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プロローグ

『――よう、坊主。待たせたな』


 それは、僕たちをいじめる〝せいふのくそやろう〟じゃなくて。

 僕たちを守ってくれる、強くて、かっこいい、ヒーローだったんだ。


 ***


 僕はジョージ。惑星アトレーユのトリティクムって所に住んでる。

 とても広くて風が気持ちいい草原がある所。

 そこで僕は家族と楽しく暮らしてた。……ううん、家族だけじゃない。

 前までは皆がニコニコしてて、皆が優しくて、楽しかった。


 けど、〝せいふのくそやろう〟っていう人達が来て、変わってしまったんだ。

 いつもは夕方におじさん達と父さんの皆が、大声で笑いながら帰って来てた。

 けど、〝せいふのくそやろう〟の人たちが来てからは、皆暗くなってから溜息をして帰ってくる。


 子供だから、お仕事の事はよく分からない。

 父さんに聞いてみても「やってることは同じなんだけどな、……たくさん増えて大変になっちまったんだ」って笑いながら頭を撫でてくれた。

 でも、父さんの笑ってる顔は前と違う、同じ様に見えるけど何かが違う。

 だから、きっと嫌な事がいっぱい有るんだって思う。

 そんな顔は嫌だったけど、「がんばって」ってしか言えなくて、何故か僕は胸が苦しかった。


 そんな日が毎日続いてた。

 僕が起きた時、いつも起きてた父さんが寝たままで、起こそうと思って体に触ったらすごい熱かったんだ。

 だから、ビックリして母さんを呼んだけど、父さんは母さんが「やめて」言っても、笑いながら行っちゃった。


 そんな父さんが心配でこっそりついて行ったら、すごく怖かった。


 泥だらけになった、おじさんたちがずっと手で小麦を引き抜いて、倉庫まで運んでて(その中に父さんもいた)、躓いて転んだりすると銃を持った大人がその人を蹴飛ばして、ゲラゲラって笑って。

 父さんも何回も蹴られてて、痛そうで、僕は見てられなくって、飛び出して叫んだんだ。


「お、お前ら!! お前らなんて! 僕がやっつけてやる! せいふのくそやろう!!」


 皆がこっちを向いて、立っている大人たちが大声で笑った。体を折って、お腹を抱えて。悔しくて殴り掛かろうとしたけど、足で押し返されて逆に転んだ。


「ジョージ!! 俺の子に――ぐっ」

「……いいジョークだったよ坊や。こんな面白かったのは初めてだ」


 ニタニタと太った大人が歩いてきて、僕をでっかいロボットの前まで引っ張る。


「このでっかいロボットは、A.C.E.って名前でね? 私たちの中で一番強いんだ」


 それに合わせてロボットが腕を動かして、力こぶの真似をした。


「……つまりだ。これに勝てたら私たちをやっつける事が出来る。やってみるかい?」

「やめろジョージ!! 早く逃げろ!」

「チッ、うるさいな。じゃあこうしよう」

「父さん……!!」


 大人が腕を上げると父さんたちに向けて、他の大人が銃を向けた。


「君が戦わないで逃げたなら、お父さんたちが死んじゃうよ?」


 目の前のロボットを見上げる。体が大きかった僕の父さんが、四~五人くらい並んでちょうどの大きな真っ黒の機体。大きな一つカメラ。その下に大きな口みたいな絵が描いてある。でっかい手足は僕を簡単に潰してしまうだろう。


