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惑星パンドーラ03

 一番にゲンリフとセレンがシールドを張って前進。

 通信の中に空電ノイズが混じる。どちらか二人が〝切り札〟を使ったらしい。

 制圧射撃を行いながら一時的な壁を作り、後続のカンガと俺がその後ろを滑る様に走り抜けて散開する。


『ソナーを打ツ』


 手近な障害物コンテナに駆けこむ。その最中、視界が開けた一瞬にカンガの機体が小さな筐体を射ち出した。

 コンテナに背を押し付けると同時に、着弾したそれが高周波で空間を震わせると、その反射波を受け取ったベルが解析して、レーダーとメインカメラの映像へ敵の姿を簡易的なシルエットで合成する。


 ――すぐ近くか


 レーダーを確認してすぐに、背にした横長のコンテナに沿って走る。上体を捻じりつつ左腕を機体正面に掲げて構える。


 コンテナの角から砲身と共に顔を出した敵機。

 それを裏拳の様に左腕を振り抜いて殴り付ける。すると敵機の持ち上げかけていた火器を弾き、在らぬ方へと砲弾を吐き出させる。

 次に敵機へ機関砲を押し付けようとしたが、それを強く弾かれて逆に、こちらが右後方へ姿勢を流す事となった。その隙を狙う敵機を左足で蹴って引き剥し、身を翻して狙いもそこそこに機関砲を構える。


 しかし、想定以上に接近していた敵機にそれは跳ね除けられ、懐への侵入を許してしまう。敵機の砲口、黒々とした冷たいうろが間近に迫る。


 思わず、ヘルメットの内に大きく響く程の歯噛み。人の生を藁の様に踏みにじる、嫌味な悪魔の足音だ。


 だが、悪魔はその手を払われた。それはもう、強かに。

 敵が踏鞴たたらを踏みながら、仰け反り返って上を向く。高々と響く金属音。一拍遅れて脇を駆ける紫電。

 カンガの電磁投射砲レールガンの狙撃だった。一〇ミリ小さな砲弾ではあるが、亜光速にまで加速されたその矢弾は甚大な被害を与える。

 態勢を立て直そうとしたものの、更に二射目を膝に受けた敵機は堪らず手を突く。


『はい!! お疲れさーん!』


 そこを横合いから爆轟に吹き飛ばされ、あっけなく散ることになった。

 セレンの両手持ち大口径榴弾砲だった。一五五ミリの単発式榴弾砲で弾速も遅いが、そうまでして追求した火力は、伊達では無い。

 とにかく、命拾いしたらしい。


『よーし! ボーナス確定っす!!』

『余計だっタか?』

「いや、助かったよ」

『良カった』


 返す返事もそこそこに、ふらりとコンテナの陰に消えていく。遊撃に徹してくれて居るらしい。


『――2-4からパイロットへ!! 奴ら、クレーンを潰しやがった!』


 そう叫んだ歩兵隊は、確保した研究者の数名を連れて離脱する、と残して通信を閉じた。


『一機撃破。もう一機、俺が抑えてる。誰か――奴ら、逃げる気だ!!』


 彼の機体がマークをした方では、マスドライバーが起動。連なる様に電極レールが立ち上がり、電力供給が始まっている。そのレールの上では、コンテナを手に掴んだ機体が、シャトルの隔壁の内側へ潜り込んでいく所だった。

