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【完結】魔法は使えるけど、話が違うんじゃね!?  作者: 綾雅「可愛い継子」ほか、11月は2冊!
第14章 お料理チートじゃね?

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69.戦場に遅刻したオレは必死で挽回する

「転移できない? なんで」


 一人だけ転移できない。とりあえず彼を下ろして、別の傭兵が乗ると転移する。つまり魔法陣は壊れていないのだが……困り顔のジークとオレ、楽しそうなレイルが残った。


 4人で魔法陣を睨みつける。


「早くしないと遅刻扱いだよな」


「ボス、おれらは置いてってくれ」


 ジークムンドの提案に呆れ顔で現実を突きつける。大柄でガタイのいい強面が、おたおたしていた。


「あのさ、置いていくじゃん? ジークの部隊が班長なしでちゃんと動くの、無理だよ。総指揮はオレだけど、脳みそだけ動いたって末端の神経が働かないと歩けないわけ。で、ジークを送るのは確定」


 泣きそうな顔の傭兵の尻を勢いよく叩く。


「お前も置いていくわけに行かないだろ。敵陣で2時間も1人じゃ死ぬし」


 置いていけば傭兵は間違いなく死ぬ。これから戦場へ2時間も歩いていけば、絶対に周囲を警戒している敵に見つかるだろう。その場合一人で戦って抜けられるか? オレは何とかなるが、まあ無理だな。気弱そうだし、なんで傭兵なんて職を選んだのやら。


 異世界人のオレの方が、よほど殺伐とした世界に馴染んじゃってる。


「それで、今回はどんな知恵で切り抜ける気だ?」


 興味津々のレイルが煙草を咥える。ほんのり甘い香りがする煙草をふかしながら、彼はわざわざしゃがんでオレに視線を合わせた。


「決まってるだろ。まずレイルが転移、次はジークだ。そこで魔法陣は燃やす」


「「はぁ?!」」


 ジークと傭兵がハモる。レイルは目を見開いたものの、煙草の煙を大きく吐き出しただけだった。前世界の煙草と違い、煙を吹きかけられても噎せないのは不思議だ。成分の違いかも。


「あれ? また使うなら魔法陣は回収するけど」


 燃やしちゃダメなのか。仕方ないから収納すればいいと前言撤回して、足元の影に声をかけた。


「コウコ、頼みがあるんだけど……」


『主人、契約した使役獣には命令するものよ』


 しゅるんと蛇サイズで出てきたコウコは足から上ってくる。ちょ、マジ気持ち悪いぞ。ぞくぞくするっていうか、肌が粟立つの表現はこういう場面で使うんだろう。ぞわっと鳥肌になるが、悲鳴は我慢した。


 これから頼み事をするので、機嫌を損ねたくない。


「オレとコイツを徒歩2時間の戦場まで送ると、どのくらいかかる?」


『最速で5分ね。落とさなければだけど』


「じゃあ、落とさないようにお願い」


 両手を合わせてお願いポーズをすると、コウコがくすくす笑いながら了承してくれた。首から肩にかけて絡んだ赤い蛇は、金色の瞳で傭兵を見つめる。


『あら珍しい、魔力なしなのね』


 魔法陣が作動しなかったのは、彼に魔力がなかったためか。今までどうしてたのかは後で聞くとして、レイルに魔法陣を示した。


「というわけで、最初に転移してくれ」


「お前は賢いから苦労するぜ? もっと手を抜いて楽に生きろ」


 忠告らしい。レイルは煙草の火を消すと、吸殻をポイ捨てして転移魔法陣に乗った。すぐに彼の姿が消える。ジークは傭兵と何か話しているが、オレはポイ捨ての吸殻を回収していた。やっぱり捨てるのは気分悪いし、見なかったフリも出来ない。


