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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第14章 お料理チートじゃね?

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70.イマイチ格好つかない戦果

 右手のナイフを逆手に持ち返る。くるっと回して握る隙を狙って、剣が突き出された。切るんじゃなく突いたのは、さっきオレの動きが早かったからだろう。ナイフで喉を裂かれた男が倒れた場所から僅かに後ろ、死角になる場所だ。


 身を反らして避けると、続けてもう1回突いてくる。意外と腕も判断もいいな。避けながら感心したオレの足元に、巨大化した青猫が舞い降りた。


『主、無茶しすぎ』


 文句を言うブラウの顔が少し歪んでる。もしかして……?


「ブラウ、殴られたのか?」


『さっさと行けって、尻尾でね』


 この言葉でどちらが殴ったのか分かった。間違いなくコウコだ。空中で自由に走り回っていたブラウを掴まえて、尻尾で放り投げたのだろう。そういやコウコを掴まえたときに、執拗に尻尾を攻撃したのはブラウだった。やり返されたってことか。


 足元に絡みつくように近づいたブラウが背中を守ってくれる。一気に余裕ができたオレは、背筋がぞくっとする感覚に左側を振り返った。と同時に、指が動いて引き金を引く。


 考えるより早く魔力が流れるのがわかった。訓練で散々やらされた反復行為だ。引き金の指を魔力の操作と連動させれば、必ず銃弾には魔力が伴うのだ。魔力があれば必ず発生する結界を貫くために、銃弾に「しねぇ」の念ならぬ魔力を纏わせる必要があった。


 心臓や頭を狙わず、敵の肩を撃ちぬく。死人を作るより、大量のケガ人を作る方が有効なのは、この戦場でも同じだった。正規兵相手なら、この作戦は成功を収める。


「ヒジリ、シフェルにケガ人を沢山作るように説明しておいて」


『わかった』


 聖獣と契約していれば姿が見えなくても話ができる。これは影の中にいたときに気付いていたので、有効利用する。有線どころか無線いらずは、戦場で便利すぎた。そのうち携帯電話扱いされそうだ。


 倒れた男を引きずって下がる兵を確認すると、止血に1人、担ぐのに1人だった。1人やっつけると3人離脱は効果が高い。にやりと口元が笑みに歪んだ。


『ねえ主、顔が悪役みたいだよ』


「悪役上等! それよりブラウ。さっきは『オヤジにもぶたれたことないのに!』だろ。ちゃんとやらないと捨てるぞ」


 真面目に答えてどうする! ブラウはアニメ話の相手として契約したのに、そんなんじゃ契約を解除するからな。解除方法知らないけど……。


 抗議されたブラウが『主ってうざぁ』と呟いて、オレに蹴飛ばされた。


「このガキを捕まえろ!」


「人質にするぞ」


 分かりやすい悪役敵発言、ありがとう。北兵が上司の命令で動き出すが、こちらも地獄の早朝訓練をくぐり抜けた実績がある。簡単に捕まるわけがないし、自分から敵陣に飛び込んだ挙句に捕まったら殺される。


 絶対に、シフェルは助けるフリして止めを刺しに来る! 


「悪役のセリフって、定番だよな~」


 ナイフに付着した血を左腕の袖で拭った。左右を窺うと、先に飛び込んできた左側の男に銃弾をお見舞いする。右太ももを撃ち抜いて、オレは前転した勢いで別の男の胸にナイフを突きたてた。


「ミスった」


 舌打ちする。腹を狙う気だったが、構えた男が前屈みになったため予定が狂った。おかげで筋肉が多い部分に刺さった刃が抜けない。締まった筋肉に阻まれ、諦めて手を離した。空になった右手に、収納空間から予備のナイフを握る。


 使えるナイフはあと4本、ノアの包丁を入れても5本だった。足りなくなる前に決着をつける必要がある。ナイフを突きつけると、周囲が一歩引いた。


 後ろで砂利を踏む音がして、振り返るより早く気の抜ける声が響く。


『主、あぶな~い』


 妙に軽い口調でブラウが背後の敵に襲い掛かる。大きすぎる猫に押し倒された男が、腕を食いちぎられて叫んだ。凄まじい悲鳴と惨状に北の兵が数歩下がった。千切った腕を放り投げ、赤い血に口元を濡らした青猫がにたりと笑う。


