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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第15章 意外と近くに和食調味料あった

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78.オカラはやがてハンバーグになる

 結局、深夜までかかってオカラを加工した。鍋の残りは傭兵が捕虜に分けていたので、完全に任せる。指揮官って本来こうやって部下を使う職業だと思うわけ。なのに、オレが最初にテントとベッド用意してやって、料理当番なのはおかしい。


 ほとんど言いがかりに近い感情で八つ当たりした鶏肉は、見事なミンチになりました。力いっぱい魔力でかき回したら潰れて、飛び散りそうになった肉を風で浮かせて戻したので、ロスもほぼゼロ! 完璧な魔法チート料理教室だった。


 あまりの剣幕に、遠巻きにした傭兵達はひそひそ話を始める。


「ボスはよほど『豆腐好き』なんだな」


「『ひやっこ』って何だ?」


「しらねぇよ」


「結局、豆腐の何が気に入らなくて絞ったんだ?」


「「「「さあ?」」」」


 冷奴の名を叫びながら絶望していた姿が、彼らには印象的だったらしい。


 寝るようにと言われテント前に連れてこられても、オレは無心にハンバーグを丸めていた。楕円形だ、俵型にして潰して真ん中をくぼませる。タレントが作っていた小判型ハンバーグを、机の上に量産した。


 鍋の中に大量にあったオカラとひき肉を混ぜたタネがようやく終わり、大量のハンバーグもどきを前に達成感を覚えた。なんかすごい満足した。でも冷奴食べたかったけど……溜め息をついて肩を落とす。


 砂漠ほどじゃないが、荒野に近い森の草原も夜は冷える。ぞくっと背筋に寒さが走って、洗った手で両肩を抱いた。濡れた手は余計に寒い。


「夜だぞ、キヨ。明日も歩くんだから寝ろよ」


 ジャックが心配して声を掛けに来た。眠いのと、泣き疲れて目が痛い。目の周りが赤く腫れているし、考えがふわふわして纏まらなかった。ひょいっと首根っこを掴まれて、猫の子のようにベッドの上に置かれる。


「ぐえっ」


「悪い、首がしまったか?」


 くつくつ喉の奥を震わせて笑うレイルだが、さほど悪いことをしたと思っていないようだ。しかもノアやジャックも心配そうにオレを覗き込んでいる。ライアンに至っては、ベッドの上のオレを押し倒してタオルケットをかけていた。


 どれだけ子ども扱いなのさ。


「子供は夜は寝るものだ」


 サシャが言い聞かせて目元を手で覆ってしまった。ここまでして寝かそうとするんだから、よほどオレの状態は酷いんだろう。目を閉じると他の感覚が鋭くなる。探るつもりはなかったが、魔力感知でテントの周りをうろつく大量の傭兵に気づいた。


 ……冷奴くらいで怒って機嫌損ねて、こんなに心配させるなんて。


 すごく悪いことをした気がする反面、心配されて嬉しいのも事実。あれこれ考えている間に、すっと意識が吸い込まれるように途切れた。






「寝たか?」


「ったく、心配の種が尽きない奴だ」


 ジャックとレイルの声が聞こえる。他の傭兵はレイルに対して腫れ物に触るような扱いが多いけど、ジャックは昔馴染みらしく、親しそうに話は続けられた。


「なあ、キヨの言う『ひやっこ』だっけ? 調べられないか?」


「『ひややっこ』な。オレも聞いたことない食べ物だが、どこかに情報があるかも知れねぇな。調べてみるか」


「悪いが頼む。経費や報酬はおれが払う」


「うーん。報酬は当人から徴収するが、目の前に並べて驚く顔を見たら満足できそうな気もする」


「お前、丸くなったな~」


「雷神ジャックに言われるとはね。お前にそっくり返すよ」


 なんだよ、泣けてきちゃうじゃん。いい奴らだよ、ホント。この世界に来て最初に出会った連中が当たりって、オレのクジ運は凄い引きだ。


 夢だろうか、夢でもいい。これだけ大切に思わてたとしたら、オレの異世界生活も悪くないだろ。


「請求書は高額でふっかけてやるよ」


 最後のレイルのセリフに、あれ? 夢じゃなくない? と思いながら、目を開いたら朝だった。






「ふわぁああ」


 欠伸をしながら身を起こす。まだ周囲は寝ているので、明け方なんだろう。涼しいを通り越して寒いくらいの気温だった。ベッドから足を下すと、隙間風が冷たい。タオルケットを肩にかけたまま外へ出た。


