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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第18章 正直、オレには荷が重い

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104.自動翻訳は便利だがバグる(1)

「キヨ、自害という(てい)を装って侍女は殺されていたのでしょう」


「うん」


 物騒な話題だが、当事者であるがゆえに避けて通れる道じゃない。シフェルが次に発する言葉に集中して耳を傾けた。オレだけじゃなく、リアムにも関わる話なのだ。


「常に聖獣殿を連れて行動してください。あなたが思うより、ここは伏魔殿(ふくまでん)ですから。身分を盾に何か言われたら、私の名を出すより聖獣殿の立場を理由に逃げてくださいね」


「……ヒジリに頼む」


 連れ歩ける大きさの聖獣の中で、外見的に強そうな黒豹を選んだ。もちろん一番古い付き合いだから慣れてるのもあるけど、他の聖獣だと問題が山積だ。


 ブラウは巨猫になっても猫だから迫力に欠ける。コウコが怒ると火事になりそうで、しかもミニチュア龍は可愛いけど強そうに見えない。同じような理由でチビドラゴンも無理だろう。


「最良の選択です」


 シフェルから見ても同じ結論に至るらしい。隣で黙っていたリアムが、ミニチュア龍のコウコとチビドラゴンのスノーを膝に乗せている。前世界なら悲鳴を上げる女子多発の爬虫類だが、この世界だと聖獣様という肩書に嫌悪感は払拭されるらしい。


「これからあなたは陛下のおそばにいることで、貴族達の羨望と嫉妬を引き寄せます。聖獣の主でありドラゴン殺しの英雄という肩書が、キヨの切り札になるでしょう」


「うん、わかる。異世界人は地位がないもんな」


 異世界人だから化け物扱いされて、迫害される未来だってあるのだ。役に立っている間は平気だと安心して足元をすくわれるようなラノベ展開は御免被る。ここはオレの可愛い黒髪嫁がいる現実なのだから。最悪の展開(ゲームオーバー)になってもやり直し(リセット)は出来ない。


 頷きあったところで、ウルスラが戻ってきた。


「侍女の死体が発見されました」


 自動翻訳がどこまで有能かわからないが、「遺体」ではなく「死体」と聞こえた単語に眉をひそめる。遺体ならば身元が判明していて、死体は物体扱いだったはずだ。人格を認めない死体という表現を使ったのは、侍女が罪人だからというより、身元不明の侵入者だったと考えるのが正しいだろう。


「身元不明ってことか」


「どうして、そう思ったのですか?」


 ウルスラがかすれた声で尋ねる。自分の一言でどこまで読まれたかを確かめようとするのは、外交も行う立場の人間として当然だった。だから抵抗なく説明を始める。


「異世界人には自動翻訳がある。オレは死体と聞き取った。前世界で死体は物体、身元が判明した人格ある死亡者は遺体って言い分けるんだ。どう?」


「……キヨヒト殿は意外と博識ですね」


「テレビ見てた時に気になって調べたんだよな、スマホで」


 テレビとスマホは翻訳されなかったらしい。この世界にないから仕方ない。首をかしげるシフェルとウルスラに愛想笑いをして誤魔化し、隣のリアムに(あぶ)ったマシュマロを差し出した。ぱくりと食べるリアムの幸せそうな顔に、明日にでもクッキーを焼こうと思う。


「明日、クッキー焼くから厨房借りる」


「伝えておきます」


 常に事前申請が必要なのは面倒くさいが、監視も兼ねているのだ。オレが作る工程を調理師と魔術師が眺めて検分し、危険がないと判断してからじゃないとリアムに渡せない。かつてリアムの兄が殺された時、毒を盛ったのが恋人だった経緯を聞いたので、まあ当然の措置と納得した。


 オレがシフェルの立場でも監視を命令すると思うし。異世界人にとって危険じゃない食べ物が、この世界では危険なことも想定しなければならないのだ。近くに詳しい人がいて尋ねてから使えるなら、オレも安心できた。


「博識だと思うんならさ、オレのさっきの案を真剣に検討してよ」


「孤児院の創設ですね」


 ウルスラが考えながら頷いた。子供は国の財産だという考え方が浸透すれば、この世界ももっと優しくなる。オレは自分のことだけ考えるような生き汚いガキだけど、この世界で生きていくと決めた。どうせなら残酷で厳しい世界より、優しくて甘い世界がいい。