 それ見て走り出す。傍の二人も同様だった。ここからでも攻撃は届くが、より大きなダメージを与えるならば近い方が良い。


『そっちに行ったぞ!!』


 ゲンリフの制圧の中を、無理やり突っ切って接近する敵機。武装は無く、空になった手をこちらに伸ばす。攻撃を受けてバランスを崩しながらも一直線に突っ込んでくる。


「嫌な感じだ……〝切り札(ワイルドカード)〟を使え。最大だ」

『了解。サブバッテリーを接続。制限を解除』


 〝切り札(ワイルドカード)〟とは、リアクターの最大稼働に、予備動力を上乗せして、一時的に機体の出力を底上げする物だ。

 粒子装甲の強度も上がるというオマケも付いているが、その所為で通信にノイズが混じる事になる。

 制限解除のカウントダウンに伴って、通信の空電ノイズが大きくなり――


『《ワイルドカード》――オンライン』


 足を踏ん張り、敵機と激突。底上げされた出力はこの程度では揺らぐ事は無い。

 そのまま相手を、膝で蹴り上げ宙へと浮かせ、その腕と胴体を掴む。それを無理やり振り回し一回転。マスドライバーへと投げ飛ばす。

 同時に地を蹴り飛び出して、味方の二人の機体の前に立つ。


 虚空を裂いて一秒。

 味方の上を飛び越して、あわやレールへ激突という所で敵機は光に呑まれた。その光は空間を焼き、敵機の残骸たる破片を撒き散らした。その爆風をもろに受け、間近に居た二人と共に後ろに吹き飛ばされる。

 それは爆発。リアクターとして使われている縮退炉、その暴走による自爆だ。


「っ、どうだ!?」

『損害多数。関節モジュールにエラー』


 ノイズ塗れのモニターが吐き出した、エラーウィンドウを弾き飛ばし、炎の向こうを睨め付ける。様子を伺うその様は、期待かあるいは懇願か。それは自分も分からない。

 熱でひしゃげたレールの上で、煙の尾を曳き火花を散らし、炎をズルズル引き摺るシャトル。多少の煤には塗れたものの、その機体は未だに健在でゆっくりと滑っていく。


「――追撃だ」

『了解』


 各々が、自分の震える機体を起き上がらせて、再度攻撃を開始する。

 自分の四〇ミリの砲弾。

 一〇ミリの亜光速矢弾。

 一五五ミリの大型榴弾。


『悪い、待たせた』


 その言葉で加わる、三〇ミリの徹甲弾雨。


 それらはシャトル機体の表面より僅かに手前で弾かれる。特別、シールドが硬いらしい。

 攻撃を受けても平然と進むシャトル。それを走って追い掛けながらの射撃。ダメージの溜まった機体では、正確な射撃は難しい。

 初めは鈍亀の様だったが、すぐに外付けの大型推進装置の噴射も受けて、あっという間に加速を伸ばして飛び退る。

 大型推進装置を使い切り、レールから飛び立った頃には、追い縋る弾の初速を超えていた。


『っ、駄目か……!』

『まだ、手ハ在る』

「手伝おう」


 そう言って構え直したのはカンガ。亜光速で弾を吐き出す電磁投射砲ならば届く。

 カンガの機体を支えるために、各々が動く。

 ゲンリフが電磁投射砲の下に潜り、砲架の代わりとなる。セレンがカンガの機体の上半身を支える。俺は椅子だった。


『〝切り札(ワイルドカード)〟を使ウ』


 機体からは空電ノイズを撒き散らす。

 それと共に、冷却の為に電磁投射砲のレールを覆っていた上下の構造体が展開。正面から見てH型となった砲身をシャトルへと向ける。

 シャトルを睨んだ電磁投射砲は着々と電力を溜めていく。


 紫電一閃。


 莫大な電力を背負った矢弾は、目を焦がすほどに強烈な雷光を発して、シャトルの推力ノズルを穿つ。

 爆炎を噴き出していた推力ノズル。一瞬、そのノズル自身が炎を吸い込んだかの様に、炎がノズルの内に巻き込まれる。次いで、内側からの爆炎で膨れ上がり、シャトルは火球に包まれた。


 だが、思わず眼を見張ったのはその後だ。

 撒き散らされた破片と爆炎、それらは放射を描いて散らばるものの、直ぐに地に曳かれて堕ちる筈だった。

 だと言うのに、その残骸たちは堕ちる事無く、虚空に停止。膨れる爆炎も同じ動きを見せた後、何かが揺らめいた。

 その揺らぎが一際大きくなったかと思うと、それらは捻じれて歪み、渦を巻く様に、音も無く爆心地へと沈み込んでいった。

 まるで、洗い場の水が排水溝へと流れていく様に、何もない虚空に残骸たちが抵抗も無く水の様に沈んでいった。

 跡形も無く、爆炎も煤も平らげた。




 後から聞いた話だが、それが〝シンクカノン〟の力。悪魔の兵器の力だった。

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