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62.圧倒的勝利による弊害

 先頭を走る奴から順次撃ち抜いていく。逆に飛んでくる銃弾は結界が弾くため、こちらは無傷で敵にのみ損傷が出ていた。


「この結界は欲しいな」


 ベタ褒めのレイルは銃弾を追加で装てんしながら、目の前で弾かれた『無機物』分類の銃弾を拾い上げる。結界にぶつかった銃弾は先端がへしゃげ、サイズが半分ほどまで縮まっていた。テレビで観た厚い鉄板へ撃ちこんだ銃弾に似てる。


「あげてもいいけど、作り方を説明できない」


「……あげてもいい、のか?」


 横からノアが口を挟む。レイルに……というより、自分が開発した特別な結界を誰かにあげる考え自体が理解できないようだ。隣で応戦しているジャックがほえた。


「おい、話しててもいいが手を止めるな!」


 まったくもってその通りでした。囮なのに撃つのをやめたら、敵がバラけてしまう。慌てて銃を構えて先頭の男に当てる。今回は全滅させる必要はないので、わざと太ももや肩を狙った。


 倒れる敵が傭兵ならこんな手段は使わない。


「なぜ殺さない?」


「今回は全滅させる必要ないし、ケガの方が敵が早く減るぞ」


 オレの省略しすぎた言葉に、レイルは「なるほど」と敵に銃口を向けて同じように肩や胸を狙った。しかしジャックやノアは首をかしげる。


「前に言わなかったっけ? 戦場でケガ人が出ると救助や治療の人間が必要じゃん。1人を重傷にすると、2人以上が戦場を離れるって計算が出来るんだ」


「ひでぇ……」


「効率的だが酷い手だ」


 聞いていた傭兵やジャックが顔を引きつらせる。それはそうだろう。オレだって卑怯な手だと思うぞ。自分に対してやられたら嫌だが、効果的なのも事実だ。


「あいつらは正規兵だ。つまり見殺しはない」


「そうだな。傭兵相手ならお前は違う方法で戦っただろう」


 ノアは納得した顔でぽんとオレの頭を叩いた。理解してくれたようで、ジャックも敵の足を狙って撃ち抜いている。


 傭兵で組織された部隊なら、隣の男が撃たれて苦しんでも見捨てるはずだ。たとえ仲のいい友人だろうと、助ける余裕はなかった。正規兵だから通用する手法だった。邪道だと罵られようと、オレは仲間を生かす方法を選ぶことに躊躇はしない。


「まあ、いきなり殺されるよりいいかもな」


 後ろで伏せて狙撃していたライアンが声をあげた。彼のライフルの場合、下手に肩を撃つと最終的に相手が死ぬ可能性が高い。殺さないよう気遣う義理もないが、本来は一発で相手を沈黙させる技術が彼の売りだった。


「そろそろ、か」


 頭上から攻撃するコウコは、敵の動きを誘導するように左右の敵を中央を集めていく。細長くなった敵がすべてV字に飲み込まれたのを確認して、オレは頭上へ大きな花火を放った。


 収納魔法の口を開いて取り出したダイナマイトを核にしたため、思ったより派手な花火になった。飛び散る火の粉がこちらまで落ちてくる。


「ちょ……キヨ、熱いっ!」


「悪い! つうか、火は通過するんだ?!」


 自分でも混乱して落下する火を避けた。花火を真上に打ち上げたので、ジークムンド達に被害がなかったのは幸いだ。落下する火の粉がぶわっと急激に燃え上がって散る。本物の花火みたいに、粉々に散って温度がない光だけが落ちてきた。


「コウコ、ありがとう」


『……主人ったらドジなんだから』


 彼女が燃やしてくれたらしい。綺麗な火花が降る戦場は、一方的な展開になっていた。飛び出したジークムンドを筆頭に、傭兵が塹壕から撃ちまくる。視点が低い塹壕からの銃撃は、ほとんどが敵の腹部や足に当たった。


 逆に敵から撃つ銃弾は、塹壕の壁にぴたりと背を預ければ当たらない。左右から挟み撃ちも想定外だった敵が右往左往して、混乱の中で数を減らしていた。


 残存した敵の中で戦えるのが20人を切ったところで、合図を送った。


「はい、終了~! 降参する気があるか、敵に確認して」


 オレの指示に変な顔をするが、ジャックが通達に出てくれた。両側の傭兵が攻撃をやめたことで、敵は挙動不審になっている。状況がつかめないのだろう。すぐに降伏勧告が行われ、両手を挙げて武器を捨てた連中が一箇所に集められた。


