63.次の戦場までに簡単クッキング!
まあね、オレだって勝ち続ける部隊がいれば利用するけどさ。そいつらに厳しい戦場を任せて、軍全体のバランスを取ろうとするけどね。
総指揮を任されたシフェルの判断に、ちょっと意地悪が混じってるんじゃないかと疑いながら、捕虜を縛り上げるよう命じた。黙々と仕事をする傭兵さん達の優秀なこと。感謝しかない。
指揮官自ら捕虜を縛るのもおかしいので任せたが、実際はもっと切実な理由があった。オレが縛ったら瘤結びにしかならない。硬結びっていうのかな? どっちにしろ素人だから人を拘束する縛り方なんて知らない。まあ、亀甲結びとか出来ても嫌だけどな。
『主殿、戻ったぞ』
「お疲れさん、ヒジリ。コウコとブラウもありがとうな」
帰ってきた聖獣を撫でて労っていく。それぞれに影に沈んだり首に絡まったりする姿を見て、北の兵達が青ざめた。ちなみにジークムンド達の手際がいいので、すでに半数は縛られて転がっている。
「聖獣を3匹も従えているのか……」
呆然とした兵の声を聞きながら、オレはのんきに別のことを考えていた。そうか、やっぱり獣だから○匹って数えていいんだ……。人じゃないし、単位をどうしようか迷ってたんだ。
自動翻訳があるから多少のおかしな日本語は直してくれると思うが、単位はどう訳されるかわからない。へんな数え方すると、きゅっと首が締まりそうな予感……あ、フラグはいらないぞ。
「キヨ……おい、キヨ! 聞いてるのか?」
肩を叩くレイルを振り返ると「しょうがねえな」と苦笑いされる。暮れ始めると早い夕暮れは、あっという間に薄暗い時間帯へ突入していた。
「ごめん、何?」
「野営場所だ。ここにテントを張るぞ」
足元を指差され、少し考えて頷いた。知らない敵地で暗い中を歩くのは無理がある。しかも足手纏い確実な捕虜つきだ。回収部隊が来るまでここで待つのが、一般的な指揮官の判断だろう。
念のために水対策で、もう少し土地を持ち上げておくか。もう川が溢れる心配はなさそうだけど、寝ている間にひたひた水が襲ってくるのは御免だ。
「わかった。この丘を大きくするから待ってて。ヒジリ、お願い」
『命じればいいものを、願うとは……主殿は変わっている』
「丘を5倍くらいにして。平たく大きく」
身振り手振りで伝えると、台形の古墳みたいに土地が持ち上がった。うん、塹壕造りのときも思ったけど、意外と土魔法って便利だ。
「ありがとう、ヒジリ」
『主殿ならもっと簡単に成すだろうに』
抱き着いて黒い毛皮を撫でると、嬉しそうに尻尾を振りながら口は悪態をつく。ツンデレは装備しなくていいぞ、ヒジリ。ぐりぐりと喉の下を撫でる。
「テント保有者は準備して」
収納魔法は20人くらい使えるが、たぶんこの戦場でテントを持ってこれるほどの容量がある奴は少ない。オレが知っている限りで、レイルとノアだけ。見回すと、他にも収納能力のある奴がいたらしい。テントの準備が始まっていた。
「レイルとノアも用意して。オレの方は……ジャックとライアンに手伝ってもらう」
自然とサシャはノアの手伝いに回った。このグループは本当に仲がいい。オレが2人も手伝いを要求したのは、テントが2張りあるからだ。
収納魔法の口を低い位置に出して、しゃがんで手に触れたテントを引っ張る。外に出た部分をジャックが一緒に引いてくれたので、後半はすごく楽だった。骨組みを一式取り出すと立ち上がる。
「ライアンはこっちでお願い」
「おう」
ライフルを肩にかけた金髪の青年が近づいてきた。一緒に移動してから、また収納口を開いてテントを取り出す。先日大量に入ることに驚いたシフェルによって、大量の資材や弾薬を持たされた。幸いにして聖獣3匹と契約して魔力量が増えたため、負担は感じない。
収納魔法もイメージだけで作ったので、オレの収納量は無限に近い。収納魔法は別空間だから際限なく何でも入り、中では時間が止まる……と思っていた。というか、映画で見た収納魔法はそのタイプだった。だから素直に出来ると思って試してしまったのだ。
西の国に攻め込む前にシフェル達に容量の異常さを指摘され、初めて自分の魔法が規格外だと自覚したほどだ。まったく気付いていなかった。
しかも中途半端な知識だったため、中の食料品は数ヶ月すると腐る可能性がある。中の時間を止める認識が甘かったのかも知れない。保管したパンにカビが生えたので、時間は確実に動いている。
「テント足りたかな~。足りなければ持ってくるか」
転移魔法陣が一組余っているので、気軽に提案した。取りに戻れば何でもあるし、考えてみれば転移魔法陣をつないで食料品や物資を送り込んでもらったら簡単じゃないか!
