ぎをみれば当然だ」


「皇帝陛下にお強請りし放題だし」


 擁護してくれない護衛3人を睨んだ。にやにやする彼らの態度は、悪びれない。まったくもって自由で愛すべき連中だ。くそ、何も言えない。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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