 テントの外で見張りをしていた数人が敬礼するのを、ひらひら手を振って通り過ぎる。少し離れた場所に兵士達が身を寄せ集めて眠るテントがあった。雑魚寝かよ、めちゃくちゃ待遇悪いな。


 見渡す先は荒野が広がっている。テントがある後ろ側は森があるのに、きっちり線を引いたみたいに風景が別世界だった。地図上の線で天気が変わるのと関係があるんだろう。


 乾燥した北の国にしてみたら、雨が多く豊かな中央の国は喉から手が出るほど欲しい土地だったはず。こういった水戦争は昔からある話だ。子供の頃に読んだ本を思い出しながら、視線を巡らせた。


「……ホント、待遇が違いすぎる」


 兵士と騎士が同じ待遇なわけはない。森の内側に入った場所に騎士、森の外側に兵士、荒野と境目の芝に傭兵、一番外側の荒野に捕虜がいた。驚くほどはっきり階級で分けられている。


 捕虜に至っては毛布を与えただけの野宿だった。この寒さでテントなしは辛すぎる。朝食は温かいものを用意してやろう。


 天幕だけで壁がない調理用テントの下に入って気づいた。このテントを夜の間は捕虜に貸してやればよかったんだ。オカラで頭一杯になってる場合じゃなかった。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。思わず肩を落とすほど溜息を吐く。


「オレは指揮官向きじゃないなぁ」


 常に自分のことで手いっぱいだ。他人を気遣ったり上手に動かす方法なんて、知ってるわけがない。近づいてくる気配に振り返れば、赤毛を乱したレイルが伸びをしながら横に並んだ。


「よう、キヨ」


「おはよう。レイル」


「もう『ひややっこ』騒動は落ち着いたか?」


 冷やかす口調に、沈んだ気分が浮上する。こういう気遣いがレイルらしい。にやっと笑って「だって世界一の情報屋が探してくれるんだろ?」とカマをかけた。紙巻のタバコを咥えたレイルは手を止めることなく、火をつけて煙を吐き出す。


「起きてたのか」


「ほとんど寝てた、夢かどうか確かめただけ」


 ぺろっと舌を出して、伸ばされたレイルの手を掻い潜った。苦笑いしたレイルの前で火を(おこ)す。コウコを呼ぶまでもなく、慣れた生活系魔法で食事の支度を始めた。鍋に大量の水を沸かしてさっぱり塩味のスープを作る。


「働き者だね~」


 バカにしてるのか呆れてるのか。おそらく両方だと思う。レイルにしてみれば、また部下も起きてこない早朝に指揮官が料理を作ってるのは、奇妙な行動だろう。過去のオレがニートだったから、今働くとバランス取れるかも……なんて意味不明なことを思う。


「うーん。二度寝したら起きられないからね」


 日持ちする黒パンを大量に取り出し、ハンバーガーにしたら良いんじゃないかと考えた。そういや、こっちにきてからジャンクフード系は食べてない。


「おはよう、キヨ。もう起きたのか」


「キヨは働きすぎだ」


 朝からぼやかれたが、ジャック達も起きてきた。見張りのサシャが銃を背負ったまま近づいてくる。手元を覗き込み、鍋を勝手に味見する奴を叩いた。


「こら、食うなら手伝え」


 収納から取り出した野菜と肉を刻んでスープに入れるよう頼み、自分は隣でハンバーグの確認を始めた。パンの大きさより少し小さめ……まるで予定していたようにぴったりだ。かまどの前でふと首を傾げた。


 鉄板、またはフライパンってあったっけ? 野菜炒めは鍋で作ったし、肉は網で焼いた。でもハンバーグは絶対に網から零れるぞ。しかも鍋はスープで塞がってる。


「鉄板持ってる奴いる?」


「いないだろうな」


 そうだよな、戦場にそんな重たい物持ってくる奴はいない。しかも作戦で使う予定もないのに、担いでくる奴なんて居てもオレくらいだ。


 胸元から取り出したメモを真剣に眺める。何か代わりになりそうな物……椅子は木製だし、机も燃える。鉄製の平べったいもので熱しても平気で、ある程度の厚みが必要……うん、持ってない。


「鉄板なんて何に使うんだ?」


「フライパンの代わり」


 この世界だって肉を焼くフライパンはある。正確には鉄板焼きの大きな板だが、調理場で食材をもらうときに見たので存在するはずだった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆

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