 戦いが終わったらレイルにたたき返してやろう。


 ここで彼がやられてしまうフラグは立たない。全員を犠牲にしても逃げ延びるタイプだから、変な心配は不要だった。どうせ戦いが終わった頃に、けろっと現れる奴だ。


「ジーク、早く」


「わかった。頼んだぞ、ボス!」


 ひらひら手を振って見送ると、ジークが転移した後の魔法陣を手早く巻いて収納した。残された彼は不安そうだ。気持ちは理解できる。ジークを無事に戦場へ送るために、体よく引き剥がしたと解釈されてもしょうがない状況だった。


 手ぶらになった状況で、コウコへ声を掛けた。


「悪いけど、戦場まで送ってって」


『構わないわ。それで、目的地は?』


「……え、知らない」


 そういえば、東の平原? 草原? みたいな曖昧な表現しか聞いてない。普通は転移魔法陣の間を移動するだけだから、問題ないんだろう。


「おれが知ってる」


「助かった。地図で示して」


 慌てて地図を引っ張り出すと、迷いなく一箇所を指差した。その場所は確かに山脈の間の開けた土地のように見える。ほっとして、隣のコウコを振り返った。


「これで平気?」


『ええ。大きくなるから乗って』


「頼むわ」


 コウコが一瞬で大きくなる。どろんと煙が出るなんて演出を期待してたが、まったくなかった。瞬きした直後に大きくなってた感じで、非常に残念だ。


「えっと、名前なんだっけ?」


「マークです」


「マーク、こっちきて」


 自分の後ろに座らせて、コウコの鱗を撫でる。艶々した赤は綺麗だが、滑りそうないやな予感がした。


「コウコ、落ちないよね?」


『魔力で固定するから平気よ』


 コウコの尻尾が大きく揺れると、ふわっと持ち上がった。遊園地で乗った遊具に近い、あの浮遊感が襲う。きゅっと足で締めるようにすると、後ろのマークが腰に手を回してきた。落ちたくない感情はわかるが、これだとお前が落ちたらオレも道連れじゃん!!


 振り返ると泣きそうを通り越して、マジ泣きしてたので……手を離せと言えずに諦めた。魔力がないなら、オレより怖いだろう。


 重力なんて無視した動きで浮き上がったコウコに乗った旅は、一言で快適そのものだった。いわゆる長時間バージョンの絶叫マシーン感覚だ。空飛ぶ龍を遮るものがないから、ほぼ真っ直ぐに戦場の上に到着する。


「「うぎゃあああああああぁ!」」


 2人して悲鳴を上げながら戦場に下りたのもご愛嬌だが、騒ぎすぎて注目を浴びてしまった。急降下したコウコの所為……おかげ? で胃のあたりがぶわっとした。ジェットコースターが急降下したときに、胃の辺りの内臓が持ち上がるような浮遊感に襲われて、思わず叫んでいたのだ。


「びっくり……した。でも助かったよ。ありがとう、コウコ」


『主人が楽しんでくれてよかったわ』


 おそらく悪気はない。本気で、絶叫するほど楽しんでくれたと思っているらしい。龍の表情はわからないが、少し口元が緩んでる気がした。金色の瞳が周囲を睥睨すると、さすがに巨大な龍にケンカを売る北兵はいない。


 北の聖獣らしいから、赤龍(コウコ)は有名なんだろう。ゆらゆらと浮いたまま大きな身体を揺らし、威嚇した状態で警戒してくれていた。そしてオレの後ろで、酔ってグロッキーなマークが潰れている。


 互角に近い戦力がぶつかる戦場は、膠着状態だった。どちらの兵力もほぼ同じ。北の国側はすべて正規兵らしい。4桁近い戦力同士の激突は、大河ドラマレベルの迫力があった。


「すげぇ」


「ボス、ほうけてないで指示をくれ」


 ジークに叱られてしまった。


「上から指示する。少し待って」


「遅いですよ、キヨ! 完全に遅刻です」


 シフェルの声にびくっとしたオレは、これ以上叱られるのを防ぐために動き出した。足元の影に向かって「ヒジリ、ブラウ」と呼びかける。飛び出したヒジリが女豹ポーズで伸びをした。隣でブラウは大きな欠伸をしている。