 でも、


「やめろ!! やめっ――」

「良いだろう。頑張っておいで」


 震える足で踏みだすとおじさんが背中を押す。

 恐いけど。

 恐いけど、皆を、父さんを助けなきゃいけない。

 おじさん達が蹴り飛ばされるのは間違っている。

 父さんが馬鹿にされるのは間違っている。

 それは、おかしい事だ。許されない事だ。


「うっ……うああああぁぁぁぁぁ!!」


 手をグーにして走る。ロボットもグーを出してくる。

 潰れて死んじゃうかも。

 思わず目をつぶったら、すごい音と風が吹いて僕はぐるぐると地面を転がった。


 縦なのか横なのか、分からないくらい転がって、体中が痛い。でも生きてる。

 周りには煙が一杯だけどみんな居るみたい。太った大人も銃を持った大人達も、父さんやおじさん達もみんな僕を見てた。

 あ、ちょっと違う。僕の後ろだった。


 気になったから僕も見てみた。ロボットだった。でもさっきと違う。カクカクしてて薄い緑色のロボット。

 土煙が舞い上がってる中で、そのロボットは腕を振った。そしたら、「うわぁぁ」って叫びながら〝せいふのくそやろう〟の大人達が、土と一緒に飛ばされて行った。


『――よう、坊主。待たせたな』


 その間に立ち上がっていた僕に、そのロボットは急に手を伸ばして、僕の肩をちょんちょん、って触ってそう言った。


 それは、僕たちをいじめる〝せいふのくそやろう〟なんかじゃない。

 僕たちを守ってくれる、強くて、かっこいい、ヒーローだったんだ。


 そのロボットは、後から来た仲間のロボットと一緒になってあっという間に、皆を、父さんを助けて僕たちを自由にしてくれた。

 その夜のパーティーで、ロボットから降りてきた人達――機動歩兵《パイロット》っていう人達――と、おじさん達が笑ったり、子供達と追い掛けっこして回ったり。少し前まで下を向いて、ため息をしながら歩いてた皆が、父さんと母さんが、思い切り笑っていたんだ。

 嫌な目に遭っている人達の所に、ロボットと一緒に行って、悪者をやっつけて皆を助けるヒーロー。

 僕は、あの人たちみたいになる。なって、皆を笑顔にする。


 そう、決めた。


 ――決めたんだ。




 ***




 人類が地球の庇護から自立を始めて幾百年。

 人類は太陽系を飛び出して別の銀河まで到達するに至った。

 そうして幾つもの銀河を跨ぐまでに広がった人類の生存圏。


 その一角〝辺境〟


 そう呼ばれる銀河は一つでは無い。

 その名は、象徴。

 知らぬ銀河にまだ見ぬ星の、眠る資源と痺れる冒険。その遥かな栄誉を掴むため、己が全てを賭け金に、人類未踏の勇敢へ、遥かな海へと漕ぎ出した、夢を求める人々の象徴。


 ある銀河でその辺境を統治する政府軍と、数々の惑星自治体から成る同盟との間で、複数の星系を跨ぐ戦争が起こっていた。


 原因は良くある様な話。


 組織と言うものは大きくなればなるほど、全体を見通す事が難しくなって、異常に気が付く事が出来なくなる。


 最初のうちは、ほんの少しの税の上昇。

 辺境はそれを中央に報告せずに、差額を懐に仕舞い込んだ。ほんの少しだったから、市民は不満を口から漏らすものの大きな混乱にはならなかった。


 次に始まったのは、鉱物資源、畜産資源などの買い占め。

 小銭で買い占められた資源は加工され、密輸のような形で銀河系の星々に高く売付けられていた。先に起こった税の上昇と、原料不足による生活物資等の値段高騰で、貧困が拡大した。


 最後、これが決定的だった。


 そうやって不満の集まっていた所に、一人の政府職員からあるデータのコピーが公開され、そこには政府上層部が市民に隠して行ってきた事が細かに書かれていた。

 自分たちは政府の私利私欲の為に困窮を強いられ、搾り取られていた事を知ったのだ。


 それは一瞬にして広がり、市民は各惑星でデモを始めた。それに辺境政府は力で応えた。

 抗う者は兵士の凶弾によって倒され、薬莢の散らばる赤黒い山河を築いた。

 泣く泣く膝を折った者は政府の管理の元で、備品として生き長らえていた。


 それが辺境政府と惑星市民同盟《ミリシャ》の戦争の始まりらしい。

 らしい、と曖昧な言い方をした理由は、始まったのが俺の生まれるずっと前だったからだ。そんな長期間戦争を出来ているのも、銀河中に星がたくさんあって資源に困らないからなんだそうだ。

 とにかく、そうやって始まった戦争で俺は今、機動歩兵《パイロット》として同盟で戦っている。


 自由の為に。家族の為に。


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