表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第18章 正直、オレには荷が重い

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

142/410

101.顔合わせと密談は薔薇の園で(1)

 襲ってくる薔薇がいる垣根の内側で、お茶会が始まる。風が心地良い円卓の上には、豪華な軽食が並べられた。少しフリルの多いブラウスに着替えたリアムの手をとって、エスコートさせてもらう。


「どうぞ、皇帝陛下」


 戯けて椅子を引くと、くすくす笑いながらリアムが腰掛けた。本来は執事や侍女達の仕事なのだが、この垣根の内側は許可がなければ立ち入れない。護衛の騎士も外側で待機が原則だった。


「セイ、この場では私で構わないか」


 可愛く黒髪を揺らして首を傾げられると、いやとは言えない。外に声が聞こえなければいいかと頷いた。


「いいよ。俺が私になるんだろ。あれ、皇帝陛下の時は余だっけ?」


 多くの一人称を使い分けるリアムに確認すると、苦笑いしながらお茶のポットに手を伸ばす。その手をそっと止めて、オレは紅茶をカップに注いだ。普段ならノアがしてくれる。紅茶の色を確かめながら、2つのカップを満たした。


「この場所でお茶することが多いけど、理由あるの?」


「ああ、ここは音が漏れないから秘密の話をするのに向いている。薔薇が魔法植物でな。音を食べる」


 音を食べる植物だと言われても実感がない。確かに周囲の騒音が届きにくいけど、まったく聞こえないわけじゃなかった。だから余計に違和感がある。


「食べる音を指定してある。内側にいる人の話し声だ。それ以外は興味を示さないよう、魔法陣で制御しているらしい」


「へぇ。やっぱ異世界だな」


 呟いた途端、リアムが目を見開いた。


「そうか。セイは異世界人だった」


「馴染み過ぎって言われるけどね」


 茶化して雰囲気を軽くする。さきほど暗くしてしまった場を盛り上げようと必死だった。リアムには笑っていて欲しいのだ。それは可愛い服で愛嬌を振り撒くより大切なことで、彼女が笑うだけで気持ちが明るくなる。


「聖獣もいいかな」


「もちろんだ!」


 嬉しそうなリアムの表情に微笑み返し、まずは折り畳みベッドを取り出した。ヒジリ達の椅子がわりにするのだ。それから足元の影に声をかけた。


「ヒジリ、ブラウ、コウコ、スノー」


 声をかければ誰かが出てくる。その程度の感覚で全員の名を呼んだら、全員集合だった。艶のある立派な黒豹、小さめの青猫、某国のお土産みたいなミニチュア龍コウコ、最後にチビドラゴン姿のスノー。全員が折り畳みベッドに乗っかり、当然ながら重量オーバーで折れた。


 がたんと大きな音がしたので、騎士が声をかける。


「陛下、英雄殿。今の音は……」


「ああ、問題ない」


 端的なリアムの答えだと足りない気がして、補足してしまった。


「聖獣が椅子から落ちた音なので、お気になさらず」


「丁寧にありがとうございます」


 護衛の騎士は中を覗くことなく、柔らかな声で礼を言ってくれた。どうやら対応を間違わずに済んだようだ。ほっとしたオレの顔を、リアムは不思議そうに見つめた。


「随分気を使うんだな」


「オレの世界では普通だったんだ。ほら、戦いもなかった平和な場所だったから。他者との摩擦を減らすために、挨拶や礼をまめに口にするんだ」


 壊れたベッドを回収して、新しいベッドを置いた。手招きしてヒジリに「猫になって」とお願いする。不満そうに尻尾を揺すっていたが、ヒジリはやはり男前だ。小さな黒猫姿になってくれた。


