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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第16章 勝手に固められる足元

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80.不名誉な二つ名

 しょんぼりしながら、照り焼きソースもどきを塗ったくった。ヒジリやコウコ、ブラウの分を取り分け終えると、鍋をひとつ回収する。収納魔法で蓋のない汁物を持ち運べるかわからないので、ジャックとジークに運んでもらった。


「悪いな~」


「キヨはもっと部下を使え」


「そうだ、自分で動き回る指揮官(ボス)なんて滅多にいないぞ」


 ジャックもジークムンドも好き勝手に言ってくれるが、日本民族は基本的に貧乏性というか、動き回るのが標準のブラック企業体質民族なんですよ。と通じないのを承知でぼやいてみる。案の定通じなくて、苦笑いしたジークムンドに、髪を手荒に撫でられた。


「おはよう、皆さん。ご飯の時間です!!」


 先日を同じように鍋を手前において、自分たちで分けてもらう。王太子はまた部下へ先に渡そうとして、首を横に振られている。近くに座り込んだオレは、首を傾げた。


「なあ、王子様だっけ?」


「王太子だ」


「どっちでもいいや。えらい人が、なんで先に食べないの?」


「「「お前が言うな」」」


 あれ? 1人増えた! 振り返るとレイルが苦笑いしながら料理を運んできた。ハンバーガーは皿じゃなくて、紙に包んである。見事にハンバーガーの再来だ。


 某ハンバーガーショップに並んでそうだもん。悔しくなんてないぞ? そりゃ新しい料理を広めたら異世界の料理チートじゃん! と思ったなんて、欠片もないからな。誰だよ、オレより早くハンバーガー伝えた奴……拗ねながら、もらったハンバーガーを齧る。


「お前が先に食べないと、ノア達が食べられないってさ。情報屋を運搬係に使うなんぞ」


「……今の状況で最適な配役じゃん」


 勝利後の行進で情報屋が役に立つことなんて、他にないだろ。もぐもぐ食べながら答える。容赦ない拳が上から頭に叩きつけられた。じわっと目じりに涙が滲むのは、叩かれた瞬間に舌を噛んだからだ。


「くそっ…、噛んだぁ」


 飲み込んだあとぼやくと、機嫌を取るようにジャックがカップを差し出す。オレが作ったスポドリもどきが入っていた。やや温いそれに氷を作って放り込む。


「お前がボスなのか?」


「うん?」


 驚かれた理由が分からなくて声を上げた王太子を見つめる。よく見ると色男だ。しっかり日に焼けた逞しい体躯、黒髪で灰色の瞳……あれ? 体育会系の鍛えた外見だな……今までよく見てないから、目の色が薄いのは気づかなかった。


「これがボスだ」


 言い切ったジークムンドに気づいた北兵が「あいつ、剛腕のジークだぞ」と呟いた。どうやら立派な二つ名が他国にも知れ渡っているらしい。にやにやしながら見上げると、頭をグイっと敵側に戻された。なんだよ、照れてるのか?


「こんなんでもボスだ」


 レイル、めちゃくちゃ失礼だからな。むっとして振り返ると、ひょいっと肩を竦める。隣のジャックに気づいた兵が声をあげた。


「あっちは雷神ジャックだ!」


「やだ、皆有名人だなぁ」


 この場にいる3人が全部二つ名持ちだから、指揮官のオレがすごい奴だと思われちゃう。へらっと笑いながら余裕をかましたオレに「死神みたいだ」と失礼な発言が聞こえてきた。


 どんな時でも飯は美味い。もぐもぐした口をハンカチで拭いて、ハンバーガーの外紙を燃やして捨てた。この世界は魔法が使えれば、燃やしてポイ捨て可能らしい。


 見ると料理はいきわたっているようで、ほとんどの捕虜がカップに入れたスープを飲んでいた。


「今日はこのまま歩くんだけど、悪いがオレも道は知らない……何時間後に着くかわからない」


 マラソンなんかもそうだが、終わりが見えていると頑張れる。だから本当は教えてやりたい。しかし地図を見ても距離を推し量れないオレに、初めての場所から帰るまでの時間はわからないのだ。本心から悪いと思いながら告げて立ち上がった。


