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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第16章 勝手に固められる足元

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83.沈んで笑って、食料ピンチ!

 お前は違う――と突き放された気がした。


 傭兵がはみ出し者なら、異世界人は世界すらはみ出してるのに。こうして一緒に笑ったり、同じご飯食べて、一緒のテントで寝たのに……まだ仲間じゃないのかな。


「……ったく、そういう意味じゃねえよ。泣くな」


「泣いてない」


 言い返しながら、滲んだ視界を誤魔化すように顔を上げた。まだ森を抜けていないから、木漏れ日がちらちら眩しくて、光が目に沁みたってことにしよう。ずずっと鼻をすすり、ばさりと上に掛けられたシャツに顔をしかめた。


「汗臭い」


「うるせぇ」


 レイルとの軽快な言い合いが心を軽くしてくれる。シャツを取るフリで、目から溢れた汗をぬぐった。そう、これは汗だ。涙じゃない。どこかのアニメでこんなやり取りあった気がする。こんな時でも思い出すのは過去の癒しアニメなのは、いかにオレが引き籠ってたかの証明だな。


『主殿、よくわからぬが……』


 なんだ、慰めてくれるのかよ。ヒジリは優しいな。ぎゅっと首に抱き着いて、揺れる筋肉を堪能する。取り囲んでいる傭兵達も足を緩めないから、相変わらず人の壁に守られたオレは熱を理由に伏せていた。


『我はこう思うのだ……』


『そろそろ腹減った』


「ぶっ!」


 吹き出して、斜め後ろを歩く青猫を振り返る。身を起こしたオレの白金の髪を、順番に傭兵達が撫でてくれた。これだけでいいじゃないか。


 気遣ったり笑わせてくれる聖獣達がいて、こうして見守る強面だけど本当は優しい傭兵連中がいる。帰る場所があって、そこには美人なお嫁さん(まだ候補で仮)が居てくれるわけだから。オレはこの世界で一番恵まれてるだろうよ。


 さっきの湿っぽい雰囲気を吹き飛ばすように大笑いして、生理的に滲んだ涙を拭いて誤魔化して、一緒になって笑ってる傭兵達と手を叩きあう。空気読まないバカだと思ってたけど、ブラウも役に立つ。いやめちゃくちゃ空気読んでるんだろう、たぶん。


「お~い、本当に昼休みになったぞ」


 少し離れた場所から、ジークムンドが声を上げる。隊列の速度が落ちたので、先行して状況を見てくれたらしい。子供が見たら間違いなくなく強面だけど、実は子供好きなんだと思う今日この頃。だってさ、めちゃくちゃオレの面倒見てるから。


 内面の年齢考えると面倒みられるのもどうよ? な24歳ですが、何か? この世界って属性のせいで実年齢がまちまちなんだが、誰も気にしてない。見た通りの年齢で扱ってくるのは、常識の範囲内と納得しておこう。


「ヒジリ、ありがとう」


 背から下りると、残念そうにしながらも毛繕いを始めた。照れ隠しかな? 


「この先が広場になってるぞ」


 ジークムンドの言葉に頷いて、傭兵達はぞろぞろと歩き出す。この隊列の順番は、騎士、兵士、捕虜、傭兵だった。捕虜の位置は逃走防止だとして、傭兵が殿(しんがり)なのは、やっぱ序列的な感覚なのかも。


「ご飯だ!」


「よし休憩!」


 傭兵はもともと数人から数十人の部隊を複数寄せ集めたため、各集団ごとに隊長がいる。一番大きいのはジークムンドの部隊かな。逆にジャック達は4人と最小グループだった。爆弾大好きヴィリは、どちらとも違う部隊所属だ。


 各部隊ごとに休憩を始めたので、中央あたりにかまどを作る。さすがにヒジリも慣れてきて、何も指示しなくても鍋用4つと網用2つを用意してくれた。まず鍋にスポドリ風味の飲料水を3つ作る。


「水の補給しておいて」


「「「「あいよ!」」」」


 彼らが水分補給している間に、捕虜である王太子君へスポドリ鍋をひとつ提供した。今回の運搬係はサシャとライアンだ。手早く取り出したテーブルに食材を並べる。


「あちゃ~、中途半端だな」


 そろそろ補充しないと足りないんじゃないか? 本当は傭兵連中の分を作らなくても、彼らは必要日数分の携帯食を持っている。だからオレが全部食材を出す必要はないので、当初の計画で用意した食料が足りなくなったのだ。