「敵の霍乱(かくらん)に動く。マークはジークの班と合流しろ」


「は、はい」


 なんとかゲロを耐えたマークがふらふらと傭兵部隊に合流するのを見送り、誰の背に乗ろうか迷う。乗りやすいのはヒジリか。


『主人はあたくしが乗せるわ』


『今回は任せる』


 ヒジリに譲られてしまったので、コウコの鱗に手をかけてよじ登る。最初から選択肢にのぼらないブラウが、旋風で北の兵を巻き上げていた。その合間を走りながら、黒豹が敵の連携を乱していく。動きやすいようオレをコウコに預けたらしい。


「やだ、皆えらい」


『早くして、主人。あたくしの出番がなくなってしまうわ』


「あ、悪い」


 主人のはずなのに叱られながら跨った。舞い上がったコウコの背から、戦場全体を手に取るように見渡せる。中央の国の勢いは強いが、全体的な人数だと北の国の方が多かった。まだ戦場に投入されていない余剰戦力すらある。


「コウコ、あの後ろの部隊を攻撃するから準備! ヒジリは前方から後ろへ敵を追い立ててくれ」


『主、僕は?』


「そのまま自由に北兵をやっつけてよし!」


 適当に指示を出して、各聖獣のやり方に任せる。左側に展開する傭兵部隊が圧倒的な実力を振り翳し、一気に敵陣を切り崩していくが、突出し過ぎだった。このままだと豆腐に突き刺した箸みたいに、敵だらけの中で逃げ道を失う。


「ジャック、聞こえる? このままだと囲まれるから、もっと左右に広がって、全体に面で押すように戦ってくれ。侵攻スピードは遅れて構わない」


 声は空気の振動で届くと知っている。だから指向性を持たせた風の筒を作って声を届けた。突然耳元でオレの声が聞こえたジャックが慌てて見回し、こちらに首をかしげる。だから頷いてもう一度念を押した。


「いい? 聖獣を使ってかき乱すから、こっちの損傷を減らして戦線維持に努めて」


「わかった」


 ジャックの了承とサムズアップを確かめて手を振る。コウコは魔力を溜めて、口の中にブレスの準備をしていた。


「お待たせ、コウコ。やっちゃって! 出来るだけ派手にお願い」


 ぶわーっと炎が敵陣を襲う。火炎放射器のようにまっすぐ飛んでいく火が、敵の頭上から降り注いだ。騒いで逃げ出す兵を見ながら、降下したコウコの背から飛び降りる。


『主人っ!?』


「大丈夫、後で迎えに来てね」


 ひらひら手を振って、猫のようにくるんと丸まって着地する。高さはあるが、風を操れば足が痺れたりしないで下りられた。周囲は全員敵の状態で、腰のベルトから銃を抜く。


 カチャ……撃鉄を上げる音がした左側へ銃口を向けた。右手でナイフの柄を握る。パニックになった敵兵は目の前の小さな敵より、自らの安全優先で逃げ惑っていた。頭上から襲い掛かる聖獣の炎や風の刃が、北の兵だけに襲い掛かる。


「このガキ、どこからき…っ」


 正規兵とは思えない汚い言葉を途中で遮る。ナイフで切り裂いた喉が、ぱくぱく動いた後で血を吹き出した。倒れる男の姿に気付いた兵が数人オレを取り囲む。武器も魔法も使える状態で、あの地獄の訓練に比べたら生ぬるい戦場――負ける気はしなかった。


「ある程度挽回しないと帰れないからね」


 緊張して強張るどころか、敵陣の中で笑みを浮かべる余裕すらあった。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆


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