「ホラーだな、ブラウ」


『酷いなぁ、忠臣蔵みたくない?』


「お前は忠臣蔵を間違えて覚えてる」


 あれは主君の仇を討つ話であって、化け猫が祟る話じゃなかった。


 身内ネタで軽口を叩き合う。取り囲まれた状態だが、誰も飛び掛ってこない。こちらから仕掛けるか迷ったところに、上空から声が届いた。


『主人、攻撃するから()けて』


 直後に炎が戦場を蹂躙(じゅうりん)した。コウコのブレスが、オレを囲む敵を焼き払う。と同時に、ブラウとオレは叫んでいた。


『燃ぉ~えるぅ~!!』


「あちっ、ちょ……マジかっ!」


 炎の勢いが強すぎて、オレの肌や髪がじりじり焦げる。ブラウは小さくなって炎をやり過ごそうとして失敗したらしく、尻尾に火がついた。本日の青猫の尻尾は厄日指定だ。


「コウコ、熱い!」


 逃げながら叫んだ足元がもつれて、真っ赤な炎が這う地面に転びそうになった。炎揺らめく地面にかろうじて残ったオレの影から、ヒジリが飛び出して空へ逃げる。


「……助かった、さすがヒジリ」


『赤龍には説教が必要だ、主殿が燃えるではないか』


 憤慨している心強い味方に「そうだ、もっと言ってやれ」と追従したオレだったが、上空で反省して項垂れる巨大な赤龍の姿に「叱れない」と呟いた。もう哀れなほどに反省してる。網の上で炙られる寸前のうなぎにしか見えないくらい、しょげている。可哀想過ぎて追い討ちなんて出来なかった。


「もういいよ、コウコも助太刀のつもりだったんだし」


 足元で騒ぐ兵から銃弾が飛んでくる。ヒジリは気にしていないが、これって当たったら痛いと思うわけで。


「もう少し上空で話しない? 撃たれそう」


『主殿……結界を張ればよいではないか』


 呆れた口調でヒジリに言われ、ぽんと手を叩く。そうだった、オレの結界は銃弾を防げる! 目に見えた方がわかりやすいから、薄い水色のガラス板を置くイメージで結界を展開した。見えるようにするだけで、いつもより魔力が減る気がする。ごそっと……大量に力が抜けた。


「う……気持ち悪い」


『こんなに強い結界、必要かしら』


 コウコが魔力を使いすぎと指摘すれば、ブラウはにやにやしながら失礼発言を繰り出した。


『主は魔力の操作が下手だから』


「せめて、苦手と言え」


 ブラウに反論しながら、ヒジリの背中に懐く。ぺたりと頬を寄せれば、やや冷たい黒い毛皮が優しかった。頬に触れる柔らかさはもちろん、やっぱりヒジリの背中が一番安心できる。


 しかし一人だけ安全地帯で毛皮と戯れている場合ではない。戦場の状況を見回して、自分が任された傭兵部隊を上手に運用しなくては……!?


「ヤバイ! ヒジリ、あの赤い布被った男の上でおろして」


『主殿?』


「はやく!!」


 指差した場所にいる大柄な男は真っ赤な布を、頭巾みたいに被っていた。その男の前で縛り上げられているのは、西の自治領で仲間になったユハだ。縛られる様子からすぐ殺される心配はなさそうだが、連れ去られた場合に彼は見捨てられる。


 自惚れるわけじゃないが、オレのときは救出する『価値』があった。異世界人で、皇帝陛下のお気に入りなのだから。しかしユハは違う。西の国から亡命した兵士に過ぎなかった。


 中央の国にとって、彼は救い出す価値がない存在と判断される。でもオレにとっては命の恩人 (仮)だし、何より部下をこれ以上死なせる気もない。


 ヒジリが宙を駆けて現場におりる。そこで気付いた。この場所が一番酷い戦場だった。血塗れの人が転がり、撃ち抜かれた腕を止血する男や足を引きずって逃げようとする奴がいる。


「貴様、どこから…っ!」


「さて、どこからでしょう。まずソイツから手を離してもらおうかな」


 怒りが突き抜けて、感情がちぐはぐに頭の中で踊る。遅れてきて味方の状況を把握できていなかった自分、オレの仲間である傭兵連中を傷つける北兵、捕まりそうな味方の姿まで――何もかもが怒りの対象だった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆

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