「なあ、キヨ」


 続きを促すように視線を向けたレイルが、考え込みながら耳の通信イヤーカフを弄っている。嫌な通信でも入ったのかと思えば違うらしい。


「そろそろ二つ名がつきそうだぞ」


 あんまり厨二っぽくなければ、何でもいいです。というか、本音でマジ要らないです。


「聖獣使いとか?」


「「そのままだな」」


 ジャックとジークに笑われて、ぷんと頬を膨らませた。大して離れていないテントの下に入ると、畳んだベッドや寝具が大量に積んである。無言で放り込んでいくと、途中からジャックやノアも手伝ってくれた。すべて放り込んだところで、通信が終わったレイルが近づいてくる。


『主殿、乗っていくか?』


 なぜか足元の影からヒジリが飛び出してきた。意味不明の提案だが、楽なので頷いて……すぐに思い直す。オレが歩かないで乗っていくと、傭兵連中から見てどうよ。校内マラソンで足を挫いて教師の車で回収された子が、そのあと仲間外れにされた事件を思い出した。


 これは村八分(むらはちぶ)案件だ。危険は避けよう。せっかく仲間になった(んだよな?)連中に白い目で見られるのは嫌だった。


「いや、歩く」


『だったら、私に乗ってく?』


「なんで?」


 どうして聖獣が2匹揃って背に乗せようとするのか。首をかしげたオレの横に追いついたレイルが、ぐいっと肩を掴んだ。覗き込んだあと、額に手を当てる。


「おまえ、熱があるぞ」


「いや、もうそのネタ飽きたから」


 笑いながら両手を振って、ないないと示す。怠くもないし、暑くもない。いい加減、魔力酔いもないと否定して手を振り払った。すたすた歩くオレの横に、ジャックやシフェルも集まってくる。


「熱がありますね」


「間違いない」


 なぜか言い切られてしまった。そのうえ、無理やりヒジリに乗せようとする。彼らの強引な態度にイライラした。むっとして何か言おうと息を吸い込んだところで、目の前がぐらりと揺れる。


「あ……地震?」


 足元が揺れたんじゃなく、自分が揺れたのだと気づいたときは、ジャックに抱っこされていた。縦抱っこされた子供がじたばた暴れても、大柄な男は気にしない。誘拐犯みたいな顔してるくせに、慣れた手つきでぽんぽん背中を叩かれた。


「具合が悪いときは無理するな。戦闘中じゃないんだ」


 それを言われると、そうなんだけど。確かに戦闘前だからって熱があるのに無理したことはあるが、コイツ意外と気にしてたのか? 唸りながら葛藤していると、げらげら笑うレイルに髪をぐしゃぐしゃにされた。


「いいから寝ておけ、戦が終われば指揮官なんざ用なしだろ」


 乱れた髪を手櫛で整えながら頷いた。すると突然、ジークが声を張り上げる。


「よし! 準備したやつ持ってこい」


「「「おう」」」


 駆け寄った連中が広げた毛布の上に転がされ、あっという間に簀巻き状態にされた。両手が外に出て自由なのが、まあ救いではあるが。そのまま簀巻きのオレをヒジリの上に括り付けられる。手際の良さに、抵抗する余裕はなかった。


「なあ、これって簀巻きじゃね?」


「「「簀巻きだぞ」」」


 口を揃えて返す言葉じゃないだろ。一応ボスなんだし、簀巻きは酷いと思うわけだ。で、素直に抗議してみる。


「ボスなのに簀巻きか?」


「ボスだから簀巻きなんだよ」


 解せぬ。世間のボスは、勝ち戦に簀巻きで帰還したりしない。こう馬にまたがって意気揚々と、行進するものだろう。気にした様子がないヒジリはすたすた歩きだし、ちょっと不安定だが落ちそうな感じはない。揺られていると、眠くなってきた。


「キヨ、お前の二つ名が登録されたぞ」


「……何?」


 にやにや笑うレイルの顔に、嫌な予感だけが募る。絶対にまともな呼び名じゃない。確信するくらいには付き合いが出来てきた。つうか、二つ名って登録されるものなんだ?


「死神だとさ」


「はあ? 誰だ、そんな不名誉な名称で登録した奴っ!」


「「「さあ?」」」


『恰好いいではないか、主殿』


『ぷっ、くくっ。オレを見た者はみんな死んじまうぞぉ……って?』


 誰が三つ編みロボット操縦者だ! ブラウ、顔を見せたら絶対に殴る。


 簀巻きから出た手で、自由になるための結び目を必死に探した。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆

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