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09.自覚ゼロ(2)

 拝謁……というと、あれか。偉い人の前に連れて行かれて、膝突いてお声掛かりを待つ。


「何を想像してる?」


 ノアに捕まって覗き込まれた。がっちりホールドされた体勢で見上げ、小首を傾げる。


 何を想像って……そりゃ、これ一択だろう。


「え? 着ていくものどうしよう……とか」


 呆れ顔のシフェル、眉を顰めるレイル、ライアンとノアは顔を見合わせ、サシャは頭を抱えてしまった。金髪お姉さんがくすくす笑い出した頃、ジャックが大きな手で頭を撫でる。


「大物だな! 普通は何故呼ばれたのかを気にするだろ」


「だって、今回の騒動で呼ばれるんだろうし。洋服はどうするのかな、って思わない?」


 前の世界だったら学生服……は卒業したから無理か。学生なら制服で誤魔化せたんだけど。


 あ!


「制服っぽいの、ないの?」


 ここは一応軍隊みたいだし、もし制服があれば用意してもらえるかも知れない! いいアイディアだとにこにこ笑って返事を待てば、レイルが吹き出した。



「ちょ……っ! やばい!! おれ、こいつ好きかもよ!!」


 爆笑しながら好意を示されても、正直ノーサンキューだった。男に興味はない。隣で目を見開いてる金髪のお姉さんの告白なら、即OKだ。


「あらあら…。レイルが気に入るなんて珍しいわね」


「本当ですね、クリス」


 シフェルが笑顔で相槌を打つ言葉で、ようやく美人なお姉さんの名前が判明した。クリスさん……おそらく略称だろうから、本名はクリスティンとかクリスティアナあたりか?


「お姉さん、クリスっていうの?」


 外見を最大限に生かして、子供らしく尋ねる。あざとい仕草でこてりと首を横に倒せば、案の定、お姉さんは引っかかった。


「やーん、可愛いわ。この子、連れ帰りたい」


 シフェルの腕の中から伸ばされた手を素直に受けて、引き寄せられて抱き締められる。


 ああ……幸せだ。もうずっと12歳でもいい……。


 胸の谷間に顔を埋め、このまま窒息を望んでいると、いい笑顔のシフェルに引き剥がされた。じたばたと手足を暴れさせて抵抗するが、大人と子供の手足の長さは如何ともし難く――結局負ける。


「彼女はクリスティーンです、私の奥さんなので勝手に触らないでください」


 宣言された言葉に、聞き捨てならない単語が含まれていた。


 奥さん? 嫁? この金髪美人が、この性格悪そうなイケメンの!?


「嘘だ! オレがお姉さんと結婚するんだ!!」


「ハンサムになりそうだし、ちょっと出会うのが遅かったわね」


 にこにこ流すクリスがシフェルの言い分を否定しなかったことで、オレは激しいショックを受けていた。正直、この世界に落とされた時や人を撃った瞬間より辛い……。


 こんな美人、もう出会えないかも知れないのに。



「うぅ……」


 泣きまねをしてみる。


「その手は使えません」


 ぴしゃりとシフェルに切り捨てられ、ちっと舌打ちして顔を背けた。


 そうだ、さっきコイツ相手に使ったばっかりだっけ。


 すっかり忘れていた自分が、本当に子供になったような気がする。外見相応の扱いを受けているうちに、子供らしく振舞うことに違和感を覚えなくなっていた。





「軍は制服があるが……おれらは傭兵だからなぁ」


「少し小奇麗な格好させりゃいいんじゃないか?」


 ライアンとジャックが真剣に服について考えてくれる。とりあえずお金を持っていないので、彼らに任せるしかないだろう。


 さらさらと流れる髪先を指で弄っていると、シフェルが口を挟んだ。


「その心配はありません。拝謁に必要なものはもちろん、この子供には国から予算が下りますから」


「「「予算?」」」


 一斉に同じ単語を繰り返したオレたちに、笑いすぎて涙を拭うレイルが続きを説明し始める。


「異世界人ってのは国の財産だ。その知識はもちろん、大抵は高い能力や魔力を持っているからな。今回のコイツは希少種の竜で、なおかつあの魔力量だ。間違いなく囲い込んで予算つけて、飼い殺しだ」

 

 ……飼い殺し。


 えらく物騒な予想を立てたレイルは、短い赤毛をくしゃくしゃとかき乱した。意地悪い印象の笑みを浮かべているが、薄氷色の瞳は真剣だ。


「嫌なら、自分でさっさと決めちまえ」


 彼なりの好意だろう。示し方がすこしへそ曲がりだが、根本的にお人好しなのだ。国に呼ばれて囲い込まれる前に、と忠告してくれるのだから。


 己のチートに対して、あまりにも自覚が足りない子供へ最大の贈り物だ。



「レイルさん、言い方が問題です」


 国寄りの立場なのか、シフェルは顔を顰めて注意する。


 ジャック達は雇われた傭兵部隊で、シフェルと……おそらくクリスは国寄りの肩書きがある。レイルは情報を売買しているみたいだが、きっとフリーランスだ。


 目の前に集まった男女の立場をきちんと分類し、自分の立ち位置を考えた。


 自覚はないが、どうやら珍しい属性持ちのチート魔力らしい。願ったとおり外見は美人分類で、身体能力も恵まれた。過去のオレを考えれば、十分すぎるチートだ。


 さらに今は12歳前後の子供なので、これからまだ成長の余地が残されている。



 ――オレ、物凄い優良物件じゃね!?


 国が予算検討するほどの優良物件なら、囲い込まれるより自分で稼いだ方が……?




 狸の皮算用だとしても、とりあえず国に囲い込まれる可能性を知っているだけで対策の立てようはある。じっと黙り込んで考えているオレに何を思ったのか、シフェルが溜め息を吐いた。


「予算は別としても、陛下への拝謁は避けられません」


 これだけは決定していると言い切られてしまう。


 助けを求めた視線の先でレイルがにやにや笑い、ジャックやサシャには目を伏せられた。ライアンは背中を向け、ノアはすでに読み終えた筈の報告書を再び読み出す始末。どうやら誰も助けてくれないようだ。


 むぅ……唇を尖らせてむくれたフリで時間を稼ぎ、妙案を思いついた。


「じゃあ、保護者としてジャックかノアと一緒に行ってもらう」


「「え?」」


 指名された2人の引きつった声に、満面の笑みを返す。逃がしてたまるか、絶対に道連れにする!! そんな意気込みを感じ取った彼らは、諦めの溜め息を吐いた。

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