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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第17章 異世界の定番きたぁ!!

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91.広がる誤解と疑惑のデパート

 ここで一泊予定なのだが、リアムが「余の命令だぞ」と連れ帰ろうとする。だが今のオレには部下がいた。重要な問題がひとつ残されているのだ。


「あのね、リアム。オレは指揮官だから部下を置いて帰るわけに行かないんだよ」


 一応まっとうな理由で説得を試みる。廊下で聞き耳を立ててる数人を含め、彼らに大事なことを告げなければならない。連れ帰られるわけにいかなかった。


 仲良く硬いベッドに座って、手を繋いで話をする。オレは左手、リアムは右手を絡めているのだが……クリスに「微笑ましい」と言われ、シフェルに「陛下を猛獣と一緒に置いていくのは」と渋られた。しかし最終的に2人は護衛の騎士と一緒に少し離れた場所に立っている。


「ならば傭兵も連れ帰ればよい」


「なりません」


 兵や騎士はもちろん、傭兵にも適用される軍規があるのだとシフェルが口をはさむ。戦場に行くことがないリアムは「厳しすぎる」と唇を尖らせて抗議した。とっても可愛いが、もちろんシフェルが絆されるはずはない。正論で却下された。


 つまり騎士、兵士、傭兵の順で帰還すべきだ。傭兵を先に転移させるのは問題があるし、かといって準備が出来ていない騎士や兵士を無理やり転移するわけにもいかない。むすっと唇を尖らせたリアムだが、基本的には聞き分けのいいお嬢様だ。それ以上無理を通そうとしなかった。


「リアムは先に帰って、オレ達を迎えて欲しい」


「だが……」


「お願いっ! 帰る場所はリアムのところなんだよ。だから待ってて欲しいな」


 にっこり笑って拝むようにすると、頬を赤く染めたリアムがこくんと頷く。なに、この可愛い生き物。このまま閉じ込めておきたい。絶対に外に出したらヤバイぞ……感情のままに動こうとしたオレの手が、殺気でぴりりと痛みを感じた。


 突き刺さる視線はシフェルだ。近衛騎士団長として、皇帝陛下に不埒な手を伸ばす害獣を駆除する気満々だった。これは次の一手で確実に仕留められるパターンだろう。ごくりと喉を鳴らして、伸ばしかけた右手をそっと膝の上に戻した。


 頷くシフェルの「よくできました」的な表情が気に食わないが、ここは我慢だ。


「麗しい皇帝陛下のもとへ、竜殺しの英雄として帰還するからさ。前みたいに労って、それからお茶会同席の栄誉を賜りたいんだけど?」


 覚えさせられた宮廷用の語彙を駆使してお願いすると、「……セイが真面なこと言ってる」と可愛くない言葉を吐いた。そのくせ頬は赤いし、蒼い瞳はオレを映してくれてる。もう少し意地悪さが出ると、ツンデレ乙なのに惜しい。


「今夜は引くが、帰ったら余との時間を作れ」


「もちろん、我が皇帝陛下の仰せならばいくらでも」


 真っ赤な顔でぎこちなく立ち上がるリアムをドアまでエスコートして、繋いでいた手をクリスに引き継ぐ。離れる体温が惜しくて、ぎゅっと同時に握り直してしまい笑った。指が離れる直前に互いに指を絡め合うタイミングが、見事に一致したのだ。


「おやすみ、リアム」


「セイもゆっくり休め」


「ありがとう」


 お礼を言ってリアムの後ろ姿を見送る。クリスに導かれて歩くリアムは、何回か足を止めたが振り向かなかった。ずっと見送って、ほっと息をつく。


「さて、誤解を解かないと」


「誤解……疑惑なら、さらに膨らんでいますよ」


 シフェルの言う通り、振り返った廊下には鈴なりの傭兵達がひそひそ噂をしていた。どう見ても、男の子同士のカップルが別れを惜しんだようにしか見えない。だがリアムが女性だという話は禁句で、説明のしようがなかった。


 しかも女性に抱き着かれたオレを「浮気者」となじりながら、最高権力者の皇帝陛下が手錠で拘束する驚きの展開を経て、彼らの頭の中には『ドラゴン殺しの英雄はドMの拘束プレイ好きな同性愛者』という、ありえない人物像が出来上がった頃だろう。


