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09.自覚ゼロ(1)

「左利きの自覚、ないのですか?」


 こいつ、バカか?


 シフェルの表情は言葉より雄弁に本音を語る。いや、わざとだった。絶対に金髪お姉さんの胸に顔を埋めた仕返しをされたとしか思えない。


「ずっと右利きだったぞ?」


 持ち上げた右手を握って広げる。左手も同じようにしてみるが、どちらが利き手かわからない。


 異世界に来ても身体は同じ筈だよな? こっちで美人規格の顔にしてくれと頼んだが……確かに年齢は幼くなってる。それに身長も外見年齢相応に縮んだっぽい。だけど、元が同じ身体なら利き手は同じだろう。


 いまだに金髪お姉さんを後ろから抱き締める狭量な男を睨みつけた。


「戦うとき、貴方は左手で魔力を操っていました」


 淡々と指摘され、考えてみる……が、わからなかった。


 魔力を使った記憶はある。傷つけた男を千切って捨てて、一緒に捕まってた子供を逃がした。右手の小指が痛くて折れてるかも知れないと気付いた瞬間、目の前が赤くなって……。


「うーん……わからない」


 口をついた言葉は素直すぎて、集まった皆も考え込んでいる。


「最初に銃を貸した際は右手で銃を撃ったぞ」


「本を捲る手は左だったか?」


「鏡は右手で持ってたな」


 レイル、ジャック、ノアの指摘に全員が唸った。右手も左手も大差なく使っている気がする。これは所謂、両利きってやつか?



「キヨ」


 突然名を呼ばれて振り返ると、ナイフが飛んできていた。驚いたが、反射的に左手で受け止める。刃の先を指で挟んで止め、ほっと息を吐いた。


「ちょ…っ、危ないじゃないか!」


 ライアンはじっと見つめた後「左利きだ」と断定した。


 直後、後ろが気になって振り向き、飛んできたボールを右手でキャッチしようとして……弾いてしまう。掴んだつもりだったが、掴み損ねた感じだ。


「うん、間違いなさそうだ」


 サシャの確認に、苦笑いして転がったボールを拾う。物騒な確認方法だが、まあ確実に結果がでるのは否定できない。事実、左手で阻止したナイフは掴んだが、右手のボールは失敗したのだから。


「でも……これって、危機感の問題じゃないかしら?」


 首を傾げながら呟く金髪お姉さんが、うーんと悩みながら右手の指で唇を押さえる。


 なんだ、その可愛い仕草……そして後ろにいる男に軽く殺意が湧く。まだ抱きついてるのか、この野郎。ちょっとばかし顔がいいからって、調子に乗るなよ!


「危機感ですか?」


「ええ。カードもボールも落としたり受け取れなくても危なくはないでしょう? でもナイフは命が絡むから受け止めた。つまり……危機感の有無かしら、と思ったのよ」


 言われてみればそんな気もしてきた。別に美人の意見だから賛同するわけじゃないぜ? 説得力ないと思うけど……。


 話がこう着状態になったところで、ジャックに掴まれて痛い頭を撫でたオレが改めて疑問を呈した。


「ところで……なんで、こんなに集まってるの?」



「「「「「お前の所為だ」」」」」



 ほぼ全員がハモる。


「……オレ?」


 再び全員が頷く。少しばかり考えてみるが、攫われたことで迷惑をかけたのかも知れないと思いついた。


「ああ、攫われたこと? ごめんなさい」


「「「「「そっちじゃなくて!!」」」」」


 異口同音。彼らの全力での否定に小首を傾げる。


 他に何かあっただろうか。攫われて、ちょっとキレて……あ、もしかして!


「あの人攫いを殺したから?」


「違います!!」


 シフェルが呆れ顔で否定。


 ん? これも違うのか。


「じゃあ、他の子供を逃がしたのがマズかった?」


「そうじゃねえ! その後だ!!」


 ジャックが頭を抱えて、これまた否定。


「……もしかして、溶かした煉瓦の弁償問題?」


 お金なんて持ってないぞ。あの人攫いの金貨を拾っておくべきだったか!? 


 心配を顔に書いたオレの頭へ、ぽんとライアンの手が乗せられる。撫でるより押し潰す勢いで、ぐりぐり強い力で髪を掻き乱された、


「おまえ、本当に自覚ないんだな……竜でもあそこまで『純粋』な奴、滅多にいないんだぞ」


「異世界人だから理解がないのもわかるが、おそらく竜の中で片手に入る魔力量だ」


 はあ……呆れ顔で「こいつら何言ってんの?」と眉を顰める。


 足元に落ちたままのカードを拾うと、書かれていた内容を読み始めた。どういう仕組みなのか、ちゃんと文頭から始まり、読む速度にあわせてスライドしていく。試しに視線を逸らして戻してみたら、読み終えたところで止まっていた。


 優秀だ。このカードの仕組みを持ち込めば、前の世界で億万長者になれそう。


 にしても――。


 あの人攫い、本当に悪人だったんだな。


 確かにオレの扱いも酷かったし、平気で子供――外見だけでも12歳だ――を蹴ったり殴ったり、鎖で引き摺る時点で悪人だが。人身売買どころか、臓器を取り出してバラしたのは酷い。


「自覚がないのはしょうがない。キヨは異世界人だ。この世界に来てから得た能力や属性に理解が足りないのは当然だろう」


 ……庇われてる、んだよな? 多少バカにされた気もするが。


「子供には理解が難しい話だったな」


 やっぱりバカにされてる。


 髪を乱すライアンの手を払って、手櫛で髪を整えた。


 ぐしゃぐしゃ髪を乱すのは、ここの連中なりの親しみの表し方なのだろう。悪気がないのは伝わってくる。これが気配や魔力に敏感ということか? 


 以前はコミュ障に近かったオレにしては、他人の気持ちや感情を読み取るのが上手になってる。なんとなく勘みたいなもので、嫌われてないと感じるのだ。


「バカにして……」


 むっと唇を尖らせて見せても「悪い悪い」と言いながらまた手を伸ばすライアンに、オレを怖がる様子はなかった。あれだけ街を破壊したのに、ぜんぜん気にしていない。


 この世界の奴の心が広いのか、またはライアン達が規格外か。


 両方……かな?


 なんとなくおかしくなって、笑いながらライアンの手を避ける。追いかけてくるライアンに捕まって、白金の髪を思う存分かき回された。


「こうしていると……普通の子供にしか見えませんね」


 呆れ顔のシフェルが呟き、続いて彼は爆弾を落とした。


「この騒ぎは皇帝陛下に報告されています。近々、拝謁することになりますよ」

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