 自分と聖獣達、あとはジャック達ぐらいまでしか考えず、多めに持ってきた食材が尽きそうだ。今夜到着した街で補充できるだろうか。


『足りぬのか? 主殿』


「うーん、残りが中途半端だから困るなと思って。とりあえず塩とハーブで全部煮るか」


 困ったときの鍋物料理だ。冷蔵庫に余った食材を全部ぶちこむ系の大雑把な調理法だが、全部かき集めれば鍋4つ分くらいはあるだろう。


「干し肉を煮るか?」


「……足りなければ干し肉と乾パンかな」


 唸りながら、ブラウの尻を叩いた。


『何するのさ』


「材料を切って、鍋に投入。コウコは火の番をよろしく!」


 ヒジリはどこに行ったのか。きょろきょろしていると、影の中から黒豹が飛び出した。


「脅かすなよっ!」


『主殿、なぜ座っているのだ?』


 口に咥えていた獲物を地面に置きながら、ヒジリが首をかしげる。お前が突然出てきたから驚いて尻もち付いたんだよ! って文句言いたいけど、恰好悪いから口にしたくない。複雑な心境で必殺技を繰り出した。


「それ、どうした?」


 これぞ、秘儀『話題逸らし』だ。ヒジリが持ってきたのは、以前もお見かけした兎もどきだった。明らかに異世界食材だが、食べたので美味しいのは知ってる。


『肉が足りぬというので、狩ってきた』


「ありがとう! さすがはヒジリ!!」


 どこで、どうやって、いつのまに。聞きたい言葉はすべて飲み込んで、黒豹の首に抱き着いた。予想外に毛皮が血だらけで服や手が汚れたが、まったく気にならない。頬ずりして身を起こすと、ノアが溜め息をついた。


「キヨ、汚れてるぞ」


「美人が血塗れって、ホラーだな」


「見た目はいいんだけど、行動が奇抜だぞ」


「いつもだろ」


「「「まあ我慢できる範囲だ」」」


 濡れタオルを用意して手早く拭ってくれるオカンに身を任せながら、好き勝手話す傭兵達の言葉を聞き流す。何にどう我慢できる範囲なのかは無視した。どうせ不愉快な展開だろう。


 傭兵連中にとって下ネタは挨拶みたいなもんだ。目くじら立てる上司なんて目の上のたん瘤……この使い方あってるのかな。


「これは捌くぞ」


「うん、よろしく」


 手際よく捌くレイルのナイフを横目で見ながら、気づかなくていいことに気づいた。前のユハ達と同じだ、料理に人殺しのナイフを使うなっての。もしかして、ボス命令として言い聞かせた方がいいのか?


 内臓を手際よく取り出すレイルが、オレと目が合うなり笑った。間違いなく、気づいててそのナイフを使ったな。うん、いつかその笑顔を張り倒す!


「内臓は使うか?」


「え、何に使うのさ」


「……そっか、坊ちゃんだから知らないよな」


 ぱちくり瞬きしたレイルが何かに納得している。坊ちゃん扱いは仕方ないとして、何に使うのか。疑問を浮かべてじっと手元を見ていると、苦笑いしたレイルが口を開いた。


「食う物がなかった頃、焼いたり煮たりして食ったんだ。お前は恵まれてるから知らないが、孤児なんてみんな似たような境遇だぞ」


 何とか生き延びた孤児は、大半が危険な職業に就く。頭と運がいいと兵隊、その次が傭兵、一番下だと捕まって奴隷扱いも珍しくない。そこまで一気に語ったレイルが顔をしかめた。余計なことを言ったと後悔する色が薄氷色の瞳に浮かんだ。


 レイルは孤児なんだろう。もしかしたら、オレが指揮した傭兵連中の大半が孤児かもしれない。


「孤児院とかないの?」


「なんだ、それ」


「国や行政が、孤児を集めて養育する場所。オレのいた世界だと宗教があるから、教会がよく(ほどこ)ししてたぞ」


「施しなんていらねえ」


 単語に反応したのか、レイルの口調が厳しくなった。確かに『施し』って上から目線な感じがする。くれてやる、みたいなイメージ。手早く捌いて肉を机に置いたレイルが立ち上がる。この場から離れようとした彼の手を、反射的に掴んだ。


「っ、ぁんだ? 離せ」


 最初に会った時もこんなに冷たくなかった。鋭い視線をまっすぐに受け止めて、オレは覚悟を決める。このまま別れたら、おそらく二度と連絡できなくなるから。


「ガキの戯言が気に入らなきゃ殴っていい。でも、今の怒り方は嫌だ」

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆

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