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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第16章 勝手に固められる足元

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81.二つ名の登録方法

 ずるりと簀巻きから転がり出る。ヒジリの背中から落ちたオレは、手をついて一回転して膝をついた。縛り方が甘いぜ! そう指摘したら、次は腕ごと簀巻きにされそうなので無言で通す。


『主殿、大人しく乗っておられぬのか』


 呆れたと言わんばかりの聖獣は、立派な黒い尻尾を左右に振って身を伏せる。あれは猫科の動物が飛びかかる前の動作だ。後ろに飛びすさって、ヒジリの突進を避けてガッツポーズしたところで捕まった。脇に手を差し込んだジークムンドが苦笑いしながら、オレを背負って歩き出す。


「いやいや、オレは自分で歩くからさ」


「ボスを置いて帰還するわけにいかないだろ。大事な雇い主様だ」


 本当に、本当に癪なんだが……これが気持ちいいんだ。子供の頃に親に背負ってもらった記憶なんて薄れてるのにさ、それを思い出すんだよな。無条件で愛されてた頃の記憶みたいな感じがした。


「それにしても、本当に熱が高いな」


 背中に伝わる熱を計ったジークムンドが呟くと、背負う役を取られたとぶつぶつ文句を言うジャックが溜め息をついた。


「戦いの後が多いかな」


「ふーん、魔力制御が甘いんじゃないか?」


 薄氷色の瞳でオレを眺めていたレイルが口を挟む。


「よく魔力酔いしてたから可能性あるな」


 普通に戦ってる時は、魔力を使ってないはずなんだが。気づくと魔力酔いに近い状態になってしまう。子供の身体に無理がかかるのか、最後は発熱というオチになるんだろう。


 もう降りるのは諦めて、大人しくジークムンドの肩に掴まった。ヒジリ、恨めしそうな目でみるな。別にお前が嫌いで下りたわけじゃないぞ。


「ヒジリに乗せて」


 ずっと睨んでくるヒジリの金瞳に勝てなくて、ジークムンドに提案する。


「ちゃんと乗るか?」


「勝手に下りるなよ」


 すごく過保護にされてるが、ここは素直に頷いておく。黒豹の上に下されて、大きな背中に跨った。手で掴む場所はないが、ヒジリが魔力で支えてくれるので落ちる心配はない。すべすべする背中に頬ずりすると、ヒジリの機嫌が目に見えて上昇した。


 人だったら鼻歌くらい歌ってそう。ご機嫌のヒジリに跨ったオレに、誰も「ずるい」と指摘しないのは不思議だが、ほとんど荷物が片付いた傭兵部隊は出発の準備を終えていた。


「正規兵が出発したぞ」


 ジャックの指摘に頷くと、各自勝手に歩き出した。ここは傭兵らしいなと思う。きちんと整列して帰るなんて上品さはなかった。勝手に散開してるんだが、すぐ敵に対応できるよう武器は手放さない。狙撃手のライアンだって拳銃をベルトにさしていた。このぐらい用心深くないと傭兵は無理なのかも知れない。


「ユハとか、新人さんは平気そう?」


 戦闘中に捕虜にされかけてたし、と気付いて名を口にすると後ろから「平気です」と自己申告があった。振り返った視線の先で、他の傭兵連中と歩いてくる姿は元気そうだ。


「早朝、飯の支度してる時は熱なかったが」


 鉄板を探して捕虜から鎧を奪おうと考えたオレの熱を測ったのは、サシャだった。ヒジリに乗ったオレの両側も後ろも、やたらと傭兵連中の密度が高い。守られている、いや心配されてる? もしかしたら構いたいだけかも。


 馬じゃないから騎乗と表現しちゃいけないのかも知れないが、乗り心地は意外といいヒジリの背を撫でながら、高い壁になった傭兵達を眺める。すごい飯の食い方からもわかるが、やっぱりガタイがいい。オレみたいにひょろりと細い奴は少なかった。いわゆるマッチョ集団だ。


「いいなぁ……筋肉」


 ヒジリの背中ももこもこと筋肉が動くのが伝わる。必要に迫られてついた筋肉は無駄がなくて綺麗だ。撫でるたびに、ヒジリの黒く長い尻尾が左右に大きく揺れた。


「筋肉ついたキヨが想像できない」


「「「確かに」」」


 口揃えて同意されてしまい、ちょっと唇を尖らせる。ぐらぐらする頭で、散漫になりがちな考えを纏めた。さっき、二つ名が決まったと聞いたが……登録したとか? 


