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61.異世界人の知識は、非常識なほど便利でした

 拾った木の棒で地面に線を引く。音を立てて横線を引き終えると棒を捨て、後ろにいるジャック達を振り返った。


「この線の上に結界を張ったから。ケガをしたり危ないと思ったら下がってくれ」


「結界にぶつかるんじゃないか?」


 当然の質問だ。ライアンに親指を立てて、満面の笑みで言い切った。


「問題ない。この結界は通り抜けできる。こうやってね」


 自分で通り抜けて見せる。レイルは興味深そうに結界に手を這わせて押していた。そっと触ると手に感触があるが、強く押すと水の中に入るような感じでするりと通り抜ける。レイルの動きを見ていたジャックが、同じように結界を撫でた。


「奇妙な結界だが、これは何を防ぐんだ?」


 戦いに魔法は使えない。炎や水をたたきつけても霧散してしまうのは理解した。だが銃弾に込めた魔力は通過できる。この世界の住人にとって、魔力を使った結果である魔法と、魔力そのものは別だと考えられていた。


 そこに異世界人であるオレの考えが加わると、こうなる。


「銃弾。正確には魔力を込めた物体かな」


 すごく便利だと思うのだ。イメージの元はSF映画で観た『濡れない水』だった。粒子の大きさがどうとか、そんな理論が並べられたが詳細は覚えていない。ただ手を入れても濡れない水の映像だけが脳裏に焼きついていた。


 その濡れない水を結界の膜にした。最初は魔力を通さない膜を作ろうと考えたが、それだと自分も通り抜けられない。魔力を帯びているのは聖獣も人も銃弾も同じなのだ。


 前世界の知識に『有機物』『無機物』という概念があることを思い出し、無機物だけを弾くように願った。生きている人間や聖獣は魔力があっても通れるが、銃弾や土などの無機物が魔力を纏っても通れない。発想の力がそのまま魔法に反映できる世界でよかった。


 ある意味、カミサマがくれた一番のチートは魔法のあり方かもしれない。


「「「はあ?」」」


「また非常識な」


 いい加減聞き飽きる反応だが、彼らにしてみれば他に言葉が見つからないのだろう。


 驚いたノアが結界を撫でたり押したりして確認し始めた。近くで見ていると、パントマイムの練習みたいで面白い……が、笑うのは失礼だ。


「とにかく、銃弾は通さないから安心して」


「キヨが言うなら信じるさ」


 ジャックが男前なセリフを吐く。やだ、女だったら惚れるじゃん。顔怖いけど。


「お前の使う魔法は、金になりそうだ」


 くつくつ喉を震わせて笑うレイルは納得したらしい。銃弾を装てんしながら、淡々と準備を整えた。


「レイルは、悪ぶった言い方が好きだよな」


 だから誤解されるんだと呟きながら、オレは首に巻きついたコウコを撫でた。


 ぶわっと暖かい風が吹く。荒地で風が吹けば埃を舞い上げるものだが、川が氾濫した今は生臭さと湿気が押し寄せた。涼しさや爽快感はまったくない。


「うわっ……ぬるい」


 無機物だが風は通るらしい。眉をひそめたオレの首から、コウコが飛び降りた。見る間に大きさが数倍になる。最初に見た姿よりは小さいから、細かく調整が効くのだろうか。


『主人が戦うなら協力するわよ』


 瞬く瞳は金色だ。今まで出会った聖獣はすべて金瞳で、かなり綺麗だと思う。アナコンダサイズの大きな蛇に、ノアが顔を引きつらせた。彼は蛇が苦手かもしれない。


「ここに飛び込んでくる敵を上から攻撃してくれる? 方法は任せるから」


『任せて』


『主殿、我も』


 影から顔を出すヒジリに右側の塹壕を指差した。


「あっちをお願い。ジーク達を連れて帰りたいから、死なせないで」


『ふむ、主殿の願いであるなら』

 

 影から飛び出したヒジリを撫でてやると、満足そうに喉を鳴らしてから走っていった。突然飛び込んでも攻撃されないあたり、ジーク達も聖獣に慣れてきたんだろう。


「さて、ブラウはどうする?」


『……残った左側を守るの? 主』


「いやならいいよ、契約解除するから」


 オレの影から顔だけ出した青猫に、にっこり笑って銃口を向ける。こんなのじゃ死なないだろうが、ちょっとした脅しにはなった。


『協力しますです、はい』


 奇妙な言葉遣いで這い出てきたブラウは、やはり猫だからか。何か仕事をするより寝ていたいらしい。仕方なさそうに歩く背中に声をかけた。やる気は大切だ! 生存率に直結するからな。褒美をちらつかせるのが、一番早い。