 手足を撃ち抜かれて戦闘不能な連中を集めても、45人ほどか。銃を突きつけて反撃を封じるジークムンド達が手を上げて挨拶する。


「よ、ボス。さすがの手並みだ」


「お疲れ、ボス」


「皆にケガはない? ケガしてたらすぐに治療してね」


 応じながら大量の絆創膏もどきを手渡す。受け取った傭兵が首をかしげているが、理由がわからずオレも首をかしげた。


「なに?」


「いや、こんな高級品を傭兵に惜しみなく使うなんてさ」


「ケガしたら使う物なんだから、大事に保管しててもしょうがないでしょ」


 肩を竦めて、傭兵の横をすり抜ける。後ろで礼を言いながら頭を下げる彼に続いて、絆創膏もどきを貼り付けた数人からも礼を言われた。


 オレが思っていたより、傭兵の扱いって酷かったんだな。


「貴様のようなガキが指揮官だと?!」


 元気いっぱいに噛み付いてきた敵兵に、ちょっと感動した。戦争映画で観たけど、本当にこういう対応しちゃうのか。自分達が負けたのに、今は囚われの身なのに……立場考えずに発言するなんて、映画の中でしかあり得ない。現実でそんなバカな奴はいないと考えてたけど、いた。


 ガチャ! 銃の撃鉄を起こす音がして、叫んだ北兵の頭に銃口が押し付けられる。だよね、そういう扱いされるよ。オレも映画観ながら「殺されるぞ」って思ってたもん。


「二つ名持ちを従えるボスに対して、随分な言い様じゃねえか」


 やだ、ジャック…格好いい。某ハリウッド俳優みたいだ。ここはあれだろ、オレも映画の主人公観たく格好いいこと言う場面だよな!


「やめておけ、負け犬の遠吠えに構う暇はない」


 あれ? なぜか悪役のセリフっぽくね? 少なくとも正義の味方には聞こえない。何か方向性を間違った気がした。少し離れた場所で腹を抱えて笑うレイルは、あとでとっちめるとして。


「いいのかよ、ボス」


 普段はキヨと呼ぶくせに、敵の前だから情報を与えないためにボスと呼ぶんだろう。分かってても擽ったい。こう首の後ろがむずむずする感じだった。不満そうなジャックに、笑顔を向ける。


「いいも悪いも、決めるのはオレじゃない。逆らうなら殺すだけだし、大人しく従うなら本部に引き渡すだけだろ。オレとしては逆らってくれてもいい」


 言葉の裏に「面倒だし、そうしたら撃ち殺す理由が出来るのに」と滲ませれば、引きつった顔の北兵達が俯いた。二つ名持ちはみんな「当然だ」と頷いて同意する。


 近づいてきたノアが不思議そうに小声で尋ねた。


「なあ、キヨ。面倒なら降伏勧告なんてしなければいいのに」


「そう思うだろ? でもさ、オレが勝手に全滅させたら、外交的に問題が生じるじゃん。やっぱり正規兵相手だと降伏勧告は必須らしいんだよね」


 出陣前にしっかり釘を刺されたので、さすがに知らなかったフリは通用しない。まあ、最初の戦闘に関してはコウコもいたし、言い訳はさせてもらうけど。


 ひそひそ話が終わったタイミングで、ジークムンドが声をかけてきた。


「ボス、北での戦闘は一段落で帰れるんだろ?」


 やだな、そんなフラグみたいなこと……。さすがに2連戦したオレらに、次の戦場へ行けなんて言えないだろう。そんなの過剰労働だ。抗議するぞ。


「さすがに帰れると思うぞ」


 温く湿った風の所為で汗が噴き出す。取り出したタオルで無造作に汗を拭い、オレは結んでいた髪を解いた。涼しい風が吹けばいいのに。


「残念だが、キヨは野営の準備が必要だ」


 言葉ほど残念そうじゃないレイルが、笑いながら通信用のイヤーカフを指差す。何らかの指示を受け取ったのだろう。さらさらとメモを書いて手渡した。敵兵に内容を報せないためだ。


「ん……本当だ」


 さっきのフラグはもう回収かよ。書かれていたメモは『2連勝おめでとう。捕虜は回収部隊をまわすので、あなた方は野営して明日の早朝、東側の平原で行われる戦闘に参加されたし』という無常なものだった。


 帰れるのはもう少し先になりそう。勝ち続けた部隊を頼るのはわかるけど、これも一種の試練だろうか。皇帝陛下の隣に並ぶには、もっと功績が必要らしい。大きな溜め息を吐いたオレは暮れ始めた空を見上げた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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☆・゜:*(人´ω`*)。。☆

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