 男色家の噂を甘んじて受けるべきか。無駄かもしれないが徹底的に否定するか。


「言っとくが……オレは男好きじゃないぞ」


「わかってる。()()()()()好きなんだよな」


 男全般が好きなんじゃなく、好きになった奴が男だった――最高に好意的に判断してもこうなるらしい。理解したつもりのジャックが慰めるように肩を叩いた。


「いや、だから……男は好みじゃなくて!」


「大丈夫だ。偏見はない」


「そうだ。たまたま惚れた相手が皇帝陛下だったんだろ?」


 サシャとライアンも肩を組んでオレの頭を撫でる。誤解なんだが、誤解を解く方法がわからない。リアムが女性だと説明せずに、彼らの疑惑をかわす方法が思いつかなかった。


 唸りながら、否定できずに呟く。


「そう(皇帝陛下(リアム)が好き)だけど、そう(男好き)じゃない」


 ううっ……伝わらない。がくりと座り込んだオレを、皆が気の毒そうに眺めた。すごい嫌な感じだ。違うのに、違うと伝えちゃいけないなんて罰ゲーム過ぎる。


 廊下の板が冷たい……あれ? 今更だけど、ここって街の中の宿っぽくないか??


「今夜、オレらは外で野宿じゃなかった?」


「ドラゴン退治したおかげで、宿じゃないが街の中に入れてもらったぞ」


 ジークムンドがけろりと告げる。オレが気を失うと場面展開が激しくて、毎回大変なんだが……。今回はドラゴン退治で倒れたら、レイルが帰ってきた。さらに巨乳様の洗礼を経てリアムに拘束された挙句、誤解による疑惑がべったり、と。


「良かったなぁ……天井がある場所だ」


「おれらはテントだぞ」


「はい?」


 ジークムンドの聞き捨てならない言葉に、食い気味で聞き返した。そこからノアが淡々と説明してくれた内容によると、やはり宿は足りないらしい。


 ただ住民達から「街を襲うドラゴンを退治してくれた英雄を外で寝かせるのか」と抗議があり、オレを回収しようとした。傭兵達は構わなかったようだが、レイルがシフェルと交渉してくれたらしい。最終的に街の広場に傭兵と捕虜を押し込み、勝手にテントを張って寝てくれと話が決まった。


「うん、わかった。じゃあオレもテントで寝る」


 冷たい床から立ち上がろうとするオレを、ひょいっと後ろから抱える腕がある。斜め後ろを見上げると、赤毛の情報屋さんだった。


「お前は体調崩してんだから、屋根の下で寝ろ」


「だから、テントの屋根の下で寝るよ」


「……人の話を聞け。具合が悪いんだろうが!!」


「全員条件は一緒だろ! 屋根はあるんだ、何が不満だ」


 痛めた足は痛いし、少し頭がぼんやりするのは誤差だ。もう手足の痺れも取れた。そう説明すると、レイルは大きな溜め息を吐いた。そのまま外へ連れ出される。


 宿らしき建物の外は、すでに夜の星がきらめいていた。気温が低い外だと、息がわずかに白く凍る。晩秋って感じか。森を抜けるとこんなに季節が違うんだな。


 どさっと乱暴に落とされて、むっとした。唇を尖らせて石畳の道に座り込む。目の前に座ったレイルがぐしゃぐしゃと赤い短髪をかき乱しながら、白い溜息を吐いた。


「この寒さだぞ。頼むから中で寝ろ」


 レイルに頼まれてしまった。続いてジークとノアも言葉で畳みかける。


「そうだぞ、ボス」


「キヨは中で休め」


「絶対にやだ!! みんなと一緒がいい」


 子供の我が侭を振りかざして叫ぶと、顔を見合わせた傭兵達が複雑そうな顔をした。なんだよ、言いたいことがあれば言えよ。24歳のくせに……とか、今頃言うんだろ。そんなオレの予想は逆方向に裏切られた。


「やっぱり、男が好きなんだよ。可哀想だから一緒に寝てやろう」


「だが熱があるんだぞ」


「熱があるときは添い寝がいいと聞くぞ」


「じゃあ、誰か添い寝してやればいい」


「ボスの好みの奴っているか?」


 ぼそぼそ聞こえてきた、聞こえちゃいけない類の相談に場所を弁えずに大声で叫んだ。


「だから! 同性愛じゃないっての!!」


 叫んだ勢いで歩き出すが、すぐに痛みで座り込んだ。影から顔を出したヒジリが乗せてくれるので、広場に向かうよう頼む。


『主殿……人の好みはよくわからぬが、我でよければ添い寝とやらをするぞ』


「……うん、お前でいいよ」


 ジークやジャック、ノアあたりと添い寝するより健全だろう。リアムに今度は同性愛者疑惑で責められるのも嫌だ。背中にぎゅっと抱き着けば、心なし嬉しそうにヒジリの黒い尻尾が振られていた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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