 親のスネを齧るニートの考え方ってのも、時には悪くないだろ。何しろ楽して生きる方法に関してはエキスパートだからな! 威張れないけど。


「……捕虜の扱いは難しいですね。野放しにできません」


 いきなり全員野放しは無理だろう。ここは揉めると気づいていたので、妥協案を提示してみる。


「平民の捕虜を北の国に送り付ける選択肢はない?」


「確かに面倒は減りますが」


「キヨ、送り返すメリットはあるのか?」


 応援するつもりのリアムが援護射撃をしてくれる。にっこり笑ってリアムの唇の端についていた菓子の欠片を指先で拭い、ひょいぱくと自分の口に放り込んだ。照れて赤くなる黒髪美人は眼福です。本当にご馳走様でした。美味しい……シフェルの視線が物理的に刺さってる気がするけど。


「北の国の王太子を捕まえたなら、北の国は西の国みたいに併合するわけだろ。だったら自治領として管理するのが合理的だ。自治領なら食糧問題は勝手に解決してもらえるし、属国なわけだから必要な物は調達できるじゃん」


「クーデターの心配があります。あまり彼らに力を持たせると……」


 思った通りの展開に、にやりと意地悪い笑みが浮かんだ。口を噤んだシフェルの察しの良さはさすがだ。ウルスラも警戒しながら話を聞いている。


「王太子は簡単に挿げ替えがきくの?」


「王族、皇族は国の要ですから他家に王座を譲って終わり、はありません」


 ここまではオレが習った歴史や法律の書物の通りだ。ただの権力を持つ一族ではなく、血の契約をもって国の土地と契約しているのが王族であり皇族だった。そのため操ることはあっても、殺して血筋を断絶させる愚を犯す者はいない。


「ここからはレイルにもらった情報を混ぜるけど、北の国の王族に他の王子はいない。つまりあの王太子は継承権を持つ唯一の男児だ。だから『人質』としてオレ達が保有する限り、攻めてくることは出来ないんだ」


「そうですが」


「しかも北の国で彼は人望がある。つまり手元に置いて飼い慣らし、逆らったら殺すぞと脅しをかける材料になるってこと。非道な方法だけど、オレがいた世界にあった考え方だよ。これが『人質』って言葉の意味」


「ヒトジチ、怖い言葉ですね」


 毒殺未遂で置き去りにされた単語を説明し、ひそひそ話を始めたウルスラとシフェルの結論を待つ。正直、心配はしていない。殺すメリットがほとんどないのだから。殺したら恨まれて北は残存兵力をかき集めて攻め込むだろう。何しろ王族が滅びること確定で、数十年で現王が死んだら土地の契約が消える。


 生きたまま捕獲するデメリットは、逃げられる心配だろう。そこはきっちり傭兵とオレらで面倒見るのが役目だ。戦闘能力が高く融通が利く傭兵は、契約が命だ。オレと雇用契約を結んだら仕事はする。逃がす手助けをされる心配もなかった。


 まあ、逃げられても追いかける方法は別に考えてるけどね……いわゆる魔法のGPS機能。使いたくない方法だが、使うときは躊躇わないように覚悟しておかないと。


「セイは余よりいろいろ考えているのだな」


 なぜか隣で嫁が落ち込んだ。しょぼんとした様子で俯く彼女の手を取って、しっかり指を絡めて握りしめる。いわゆる恋人繋ぎでその指背に接吻けた。小指から薬指、中指、人差し指に来たところで、ようやく美人さんがオレを見てくれた。


 蒼い瞳がぱちくりと瞬いて、驚いたように息を飲む。


「オレは常にリアムのことを考えてる」


 リアムを守る為に勉強したし、リアムの隣に立つ権利を得るために戦って、リアムと暮らす世界が平和であるように意見する。オレの言動は、平和で穏やかな世界で彼女と笑って暮らしたいというささやかだけど、どこまでも傲慢で贅沢な願いに基づいている。


「そこまでですよ、キヨ。距離が近すぎます」


 止めに入ったシフェルに舌打ちしたオレの足を、ブラウが踏みつけて歩いて行った。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆


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