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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第16章 勝手に固められる足元

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86.当たり前すぎる差別

「街の外に待機だ。当然だろう、ゴミみたいなれん――ッ!?」


 最後まで言わせるか! 魔力を纏ったオレの右拳が門番の顔面を捉えた。ヒジリの上に立ち上がってバランスを取ったオレに吹き飛ばされた男は、地面に後頭部を打ち付けて起きてこない。


「キ、キヨ?」


「何してんだ、お前」


 焦ったジャック達の声が、まるで水の中で聞くように遠かった。


「あ゛ん?」


 濁点付きのオレの唸り声に、ジャックもライアンも口を噤んだ。じろりと振り返った先で、ノアが苦笑いしながら取り出した水を手渡す。ぐいっと飲んで返した。


「何をしているっ! 貴様、門兵に逆らうと……」


 無言で2発目の拳をお見舞いした。倒れた門番をブラウが踏みつけて上に座る。どかっと座った青猫は元の巨猫サイズで、気絶した2人をしっかり押さえつけた。聖獣がいるため、他の門兵は槍を向けたまま動かない。


 騒ぎを報告するらしく、数人の兵が街の中へ駆けていくのが見えた。賑やかそうな街は、夕暮れの買い物時間帯なのだろう。たくさんの人が行き来し、一部は足を止めて騒動を見物してた。


『主殿はまっすぐだな』


 止めなかったくせにヒジリがぼやく。賢い奴はこのまま聞かないフリで流すのかもしれない。過去のオレが道端に捨てられていた子猫を「家で飼えないから」と言い訳しながら見捨てたように、子猫が明日には冷たくなることを知りながら通り過ぎたように。無視するのが賢いんだ、きっと。


「だって許せねえよ、こんなの」


 正義感を振り翳すのとは違う。自分勝手な感情が胸をいっぱいにして、呼吸できないくらい苦しい。怒りと悔しさと悲しみと、誰も助けの手を伸ばさない不条理も。


「……何に怒った?」


 サシャが首をかしげる。その気にしていない様子に、オレは悔しくて目が熱くなった。涙なんか零してやるもんか! そう強く思いながら拳を握った。殴った手に爪が食い込むが、ひとつ大きく息を吸って声を絞り出す。


「逆になんで怒らないんだよ」


「いつものことだ」


「そうだぞ、普段どおりだ」


 当然のように言われた。やっぱりと思う気持ちがじわりと胸に広がり、つづいて上書きする形で怒りがゆらりと身を起こす。声が感情で揺れた。


 ジャックもノアも、後ろにいるジーク達も、二つ名持ちは戦場で恐れられる存在だというのに、それだけの功績を残しても、まだ……街に入るのに差別される。本人が自覚してないのもあるが、一発で伸びて立ち上がれない程度の実力の奴に、どうしてオレの恩人や仲間が見下されなきゃならない?


 幼い頃からゴミ扱いされて、抗う気力も失せるほど蔑まれたのか。伸し上げる道も見えなくて、ずっとぬかるんだ泥道を歩かされたから、諦めたという自覚すらない。ごつい見た目に反して、本当に優しい連中なのに底辺の扱いを疑問にすら思ってない。


 なんで! オレがこんなに悔しいと感情が煮えたぎってるのに、コイツらは平然としてんだよ! 悔しいって言えば……。


 ふと気づいた。レイルが傭兵の中で浮いていたのは、このせいじゃないか。アイツは自分が置かれた現状に満足しなかった。孤児を拾って育てて利用してる。そう(うそぶ)いて、孤児に飯や仕事を与えてた。悪者ぶった言い方するけど、レイルが一番まともな神経を持ってたんだ。


 傭兵と距離を置くのも、情報屋だからじゃない。この虐げられた差別著しい状況に納得してる奴らをみて、自分は違うと奮起した結果だとしたら。


「オレは許さない。お前ら気づけよ! 謂われない差別なんだぞ。抗う力もあるのに、どうして大人しく従ってやる必要がある?」


「抗ってどうする?」


「この世界、数の多い方が勝つんだよ」


「キヨは大丈夫なんだし、なぁ」


 オレが大丈夫で門内に入れるからとノアは呟いた。諦めたジーク達の声に、騒ぎに集まった傭兵達へひとつの例を出した。


「なら、オレが同じ目にあったら? ここで門番に『異世界人だから街に入れない。汚らわしい、近づくな』と言われたら……」


「殴り倒す」


『殺す』


「全力で排除する」


 聖獣含めて即答された。こんなに優しい奴らなのに、自分をもっと大切にしてもいいと思う。どうにもならない感情が頬を伝った。溢れた感情を誤魔化すように、乱暴に頬を拭う。


 爪が傷つけた手のひらの血が顔に付いて、不快な感触がぬるりと頬を滑った。気づいたノアが差し出したタオルを受け取ると、ヒジリが心配そうにオレを見上げる。ずっとヒジリの上に立った状態だったのを思い出し、彼の上に座り直した。


 器用な黒豹がぱくりと右手を咥え、優しく舐めて治してくれる。お礼代わりに頭を数回撫でた。慰めるようにコウコが影から腕に絡みついて、首筋に巻き付く。長い二又の舌で頬を舐めるのが擽ったい。すこしだけ気持ちが落ち着いた。


「キヨ?」


「お前らがそう言ってくれるの嬉しいけど、だったらオレの気持ちも理解してよ。大事な仲間を差別されて、『コイツらは傭兵だから外だ』と言われたオレが怒るの、当たり前じゃんか」


 どうしても涙がこぼれてみっともない。外見が子供になってから、感情の起伏が激しくなった。悔しくて声を出すたびに震えるし、一言ごとに涙が頬を濡らす。ぐしぐしと手荒に顔を拭ったところに、捕虜の後ろから悲鳴が上がった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆

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