 お礼がわりに何度もヒジリを撫で、コウコやスノーも褒めてからベッドに乗せる。最後にブラウは自分で飛び乗った。


「少しお菓子もらうね」


 リアムに確認してから、彼らの届く位置にお菓子を用意する。


『このお菓子の色が素敵』


『いただくぞ、主殿』


『僕、お菓子って初めてです』


 コウコ、ヒジリ、スノーがお菓子に手を伸ばす中、ブラウはお昼寝を始めた。ゴロゴロ喉を鳴らす青猫の首回りを掻いてやってから、リアムの隣に戻った。


 向かい合って座る位置に椅子が用意されているが、リアムが腰掛ける長椅子の隣に滑り込む。


「あのさ、リアムに会ったら相談したいことがあったんだ」


「なんだ?」


「リアムはこの国の孤児について、どのくらい知ってる?」


 奇妙な質問に目を見開くが、すぐに考えながら答えてくれた。


「親がいない子供が孤児とよばれ、半分程は傭兵となり生活している。犯罪者になる者も多いときいた」


 これがこの世界の孤児の扱いだ。一番豊かだと言われる中央がこれなら、東西南北どの国ももっとひどい扱いをしてるだろう。福祉が発達した国で育ったから「おかしいだろ」と思えるけど、「孤児は荷物、勝手に生きていけ」って考える人の方が多いはずだ。彼らが悪いと一方的に責めたり決めつけることは出来なかった。


 だってオレは、一歩間違えれば孤児や奴隷の扱いをされてた。たまたまレイルやジャック達に会えたから、チートを持ってたから、リアムと仲良くなれたから、珍しい竜属性で赤瞳だったから。理由はたくさんあるけど、恵まれていただけ。


 運が悪ければ、オレだって傭兵しながら差別される側だった。


「うん。孤児の大半が犯罪に手を染めるらしいけど、それって政治で解決できるんだ」


「解決?」


 リアムは大きな青い瞳を瞬いて、不思議そうに繰り返した。相互扶助の考え方をどう説明したら伝わるんだろう。この世界にない概念は、四字熟語を駆使しても伝わらない。自動翻訳は万能じゃない。


 オレだって聖人君子じゃないのに、こんな偽善っぽいことを口にするのは心苦しかった。


 この世界で築かれてきた政を壊す発言をしようとしてる、自覚はあった。それでも差別され、苦しむ子供が減るなら口にする努力をすべきだろう。オレ以外の誰も福祉の概念を知らないんだから。


「オレがいた世界だと『福祉』って概念がある」


「フクシ?」


 やはり存在しない単語は自動翻訳されない。ぎこちなく繰り返したリアムに頷いた。近くの焼き菓子をつまんで、リアムの開いた唇に押し当てる。ぱくりと食べたリアムに微笑んだのは、なんとなく満たされたから。竜属性は番に決めた相手に食べさせたり面倒見たがるって、シフェルが言ってたな。


「子供を育てるのは社会の責任なんだ。だから他人の子でも声を掛けたり、気に掛けたりする。その延長で、孤児はまとめて『孤児院』で育てていた」


「孤児の生活費はどうする?」


「税金で払うよ」


「……反対意見が出そうだが」


 今までにない考え方に困惑するリアムに、もっと前世界で勉強するべきだったと後悔する。なんでもそうだけど、無駄なことなんてなかった。福祉が発達した世界にいれば勉強しようと思わないけど、こうやって異世界に来たら説明する知識が欲しい。今さら言っても仕方ないけど。


「貴族に寄付させるのは? 人の上に立つ者の義務みたいなの、ない?」


「ふむ……寄付はある。公園や街道の整備費用に使われるが」


「それの孤児版」


「犯罪者予備軍に金を払う貴族はいないだろう」


 ああ、そこから説明か。と一瞬空を仰いだ。先が長い。こういう話になるなら、先に捕虜の話をするべきだったか? いや、異世界にない概念を説明するなら長くなるのは当然だ。どちらにしろ同じ結果になったはずだった。


「その辺を含めて詳細な話をするから、(まつりごと)を担当してる人とシフェルを呼んで?」


 よく宰相とか執政みたいな肩書の人がいるだろう。その人にも理解してもらった方がいい。捕虜や傭兵の話もあるから、軍事面でシフェルも必要だ。単純にそう考えたオレの頬を、両側からリアムの手が包み込んだ。強引に彼女の方を向かされる。


「……私はお前と2人で過ごしたかった」


「なら、今夜も泊まるよ。それならたくさん話ができるだろ?」


 目を見開いたリアムがにっこり笑った。嬉しそうな美人さんの笑顔を正面で見る、こちらの頬も緩んでしまう。見つめ合ってにこにこしている子供達に、聖獣達は見ないフリを決め込んだ。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

感想やコメント、評価をいただけると飛び上がって喜びます!

☆・゜:*(人´ω`*)。。☆


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