「きちんと仕事したら、焼き菓子をやるぞ」


『焼き菓子……主のクッキーがいい』


 この世界の焼き菓子はもそもそした食感で柔らかい。しかしオレが作るクッキーは前世界のイメージで焼いたから、さくっと食感が好評だった。好評先が皇帝陛下や公爵閣下だったりするので、高級菓子に分類されている。


 以前に焼いたクッキーがそろそろ尽きるので、この戦場が片付いたら城で焼く予定だった。愛しの皇帝陛下に献上しなくてはならない。


「焼き立てを用意してやるよ」


『主! 僕は仕事の出来る猫ですから』


 先ほどまでと打って変わった勢いで走っていく。左側の塹壕にブラウ、右側はヒジリ。中央はオレが陣取って上からコウコ……ほぼ完璧な布陣だ。


「よし! 準備終わり」


 地図を広げなくても、近づいてくる敵の位置が感知できる距離になっていた。





 最初の攻撃は、当然だが北の兵だった。的になるため丘の上に陣取ったオレ達は、彼らにとって最高の獲物だ。銀に近い金髪のガキが指揮官だと聞かされた兵は、貴族の坊ちゃんが旗印なのだと勢いよく攻め込んできた。


 地上に描いた大きなV字の先端部分に当たる丘で、オレは取り出した椅子に腰掛ける。敵を挑発するためだ。こうして余裕を見せてバカにすれば、彼らは一直線にオレ目掛けて突撃するはずだった。周囲に目もくれずに……そして大事なことを見落とすのだ。


 思惑通り彼らは周囲に散らばらず、真っ直ぐにオレ達を目指して走ってくる。上空で長身を揺らめかす赤龍がこちらに視線を寄越した。


「コウコ、そろそろいいぞ」


『わかったわ、主人』


 赤い龍が大きな身をくねらせて、息を吸い込んだ。吐き出したのは炎だ。いわゆるドラゴンブレスに近い攻撃だった。火炎放射器のように敵を焼いていく。


「なんでオレにはブレスを使わなかったんだ?」


 ぼそっと疑問を口にすると、コウコに届いたのか。彼女はもう一度大きな炎を見舞ってから振り返った。


『声を封じられていたからよ。あの紐が喉を封じたから、息に炎を乗せるブレスが使えなかったの』


 どうやら声を出すときの振動を利用してブレスを作るらしい。そのため、喉を封じられるとブレスが使えなかったのだ。赤龍をオレに嗾けたいなら、もっと方法を吟味した方がよかったんじゃないか? 見えない敵に苦笑いする。


「そっか、上空は任せるぞ」


 答えるように、コウコがもう一発ブレスを放つ。一気に敵の数が減っていく。取り出した地図を足元に置いて、減っていく敵の数と動きを確認した。


「作戦通りだな」


「そろそろ、おれらの出番か」


 にやっと笑うジャックは、顔の傷があるため凶悪だ。殺人犯って感じの怖さがある。中身は面倒見がよく貧乏籤を引きまくる、優しいオトンなのだが。


「もう少しひきつけて一気に片をつける」


「わかった」


 ノアも愛用の銃を構える。ライアンは丘に伏せて狙撃銃を2丁セットしていた。交互に使うのか、片方は予備なのか。姿の見える狙撃手は目立つ。2発目を装てんする時間もあり、あくまでも陰から隠れて敵を狙うのが彼らの手法だった。


 しかし今回のライアンは平地にいる。彼を守る役が必要だった。


「ライアン、誰か頼んだ?」


「おれが残る。任せろ」


 丘に半月刀を突き立てたサシャが親指を上げる。手榴弾らしきものをベルトに下げ、銃を手にしていた。遠距離も近距離も対応できる万全の体勢を整えたサシャへ、同じようにサムズアップで応えた。


「先にいくぞ」


 一声かけたノアとジャックが動く。結界を示す足元の線を越えない位置で、銃を構えた手を突き出す。銃だけ結界を抜けた状態を確認し、彼らは銃撃を始めた。

いつもお読みいただき、ありがとうございます(o´-ω-)o)ペコッ

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