「どこから持ってくるんだ?」
「転移魔法陣を繋いで、物を送ってもらえば」
「「「はぁ?!」」」
あ、またこの展開か。今回はどこが「非常識」呼ばわりされるやら。
「転移魔法陣を何に使うか理解しているか?」
「え? 物や人の輸送だろ」
「……異世界人だったな、キヨ」
諦めたような顔で溜め息をついたライアンが、くしゃりと髪を乱した。この世界の奴はやたらとオレの頭に触れるが、何か意味があるのかな。今度リアムに聞いてみよう。もしかしたら親愛を示す行為かも知れないから。
「転移魔法陣は人の移動に使う。人が手にしている物は一緒に移動できるが、物単独で転送できないぞ」
「どうしてさ」
「さあな」
それって……試したことがないからわからないレベルの話? 試したら、意外と物も普通に転送できちゃったりして。まあ検証は今度にしよう。
「不便だな~。オレはさ、魔法ってもっとオールマイティに何でもできると考えてた」
「制約が多いから魔法だろ」
「ボスは変わってるな」
苦笑いしながらテントを組み立ててくれる傭兵達に、にやりと悪い笑みを向ける。びくっと肩を揺らした彼らに、収納口から取り出した食べ物をちらつかせた。
「いいのか? そんな口利いちゃって。美味くて温かいメシ用意するつもりだったけど、やらないぞ?」
茶化した口調で揶揄りながら、張ったテントの前に机を置いた。上に食料品を並べていく。
「食べられるもの作れるのかよ!」
揶揄いに乗った野次に応えて、鍋などの調理器具も取り出した。机がいっぱいになる量の食料品を確かめ、足元の影に声をかける。
「ヒジリ、かまど作って。こういう丸い形で上に穴開いてるやつ」
がりがりと出来上がりイメージのイラストを描けば、黒豹は『ふむ』と頷いてかまどを作った。上に開いた穴に水を張った鍋を置いて………落ちた。
「ヒジリぃ、上の穴を鍋が落ちないように小さく」
『主殿が作ったほうが早かろう』
文句を言いながらも調整してくれるヒジリが、上の穴を少し小さくしてくれた。今度は鍋が素直に上に乗る。ぴったりだ。ついでに数を4つに増やしてもらい、鍋も4つ用意した。
「ありがとう、ヒジリはやっぱり偉いな」
撫でて喉をごろごろ言わせる聖獣に寄りかかって、収納魔法で持ってきた薪をかまどに並べていく。確か地面近くに数本並べて、それから上に立てるようにするんだっけ? 三角を作る形に組み上げてから火をつけようとして、首に絡んだコウコに触れた。
「コウコは火をつけて。全部炭にしちゃ駄目だぞ」
『お安い御用よ』
ふぅ…とコウコが息を吐くと、ぽっと火がついた。小さな火はあっという間に薪を炭にしていく。立ち上がって食材が並んだ机の前に、調理用の机を追加した。
「ボス、捕虜はどうする?」
「逃がさないようにしてくれたら、後はジークに任せる」
ジークムンドにすべて預けたのは、これ以上一人で抱えるのは無理だから。ジャック達のグループは何をしてもオレについてくる。ならば、捕虜を管理するグループを別に選ばないといけない。
いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ
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