 歩くヒジリの足元が、芝から土に変わった。大きな森が覆いかぶさるように日差しを遮り、地面は雑草がちらほら生えている。普段から人が手を入れて整備している森らしく、通路は男3人が横に並んで歩ける広さで砂利が敷かれていた。雑草防止だろうか。


「レイル~」


 名を呼ぶと、死角になる斜め後ろから赤髪が顔を覗かせる。情報屋で、普段は部隊について歩くような立場じゃないらしい。ジャック達に聞いた話を総合すると、各国に散らばった情報屋の総元締めで、傭兵ではない。オレのナイフ戦の教官に選ばれるくらい腕はいいが、あくまでも情報屋だった。


 今回も情報を配達にきたついでに、興味半分でついてきたらしい。


「ちょっと教えてよ」


「高くつくぞ」


「うーん。出世払いで」


「お前の出世払いは大盤振る舞いだが、しっかり出世しろよ?」


 お決まりのやり取りに、ジャック達は慣れてきたようだ。レイルが現場で情報料を徴収しないなんて珍しい事例でも、オレが相手と知ると誰も何も言わなくなった。陰でオレがレイルの愛人候補呼ばわりされているのも知ってるけど、冗談半分で聞き流してる。


「二つ名って勝手に登録できるの?」


「実力者からの推薦と、名称の確認があるけどな」


「二つ名を登録されたあとで変更できる?」


「出来ない」


「本人が納得してなくても?」


「通称名だから関係ないぞ。そもそも複数の推薦がある時点で、実力審査はクリアだ」


「ふーん」


 システムがよくわからないが、シンプルなのかも知れない。話を聞いた範囲だと実力者の推薦が必要で、複数の実力者が名乗り出れば実力テストだか審査もOK。通称名に本人が納得しなくても、登録できちゃう……明らかな欠陥システムじゃねえか。


 ネット注文だって2回は支払い意思確認があるのに! 本人の意思確認なしで、勝手に他人が登録できるシステムってのは、問題だらけだと思う。


 木漏れ日がだんだんと少なくなってきた。森の奥に入り込んでいるのだろう。肌寒いくらい気温が下がってる。逆に湿気は高くなっていて、ヒジリの毛皮も冷たく感じられた。


「じゃあ、オレの『死神』って不吉な名前も変えられないの?」


「無理だな」


 他人事だからけろりと肯定される。どちらかといえば、レイルは楽しそうにしていた。嫌な予感がよぎる。もしかして……レイルも推薦者の一人なんじゃ?


 レイルの手首をつかんで逃がさないようにして、にっこり笑顔を浮かべた。嫌な予感がしたのか振りほどこうとしたレイルへ、猫なで声で依頼する。


「ねぇ。オレの二つ名の推薦者、調べてよ」


 言葉と同時に周りの反応を窺う。


「いや、それは秘密になってるから……マズイだろ」


 誤魔化そうとするレイルだが、掴んだ手がびくっと強張ったのは見逃さない。ビンゴ、コイツは間違いなく推薦者だ。あと顔を逸らしたジークムンド、冷や汗を拭ったノア、肩を揺らしたジャックも決まりだな。罠にかかった獲物を改めるように、しっかり記憶した。


「そう? オレが把握したのは『剛腕のジーク』『菩薩のノア』『雷神ジャック』『赤い悪魔レイル』までだけど……それ以外にもいそうだよね?」


 直感に近い部分で、他にも関係者がいそうだと呟く。もう一人、二つ名は知らないが心当たりがあった。たぶん……赤銅色の髪の近衛騎士も関わってるだろう。


 無言を通すレイルの表情は動かない。しかし掴んだ手の脈が少し早いよ? まだまだ甘いなぁ。なんて、偉そうなことを考えながら手を離してやった。汗でしっとり濡れた肌を腰のあたりで拭う仕草は、ボロが出てる。


「名称の確認って、どうやるのさ。こんな幼気(いたいけ)で無害な少年を掴まえて『死神』は酷いよね」


「「「「ぴったりだと思うぞ」」」」


 なぜだろう、全員が口を揃えてオレが死神で問題ないというのは、あれか? ヒジリ達と契約したからか。コウコが北兵を薙ぎ払ったのがいけないのか。ブラウは……まず関係ないな。失礼な分類されたことに気づいたわけないだろうが、ブラウが影から飛び出した。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆


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